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24/28

シュタインランドの鉱山を救え

西側立体地図

挿絵(By みてみん)


シュタインランドから、鉱山に行くためには、ヴァルデン大河を登り、約一日。

後半は、ほぼ登山だそうだ。

ヴァルデン大河の上流には、左右に沢山の鉱山がある。

私たちが行くのは、オークションを落札したオジちゃんが保有する採掘場だ。

最大規模の採掘場と言われてる。


九月に入り、寒さも大分和らいでいた。

鉱山の方には未だ雪が残っていると言われている。

それでも、空にある太陽は元気さを取り戻しているように見えた。


レナさんは、セレニカーナ王国の調査業務に急遽赴くことになり、同行できなかった。

だから、エッジ・シーカーのパーティに、ゲオが案内役に付いただけの布陣だ。


大河を登る小型船は、自動機械を活用しているそうだ。

人力で漕げるオール付きの帆船だが、既に主要な推進力は魔石を活用した自動機械だ。

チャールズが、詳しく説明してくれた。

自動機械の一代産業化は女神に潰された。

でも、こうして色々な所で静かに自動機械は活用されている。

そう言うものだと思う。

女神が禁止しようが、人類は前にしか進めない生物なのだ。


大河に流れる水は、ウィンザーグローブの山々やヴァルデン山脈から雪解け水が集まったものだ。

流れは深く、速い。

それでも、透き通っていて、綺麗な水だった。


ふと思う。

こういう綺麗な水を収納しておけば、水が必要な時に役立つではないだろうか。

そう思って、綺麗な上澄みを小分けにして、沢山格納しておいた。

でも、今まで、急遽お水が必要なのに、手に入らないということはなかったな、とは思ったが。

念のためということであれば、火をそのまま収納しておくとか、お湯でも良いと思う。

余裕がある時にやっておこう。


山道は、想定よりも整備された道だった。

木や石を使って階段を作ってくれていたり、急な勾配はロープが張られたりしていた。

セレニカーナからヴァルデンに来るまでの雪山に比べると、全然楽だと思う。

しかも、土の子ゲオがさらに登りやすくするため、土で階段を生成してくれる。

雪道であろうとも、問題無かった。

仲間たちも、フローレンスでさえ、ちゃんとついてこれていた。


「ゲオ、鉱山で働く人たちは何処に拠点を置くの? 町からは通えないよね?」


「ああ、採掘場の近くに集合住宅が建てられているんだ。色んな箇所にあるが、この上のが一番大きいぞ。冬は誰もいないけどな」


なるほど。

この山道もそう多く使われる訳ではなさそうだ。


「採掘した鉱石はどうやって下ろすの?」


「それは、それ用のルートがある。トロッコに乗せるんだ」


理解。

いつかは、そのトロッコも自動機械になって、人間も上り下りできる鉄道みたいになるんだろう。

鉄道?

