森の魔獣オウルベア
チャールズとレオンはすぐ仲良くなった。
同世代の男性同士の仲間だ。
チャールズが先輩風を吹かせていた。
こういうところは、片目剣士のオジちゃんに良く似ていると思う。
自分の部屋をレオンに受け渡し、自分はオジちゃんの部屋に引っ越した。
何となく、オジちゃんの部屋に他人が入るのは嫌だったのだろう。
レナさんにはフローレンスの部屋を貸した。
姉妹三人で、ララの部屋で抱き合って寝るのだ。
それが良い。
レナさんは案の定、書庫が気に入ったようだ。
もう話をしていても上の空で、書庫に入り浸りたいと思っているのが伝わってきた。
「レナさん、旅の間、ずっと読めますわよ」
「そ、そうね……。でも、どこまで公表しても良いのか……。この部屋の中のことは誰にも言わない方が良いかも」
「うん。それが良いと思う。この世界には過ぎた情報と技術」
「そう思うと、自分のためにと割り切って読めるわ。任務だと思うと国に役立つ本を選んじゃうけど、個人的趣味に思いっきり舵を切りたい気持ちなのよ」
「うん。そうしなよ。肩の力を抜いて、本は楽しむべき」
「あとはあれね……。あのお風呂を知ってしまうと、宿屋で泊るモチベーションが落ちるわ。今後の任務に差し障るのが明らかよ」
※
フィオレンティアの街に入る前に、私とチャールズは黒髪に染めた。
レナさんが変装用で持っていた髪染めの中から、私達は黒を選んだ。
私、チャールズ、レオンが並ぶと何となく兄妹に思える。
チャールズとレオンは背格好も顔立ちも雰囲気も良く似ていた。
チャールズの方が彫が深いイケメンだ。
レオンの方が東の国の純朴な顔立ちをしている。
でも、眉毛や目元が兄弟で通じるくらい、良く似ていた。
「チャールズさんとフローレンスさんが結婚して女の子を産めば、きっとララさんに似た子が生まれそうですね」
「え? 嫌よ。こんなチャラ男と結婚したくないわ」
「うん。ララも、こんなお父さんは嫌」
「出たよ。聞いたか? レオンよ。こうして、女子はタッグを組んでイジメてくるんだ。一緒に闘おうな」
「え? 俺? 俺はララ様とアストリッド様の味方なんだけど……」
「マジ? レオンって、そういう感じ?」
街の関所では帽子も脱いで、黒髪の男の子風に装って通過した。
『ララ・スティエルナ』の冒険者カードで何の問題も無かった。
彼らが捜しているのは、金髪碧眼二人と銀髪二人と大使のパーティなのだろう。
エッジ・シーカーの構成員が知られている訳ではない。
冒険者組合も個人情報は守り抜くという事だろう。
「森の人たちは、お馬さんに乗って移動しないの?」
「そうよ。私達はね、走るのよ」
「え? 走るの? ずっと?」
「そうよ。毎日走って移動する。馬よりも速いのよ。さすがに馬が走ったら追いつかないけどね」
「だから、レナさん、いっぱい食べるのに細いのか。アス姉よりも細いもんね。アス姉はちょっとしか食べないのに不思議だったんだよ」
「人を大食いみたいに言わないで。あれはアストリッド様の食事が美味しいからよ」
「いや、実際に大食いですよ。僕と同じくらい、二人とも食べていましたよ」
ニコっとレナさんに微笑まれて、チャールズは口を閉じた。
レオンにマントを引っ張られて、余計なことを言うなと制止されている。
私達は街で最も高級な宿屋にチェックインした後、まずは市場に行った。
アス姉に渡されたメモを片手に、私とチャールズで食材を大量に買い込んだ。
念のため、半年分を買っておいてくれと姉に言われているので、殆ど業者の様な買い方だ。
まぁ、収納魔法でしまっておけば、新鮮なままだし。
宿屋の大きな倉庫を借り受けたので、そこに搬入してもらった。
野菜、果物、お肉、穀物……。
何だか買い占めているみたいで申し訳ない。
森の人コンビは、他の物を買いに別行動だ。
今日のうちに、ある程度終わらせると聞いている。
フィオレンティアの街はセレニティアの街以上に、洗練されていた。
何よりも色遣いが上手だ。
地区ごとに、メインカラー、サブカラー、アクセントカラーが決められている。
その比率も6対3対1と決められているそうだ。
何かの舞台セットみたいだし、何よりもどこに行っても心地が良い。
姉とフローレンスに見せてあげたいと思った。
その彩り豊かな街が、雪化粧で輝いている。