この世界に鉄道なんて無いよな。

これも前世の記憶かな。


夕方近くになって、集合住宅が立ち並ぶところまで、登りきった。

四時間の登山だ。

古いものから、新しいものまで、三階建ての集合住宅が、密集して建てられていた。


「よし、今日は集合住宅を借りて休もう。明日から調査だ」


土の子ゲオが、そう言ったが、みんな返事をしない。

私が開けた空間の切れ目から、次々と空間部屋に入っていった。

レオンが、まあ、いいから入れと、ゲオを押し込んで中に入っていった。

みんな、疲れてるから、余計な説明はしたくないのだ。


面倒な説明は、レオンに任せて、私は早速、姉とフローレンスとお風呂に入った。

三人で、足の筋肉を揉み合いっこして、身体も心も癒す。


姉がご飯を作ってくれる間、ゲオはチャールズと一緒に書庫の奥の自動馬車の所に行っていたようだ。

ダイニングテーブルで、美味しいご飯を食べている最中に、ゲオから不平不満をぶつけられた。


「『チート』って言葉って、この世界にもあるのかな」


「こっちでは聞いたことないけど、ララは分かるよ」


うんうんと皆が頷いている。

ここにいる人は全員理解しているようだ。


「終末の使徒だけ、チートの能力を与えられた。それは、女神にクレーム付けて良いやつだよな」


「あ、そう言えば、ゲオの頭の中の自動機械を取り除いてなかった。これまで、うるさくなかった?」


「ああ。でも、2回ほど無視したら、もう何も言ってこないぜ。んで、チートに関してはどうなんだよ? 話を逸らすなよ」


私はゲオの頭から小さな自動機械を取り出して、一応ゲオに確認させた。


「んー。この部屋のこと?」


「だけじゃなくてさ、空間の御技って、もうチートじゃん。こんなの敵わないじゃん」


「そうかな。ララとしては、マリーの時間魔法の方がチートだと思う。マリーが本気になってレベルを上げれば、ララは何も出来ない」


「うん。それは、私も同感ね。魔法のジャンルとしては、空間と時間ってトップ2だと思うけど、比較したら時間の方がヤバそうよね」


「あとは……、ララの肩を持つつもりではないですが、この空間魔法は前世からララが使えてた物です。この空間部屋が、それを証明しています。つまり、女神から与えられた能力じゃないってことですね」


「ああ、はい。フローレンス様とアストリッド様の仰っていることは理解しているのですが……。まぁ、もう止めておきます。自分が未熟なだけです」


姉に言われて、ゲオは急に丁寧な口調になって矛を収めた。



採掘場は思ったよりも大きなトンネルだった。

高さは優に十フィートはある。

オウルベアでも入れるような大きさだ。

周りは雪に覆われているが、トンネルの中は問題無さそう。

トロッコの線路が奥に向かって延びている。

大型の扇風機がトンネルの中に向けて、配備されていた。

トンネルの両側の壁には、定期的にライトが置かれている。


「ゲオ、この扇風機とライトは、どうやって稼働しているの?」


「ああ、両方とも魔獣の鉱石だよ。ライトは付けたいところだけオンにしよう。全部は面倒くさい」


「ララちゃん、扇風機のスイッチ入れる?」


「うん。その前に、土の子に結界を纏わせる。レオン、説明は頼んだ」


ゲオだけでなくて、全員の結界を再生成した。

空気の浸透を止める。

中は毒ガスなのだ。

そのままノコノコ入ったら、カナリアさんみたいになってしまう。

でも、結界内の酸素が尽きるのも困る。

顔の部分は余裕を持って大きな結界にしておこうか。

あ、違うかな。

有害物質だけ遮断して浸透させれば良いのか。

でも、毒ガスが何の成分なのか不明だな……。

酸素と二酸化炭素だけ浸透……。

トンネルの中が、二酸化炭素でいっぱいだと、終わるな。

酸素と二酸化炭素をそれぞれ一方通行にしよう。


「ララちゃん、どうした?」


「あ、みんなの結界を調整した。酸素は取り込む。二酸化炭素は排出する。それ以外は全て遮断する」


「マジか……、チート過ぎんだろ……」


もう誰もゲオの呟きに反応しない。

要は慣れの問題なのだ。


レオンとゲオが先頭でトンネルの中に足を踏み入れた。

レオンが前方の安全確認。

ゲオは壁のライトを点ける役みたいだ。

大型扇風機から送られてくる風が、私達の背中を押した。

私と姉、フローレンスが飛ばされない様に帽子を手で押さえた。


トンネルは緩やかに下っていた。

所々に採掘ができるエリアがある様だ。

トロッコの線路は何度か大きなカーブを曲がりながら、下へと続いていく。

十分は歩いたろう。

行き止まりが見えてきた。

終点は水溜まりが出来ていた。

それなりに深そうな水溜まりだが、

水に埋まって採掘が出来ないという問題は無さそうだ。


終点近くの採掘場には、鉄鉱石らしき物が転がっている。

魔力を広く展開するが、何も異常は見当たらない。


「鉄鉱石って、茶色なんだね。黒いかと思っていた」


「この辺では茶色か、少し黄色だな。赤鉄鉱(Hematite)って呼ぶんだ。少し光沢があるのが特徴だな。ヴァルデンの国旗の色は、この鉄鉱石の色だ」


「なるほど」


ゲオの話を聞きながらも、魔力を壁の奥にも広げて、調査する。

チャールズ、フローレンス、レオンも、色々なところを見て回っていた。


壁の中を調べていくと面白いことが分かってきた。

鉄鉱石の場所が、判別出来るようなった。

歩きながら、色んな壁の奥を診ていく。

掘り進めた方が良い場所も分かる。

随分と、無駄な場所を掘ってるんだな。

そっちじゃない、こっちだ、と独りごちた。


「キャー!」

「ウワッー!」


大きな叫び声を聞いて、振り向いた。

フローレンスとチャールズだ。

水溜まりに引き摺り込まれていた。

いや、違うな、水溜まりが起き上がって、二人を飲み込んでいるのだ。


ゲオが土の槍で、水溜まりに攻撃した。

ズボっと槍ごと飲み込まれるだけだ。

レオンが飛び込んで助けようとしている。


「レオン、ゲオ、離れる。二人を収納するよ」


姉が上の方から駆け寄ってきた。

レオンは下から私の方に駆け上がる。


フローレンスとチャールズは結界を纏っている。

それは決して破壊されない防御服だ。

大丈夫。

少し距離があったので、時間がかかったが、二人を魔力で捉えた。

収納して、私の前に横たえる。


「うぇ。泥だらけ、ヘドロまみれだ、汚ね」


「ちょっと、ララ! 取って! この気持ち悪いヘドロを取って!」


「ララちゃん、フローレンスの次で良いから……、僕も頼むよ」


ペトロの中から声がする。

いや、ヘドロから顔だけが覗いているみたいで気持ち悪い。


「ララ、二人を空間部屋に、お風呂に入れましょう」