雪ですら舞台効果として機能していた。
カウニアのネリスを思い出した。
あそこは、雪も自然の一部だった。
土、空、山、森。その一環として雪があった。
フィオレンティアの街の雪は、街を彩るデザインの一部。
意図的なアクセントに使われている感じがする。
同じ雪なのに。
自然自体を自然そのままの形で受け入れる必要もないのだ。
これも、人間の知恵だと思う。
市場の人たちも底抜けに明るかった。
「お嬢ちゃんだよね? まぁ坊ちゃんでも可愛いのは変わらないよ! 可愛いは正義だ!」
そう言いながら、お釣りを渡してきたりするのだ。
女の子を見たら、褒めずにいられないのだろう。
チャールズでさえも、気圧されているのが笑えた。
「ワインが多いね」
「街の特産品なんだろうね」
「チャック、箱買いして。一番高いやつを」
「え、ああ、大人も増えたしな。高い方から色々種類を分けて買おう」
「じゃ、複数種類で箱を爆買いだ」
ワインが多いということは、美味しい果物も豊富ということだ。
ベリー系を中心に沢山買っておいた。
市場を何往復かしてから、北にある宿屋まで戻った。
北東の方には、大きなお城と教会が見えた。
二つとも、真っ白な塔を持っていた。
セレニティアは子供の様な活発さと若さが。
フィオレンティアは落ち着いた大人の女性を思わせる街だった。
※
「トナカイは6頭買ったわ。宿の馬房に預けています。スキー板、ソリ、トナカイの餌も倉庫に届けて貰った。あとは雪用の装備。明日、長靴とかを買い揃えようと思います。皆さんのサイズを抑えないとですね」
「レナさん、空間結界で纏うから、雪用の装備は要らなくない?」
実感してもらった方が早いだろうと思い、森の二人にも結界を纏わせた。
二人とも自分をペタペタ触って確認している。
「これは……、ひょっとして、寒さも通さないい?」
「うん。水も通さないから、雪も入らないよ」
「うう……。無敵の空間魔法。ララさん、靴の部分をこんな形に出来ますか?」
レナさんは手帳に、絵を描いた。
靴につける物だろうか。
平たい板を付けて、裏側は剣みたいに刺さる様にする。
雪に埋まらない様に、雪道でも滑らない様にするのか。
「出来るよ。そこだけ固くしないとだね」
身体に纏う結界とは別の結界を作った。
分かりやすくするために、曇りガラスにして、レナさんの足に付ける。
「あぁ、これはひょっとして、スキー板も不要だった気がしてきた」
「師匠、ひょっとしてソリすらも不要では?」
「うん……。ま、ララさんの無限空間にしまっておけば良いのです。よしとしましょう」
防寒対策も雪対策も不要ということで、今日の夜に教会に忍び込んで、明日の朝には街を離れることになった。
レナさんとレオンは鍵の開錠もお手のものだった。
透明魔法をかけて、教会の裏口から忍び込んだ。
後はいつも通りのやり方だ。
誰にも見つからずに、宿屋に戻った。
※
翌朝、倉庫にある物を品物別に収納した。
レナさんは大きな荷物が乗る幌付き荷馬車を買い、トナカイに轢かせて街を出た。
流石に大人買いした冒険者パーティが、手ブラで帰るのはマズイ。
念には念を入れていた。
街の南の出口から出たが、すぐに進路を変えて北上する。
街をぐるっと回って、北へ街道を進んだ。
しばらくすると、西に分岐する道があるそうだ。
今日は一日中トナカイさんに頑張ってもらうとレナさんは言っていた。
男子二人は荷物席に乗った。
私はレナさんと御者席に座って、トナカイさんの操作の仕方を学んだ。
三頭で轢いてる間は、三頭は休ませる。
この辺りは、街道も雪道なので、トナカイでないと馬車も轢けないそうだ。
「本当に寒くないわ。中のセーターを脱げばよかったわ」
「山道は歩きなんだよね? 汗をかきそうだからね。それこそ半袖で良いかも」
「ふふ。もし人に見られたら、驚愕されるけどね。まあ、熊や鹿しか見る子はいないわ」
翌日からは、本格的な登山になった。
大使とフローレンスは、部屋に籠ると宣言した。
チャールズは当然、登山組である。
何を期待した目で私を見てるんだ。
私が歩くのだ。
当たり前である。
ただ、登山を始めて、現実を知った。
もちろん、登山用に雪に埋もれない、滑らない装備を付けている。
それでも、大変なのだ。
森の二人組は流石だった。