「アス姉、大丈夫だよ。汚れているのは結界だけ。それに、このまま、部屋に入れるのは嫌」


空間魔法を解除したら、どうなるんだろ。

やはり、結界だけが除去されるから、ヘドロが洋服や皮膚に付いちゃうのかな。

あ、ダメだな、そんなことしたら、有毒ガスで死んじゃう。


ああ、これが神の導きか……。

ヘドロを洗い流す物を持っているじゃないか。

先ほど、大河で大量の水をゲットしたばかりだ。

すごく、ご都合主義な展開だけど、別にこの為に確保した訳じゃない。

と、一応言っておく。


姉とレオンに声かけて、少し距離を開けた。

二人の真上から、水をかける。

ドバっと、沢山かけて洗い流した。


「うん、これで綺麗になった」


「ララ、今すぐお風呂に行きたいわ」


「フローレンス、汚れてないよ。結界だけが汚れた」


それでも、ブーブー言うフローレンスは無視して、最奥の水溜まりの方を見た。

ゲオが水溜まりを土壁で覆っていた。

土壁を何かが叩く音がしている。

あのヘドロはやっぱ生物なのかな。

明らかに、二人を食べようとしていた。


「ゲオ、ありがと。私の透明結界に変えよう。土壁解除していいよ」


「オッケー」


ゲオが土壁を解除した。

私の結界にペシペシとヘドロが当たり、汚れていく。

視界が少し悪くなったが、中の様子は良く分かった。


やはり、ヘドロの生物だ。

身体は、黒い粘液状で不安定な形だ。

体の一部を伸ばして移動し、次第に元の形に戻るという動き方、つまりアメーバみたいな生き物なのだろう。

顔も目も口もない。

起き上がっているので、6フィートくらいはあるが、流動的な質感だから、実際の体積がどれくらいかは不明。


「ララ、これは、スラッジスター(Sludgester)って魔獣だと思う」


「スラッジスター? 有名なの?」


「オウルベアと同じように、伝説上の存在だな。俺も始めてみたし……」


「よし、じゃあ、捕まえてオークションだね」


「いやいや、こんなの欲しいやついないよ。素材はヘドロだぜ」


「コイツが、毒ガス出すのかな」


「そうじゃないかな……」


ゲオとそんな話をしていたら、後ろから、フローレンスに声をかけられた。


「ララ、腐敗した有機物からは、メタンや硫化水素が生成されるわ。そのヘドロの魔獣が出しているのは、おそらくそれよ。凄い危険な有毒ガスよ」


「とりあえず、換気するか。ゲオ、地上まで穴を開けられる?」


「いやいや、鉱山だぜ。土じゃなくて、鉄鉱石が混じっているんだぜ。土魔法じゃ無理だよ」


「うーん。土と成分は異なるけど、鉄鉱石って特別な成分が集積しただけでしょ。多分、問題ないよ。練習しな。これから、ヴァルデンでは必要になるよ。まずはララがやる」


姉やフローレンスと、換気用のダクトの大きさを相談した。

直径1フィート程度の穴を開ければ、トンネルの入り口の扇風機から送られる風の逃げ道になるだろうと結論付けた。

最も地上に近い角度と方向を調整して、水たまりの天井近くの壁から、斜め上に向けてダクトを作る。

魔力を真っすぐ広げて、丸い直線の穴を地上まで開けた。


「凄い音がしているわ。ララ、多分、良い換気になっていると思うわよ」


「ララちゃん、ダクトの地上部に、逆向きの扇風機を埋め込むように、言っておくよ。そうすれば、さらに良い換気孔になるはずだ」


「そうだね。そうしよう」


スラッジスターなる魔獣を収納した。

あとは、これで問題解決として良いのかだ。


「これ、もう大丈夫だって、どうやって確認しようか……」


「そうね。結界解除して息を吸ったらダメでしたってなるのは嫌よ」


「わたしがやるわ。これもパーティリーダーとしての責任よ」


「いや、アス姉さんがやるのなら、俺がやります」


「ちょっと待ってくれ。ここは俺の国。俺の都市だ。特別部隊の隊長の息子として、協力者を危険にさらす訳にはいかない。俺がやる。アストリッド様もレオンも、俺にやらせてくれ」


「わかった。土の子ゲオ。偉い子。でも、一時間ほど待とう。今、排気ダクトが頑張ってくれているから、もう少し様子見しよう」


時間が空いたので、先ほど気になっていたことを検証してみることにした。

もう一度、周囲の壁の中に魔力を浸透させながら、一番鉱石が多いところを探っていく。

高さは六フィートくらい。

奥行きは、五十フィートくらいかな。

そのエリアに含まれる鉱石だけを特定して収納した。


ガラガラ!