ずっと続く急な山道を淡々と登っていく。
チャールズは彼らについて行けていた。
でも、私と姉は、死にそうになっていた。
登り始めて二時間で、足腰がヤバくなった。
四時間で立てなくなった。
私が前に進まないとパーティが前に進まない。
姉に、部屋で休んでいても良いと言ったのだが、首を縦に振らなかった。
最後にはチャールズもダウン寸前だったが、頑張る姉を見て、弱音を吐くのは控えたみたいだ。
「今日はこの辺にしておきましょう。あと二日は登り。それ以降は登ったり下ったりよ」
私は地べたに座り込みながら、空間に裂け目を作った。
チャールズが倒れ込むように、いの一番に中に転がり込み、
レオンは姉を心配しながら担いで、裂け目から入っていった。
その違い、しかとこの目で見た。
姉と早々にお風呂に入った。
二人で抱き着くように、湯船に浸かった。
「雪の登山ってヤバイね……」
「うん。ふくらはぎが痙攣しているわ……」
「フローレンスにタップリ回復魔法を注いでもらおう」
「そうね。でも、ご飯作らないと」
「そんなのフローレンスと大使にやらせよう」
「うっ。よりによって、一番頼りない二人」
「ははは、間違いない。アス姉、無理しなくて良いのに」
「ララ、わたしを、妹にだけ辛い思いをさせる姉にさせないで。全てを半分こするのよ。喜びも悲しみも辛さも楽しさも」
「分かったよ……。アス姉大好き」
「ララ、そう言って、胸を揉まないで」
豊かな胸の代わりに、薄いふくらはぎを揉んであげた。
回復効果のある湯舟だ。
ここで揉み解せば明日には楽になるだろう。
たっぷり湯船に浸かって出たら、夕食が出来がっていた。
レナさん作である。
「すみません。レナさん、わたしがやるのに」
「良いのよ。たまには。今日明日は大変だからね。二日頑張れば身体が慣れるわ。さ、私の男飯を皆で食べましょう」
※
翌日は大使とフローレンスも強制参加させた。
一日くらいは、雪山を味わうべきだ。
様々な経験が人生を豊かにする。
間違いない。
別に、私が悔しかった訳ではない。
「私は、医学の勉学に励むのが、パーティのためだと思うのよ」
フローレンスはずっとブーブー言っていた。
でも、それも最初の一時間だけだ。
その後は、口も利けないほど、ヘトヘトになっていた。
昨日の湯舟と回復魔法が効いたのか、私は昨日より楽に登れた。
姉もそうだ。
大使を気遣いながら、登っていた。
「皆さん、二百フィート先に鹿の親子です。珍しいから是非見てください」
レオンからそう言われて、息をひそめて指さす方向を見た。
大きな角を持っているのが牡鹿だろう。
あの可愛いのが雌鹿と子鹿だ。
始めてみた。
雪の森に住む鹿の家族。
凄く幻想的な風景だと思う。
こっちに気づいたようで、すぐに逃げて行ってしまった。
「森に詳しい私達でも、滅多には見られません。皆さんの日頃の行いが良いのでしょうね」
レナさんにそう言われた。
「この山には鹿の他には熊ですか?」
「他にウサギやウルフ系もいます。熊も数種類。ヒグマも危険ですが、グリズリーやオウルベアは遭遇したら、逃げることも困難です。レオンが先に斥候しているので、まず遭遇しませんが」
そうか。レオンかレナさんのどちらかが先に進むのは、そういう理由からか。
グリズリーは三メートル近い巨大熊で、一級冒険者や二級冒険者が沢山揃ったパーティでないと、討伐できないという。
その分、討伐した時の素材は高額で、一攫千金を夢見た冒険者が後を絶たないらしい。
オウルベアは、さらに狂暴な魔獣だと言う。
夜間でも苦にしないフクロウの目を持つと言われている。
人間の肉の味を好むらしく、向こうから人の匂いを察知して近づいてくる。
ヴァルデンの街が、全て外壁に覆われているのは、山からオウルベアが出てきた時の対策だそうだ。
「オウルベアを狙う冒険者はいないの?」
「過去何度か討伐した記録はあるらしいけど、まあ、倒せないでしょうね。遭遇したら、速攻で空間部屋に逃げ込むわよ」
「うーん。遭遇したら、ちゃんと眺めてから逃げよう。結界で皆を囲うから、じっくり眺める余裕あると思うよ」
「いいね! 僕も見てみたいよ。一生の自慢になるじゃん」
「チャールズ、そういうことを言うと、絶対に遭遇しちゃうのよ。そういうものなのよ……」