凄い音がして、崩れてしまった。

鉱石を取り出すと、こうやって崩れるのか。

大きな穴が開いてしまった。


「ちょっと! ララちゃん! 何やっちゃったの?」


「うう……。もう一つ、トンネルが出来てしまった」


「お前……」


「ゲオ、でも、面白い鉱石見つけた。これは何?」


収納した鉱石を取り出した。

魔力反応で、赤鉄鉱とは、全く異なる鉱石が沢山あったのだ。

取り出してみると、その違いは良く分かる。

金色で、金属光沢がある。

石自体は白に近い灰色で、金色が斑状に含まれているので綺麗だ。

黄銅鉱(Chalcopyrite)って方かな。


みんながゴロゴロ転がっている、新しい鉱石をシゲシゲと眺めている。

ゲオは真剣な顔で見ていた。


「おい……、ダブルオーワンよ。お前、また、偉いことやっちまったな……」


「うえ、ゲオ、その呼び方やめて、怖いよ」


「これさ……、多分、金鉱石(Gold ore)だよ。黄銅鉱じゃない。これは大人たちに見せないとダメだ」


「マジ、結構いっぱいあるんだけど」


私は魔力を広げて見つけた方を指差した。

皆が首を振って、溜息をついている。

レオンだけが笑っていた。



土の子ゲオの勇気ある行動によって、坑道内の有毒ガスの排出方法が確立された。

あとは、なるべく多くのトンネルを元に戻すことだ。


ゲオと姉で、スケジュールを経てた。

地図上に有毒ガスで廃棄されたトンネルに印を付けていく。


作業的にはシンプルだ。

トンネルの中に入る。

スラッジスターがいたら、収納魔法で除去する。

排気ダクトを開けて、毒ガスを排出する。

それだけだ。


フローレンスとチャールズは、書庫でヘドロの除去の仕方を調べ始めた。

私達がヴァルデン共和国を離れた後、また出現したら、彼らだけで倒さなくてはならない。

その討伐方法を探っておくべきなのは確かだ。


トンネルのお掃除は、私と姉だけで行った。

ゲオとレオンは別行動だ。

彼らは、スラッジスターの発生源を探しに山に入ったのだ。

私達も、山にある色々な坑道まで、歩いて行かないといけない。

その移動時間の方が時間を要した。


ゲオ達が発生源に当たりをつけたのは、改めて地図に印を付けて、分かったことがあったからだ。

地図を見ると、毒ガスが発生している坑道に偏りが見られた。

自然に発生する生物とは思えない。

どこかに巣があり、そこから這い出て、トンネルに入って来るのではないかと考えた。


私達の仕事は十日に渡ったが、最初に成果を出したのは、フローレンス達だ。

まず薬品によるヘドロの除去を考案した。

重曹とクエン酸による化学除去だ。


空間部屋の重曹とフルーツで検証した。

スラッジスターにかけると、沸々と泡が立ち、穴が空いた。

大成功だと思う。

フローレンスとチャールズが仲良さそうに抱き合って喜んでいた。

大変、微笑ましいものを拝見させて頂きました。


ただ、私達は重曹の在庫をそこまで多く持っていない。

科学除去の実証はここまでとして、レポートを提出しておくに留めた。


私達は、フローレンスとチャールズ考案の、もう一つの手を試すことにした。

それは、有毒ガスを使った燃焼除去だ。


収納魔法による火種の確保。

今後、使うかもしれないことも考えて、燃える木材を沢山収納した。


坑道内の壁が延焼してしまうことも考えられる。

小さめのトンネルを選び、四人で潜った。

私、姉、フローレンスとチャールズだ。

一番奥の水溜まりが見えるところまで進み、離れたところから、火種を結界に入れて取り出した。

スラッジスターの真上で、結界を解除して火を着ける。


大爆発した。

念のために、私達の周りに結界をもう一つ作っておいて良かった。

炎で包まれるとは思っていたけど、まさかの大崩壊だ。

地盤が揺れて、トンネルは崩壊した。


「まさか……。また、瓦礫に埋もれるとは思わなかったよ……」

「うん……。凄かったね。セレニティアの教会の時より怖かったわ……」

「爆発音で、わたしの耳がキンキン言っているもの」

「失敗したな……。換気口作って、ちょっとガスを抜いてからじゃないとダメだった」


一番、地上が近そうな方向に向けて、収納魔法で出口を作った。

ついでに鉱石を回収していく。

坑道一つ潰しちゃったけど、かなり多くの鉱石をゲットしたので許して欲しい。

許してくれるかな。

金色もあるよ。


山の中腹に出て、トンネルの入口だったところまで戻ると、レオンとゲオがいた。

二人とも、懸命にトンネルがあった場所を掘り返していたよ。

大変、申し訳ない。


勿論、滅茶苦茶怒られた。

山が揺れるほどの地震だったそうだ。

慌てて、山を駆け下りてきたら、トンネルが崩壊している。

血の気が引いたと言っていたよ。


その後は、チャールズが言った通り、先に換気口を作ってから燃焼除去した。

換気口を作っている間、スラッジスターは結界で囲っておく。

そのまま収納しちゃえば良いんだけど、売れもしないヘドロを私の空間に沢山置いておくのは嫌だ。

遠慮なく燃焼除去させてもらった。

そのうち、空間結界で囲った中で燃焼除去すれば良いという、当たり前のやり方に気づくのだけど、もう殆どのトンネル掃除が終わっていた間際のことだった。



最終日は、レオンとゲオが見つけて来たスラッジスターの巣、発生源の除去をやった。

山の上の方の窪地に、沼があったそうだ。

ヘドロの沼なので、おそらく、そうであろうと。

試しにウサギを捕まえて沼の近くに置いたら、ヘドロに飲み込まれたそうだ。

大変、申し訳ない。ウサギさん。


五時間ほど要して、山の上に登り、沼地に辿り着いた。

水溜りの延長だと思っていたけど、結構大きな沼だった。

何か息をしているようで、沼がポコポコ泡を出している。


「燃やしちゃうんだよね」


「ああ、ここならば、崩壊はしないからな」


「了解。多分、火が回って来ちゃうから、もう一つ結界で囲むね」


皆が私の周りに近づいてくる。

姉とフローレンスが私の腕を組んで、身体を寄せてきた。

皆が身を寄せ合うように集まってきたところで、結界を張った。

みんな怖いのか、満員電車みたいにギュウギュウになっているよ。


時間をかけて、魔力をなるべく遠くまで展開させる。

沼の中央辺りで、小さな結界を作り、その中に火種を置いた。


「じゃあ、みんな、燃やすよ」


結界を解除する。

大爆発した。


私達を囲む結界の周囲が、火や色々なものが吹き荒れて、何も見えなくなる。

大爆発で、耳はもう聞こえない。


結界が傾いて、坂道を転がった。

多分、私達の下の地面が崩落したのだろう。


(キャー!)


と叫び声を上げてしまった。

多分、両脇からも同じ様な今際の叫び声が上がっているのだろうけど、全然聞こえないよ。

ただただ、抱きしめ合いながら、転がっていった。


崩落する土砂と一緒に、ズゥーっと山を滑り、途中、何度かゴロゴロと転がった。

最大級ジェットコースターのように、何度も胃がせり上がった。

それも長い長いジェットコースターだ。

最後は大河にドボンと落ちて、高い水飛沫が上がる。

大河の水のお陰で、結界に付着していた泥が全て流されていった。


(結界って、沈まないんだ。中途半端に浮くんだな)


目が回る視界で、そんなことを考えた。

深く早い大河に、結界ごと流されながら、どうでも良いことを考えた。


やがて、結界内に回復魔法が広がり、身体が楽になった。

何度も回復魔法がかけられる。

結界内が、癒しの魔力で満たされた。


「あーあー、耳が聞こえる! フローレンス、ありがとう」


「いいえ……。また、誰も経験したことが無い体験が出来て私も嬉しいわ」


「理性では絶対壊れない結界の中だと分かってるんだけど、感情がそれを否定する……。はぁ、物凄い恐怖体験だったわ」


姉の言葉に全員が頷く。


「俺……、また気絶するかと思った……」


「ゲオ、白目向いてたぜ」


そんな話で盛り上がって来た。

皆、少しずつ落ち着いてきたみたいだ。

回復魔法の効果もあって、縮こまっていた筋肉が解れた。

皆が背筋を伸ばして、身体を大きく広げた。


「ララちゃん、このまま、シュタインランドまで、こうやって流されていくの?」


「うん……。少なくとも結界には推進力がないからね……。何処かに辿り着くのを祈る」


「ねぇ、ララ、海まで流されちゃうってことはある?」


「うっ……」


全員の身体が明らかに萎んだ。

皆が肩を落とす。

みんな、わかるよ。

凄くありそうな気がする。


大河の流れに乗りつつ、色々試してみた。

結界の外に空間ボールを作りだし、それを私達の結界にぶつけることで、少し方向は動かせるみたいだ。

でも、大した勢いは付かない。

前方の水を沢山収納することで、一時的に加速する。

後方に水を排出することで、少し押し出される。

その辺を組み合わせながら、岸の方に少しずつ寄せた。


「でも、きっと謝るのは、わたしよね……」


「アス姉? 何を? 誰に?」


「坑道を一つ潰しちゃった上に、山で大きな土砂崩れを起こしたわ……」


「いや、アストリッド様、全く問題ございません。スラッジスターを全て討伐したのです。褒められこそすれ、怒る人はヴァルデン共和国にはおりません」


良い人、土の子ゲオが、姉にそう言ってくれていた。

あとは、沢山鉱石をゲットしたのだ。

これでお支払いすれば、弁償代金くらいにはなるだろう。

金色もあるよ。


プカプカ浮いている結界から、大河の下流に大きな都市が見えてきた。

河を登るのは大変だが、下るのはアッと言う間だ。

大河の水が結界に当たって弾ける。

そこに太陽の日差しが当たり反射して綺麗だ。


「ははは……」


チャールズが笑い出した。


「山で大爆発、土砂崩れと一緒に大河まで流されて……、最後は大河をこうやって浮かんで帰るんだぜ。僕たちって、やべーパーティだよね」


「チャック、あなた土砂崩れの時、鼻水垂らして何か叫んでいたわよ、私は聞こえなかったけど」


「鼻水垂らしてねーし! フローレンス、アス姉にしがみついていただけじゃん! 絶対見えてないよ!」


「いや、ヨダレが流れるのも、この目で見たわ。すげー、ネバついていて汚らしかった」


そんなバカップルの掛け合い漫才を聞いているうちに、姉が、レオンが、ゲオまで笑い出した。

この常識を超越した環境を、客観的に考えると、喜劇にしか見えない。

皆で馬鹿笑いしながら、私達は大河を、どんぶらこと流されながら帰還した。

狭い結界に、皆の笑い声が満ちていた。



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