「ほら、チャールズ、余計な事を言うから、お姉様の直感が働いちゃうじゃない。私は危険なのは嫌よ。空間部屋に早々に退避する」
二日目は、峠の上まで登って終了となった。
後ろを振り返ると、遠くにセレニカーナの街並みが、かすかに見える。
進む先には、さらに高い雪の山々が見えた。
明日はあれに登るのか……。
流石にウンザリとしてきた。
大使とフローレンスは無様な姿を晒していた。
あられも無い姿で、雪の上に寝転がっている。
姉は誇らしげに、来た道を振り返っていた。
こうやって、たまに振り返って、自分がやり遂げた成果を確認すれば、また頑張れる。
そういうものだ。
※
三日目。
大使は、老体には無理よと言って、お留守番になった。
意外にもフローレンスは参加すると言った。
「回復魔法の良い練習だわ」
そう言っていたが、それは間違いない。
途中で回復魔法をかけてもらうだけで、全然違うのだ。
私も姉もその効果を実感した。
お馬さんの気持ちが分かった。
フローレンスは自分自身に、一番沢山かけているのだけど。
フラグというものは回収するためにある。
ちゃんと、私達は昨日のフラグを回収した。
もちろん、オウルベアとの遭遇である。
斥候役のレオンが物凄い勢いで戻ってきた。
「間違いない。師匠、オウルベアだ。木々を薙ぎ倒して、こっちに向かっている」
「おかしいわね……。結界で人間の匂いがしないはずなのに」
「魔力かな……。あの盲目の剣士はララの魔力を辿ってきていた」
「それだわ。ララ、空間部屋を開けて。退避よ」
「まずは空間結界を張ろう。どんな魔獣か見てみたい」
「ちょっと、ララ!」
「一応、裂け目作っておくから。怖い人は部屋に入るべし」
姉は残るようだ。
レオンの背中を掴んで、覗くように前を見ている。
フローレンスもそれを見て残ることを決意したようだ。
チャールズのマントを引っ張って、自分の前に立たせた。
賢い。
生贄作戦だ。
「き、来たわね……、デカい。私も初めて見るわ」
「師匠、人類で見て生き残った人はいるのでしょうか」
「討伐したパーティくらいかしら……、他は食べられているでしょうからね」
巨大な熊。
いや、熊みたいに見えるイノシシか?
ゴリラの様にも見える。
ドンドンと胸を鳴らして、木々を薙ぎ倒して走ってきた。
突進か。
ドン!
結界が揺れた。
キャーとフローレンスの叫び声が聞こえる。
皆が身体を強張らせた。
「はは。どうだ。オウルベアよ。ララの結界は頑丈だぞ」
体当たりしたはずなのに、何かにぶつかって戸惑っている。
そのうちに、怒りだして、結界をガンガン殴りつけて来た。
ビリビリと結界から音がする。
「ララちゃん、これ、壊れないよね」
「うん。一応、魔力を足しておいた。大丈夫な、はず……」
「ちょっと! ララちゃん! そこは自信持ってよ」
「凄いですね。師匠、爪は鋼鉄みたいです」
「牙もよ。歯ですら普通の歯じゃないわ」
レナさんは手帳にオウルベアの絵を描いていた。
確かに、これも貴重な情報なのは間違いない。
オウルベアはムキになって、その場で結界をガンガンと殴りつけていた。
あれ?
ここまで同じ場所に立ち止まってくれるのなら、収納できちゃうんじゃないのかな。
思いついたように、魔力を展開して、オウルベアを囲った。
この距離でも三秒かかった。
「えい!」
「あ? 消えた?」
「ララちゃん……、まさか」
「出来ちゃった。オウルベアをゲットだぜ!」
「マジで? ララさん、収納したの?」
「うん。出来ちゃった」
「ララ、出すときはどうするの? ミイラ魔法?」
「フローレンスさん、ミイラ魔法って何ですか?」
「ララの収納魔法は時を止めたり、早めたり出来るのです。オウルベアを収納した空間を百年経過させれば、ミイラになって取り出せます」
「え? 滅多に討伐されない魔獣よ。素材も超高額よ。ミイラは勿体ないわ」
「うーん。じゃあ、窒息させようか。ちょっと待って」
まず自分たちの結界を解除した。
オウルベアを出すための結界を新たに作る。
分かりやすいように、少し色を付けた。
そこにオウルベアを出した。
うわ、メッチャ暴れとるがな。
そして、空気を抜く……。
「凄い暴れているけど……」
「うん。結界の空気を抜いた」
「残酷魔法ね。新しい魔法」
「いや、フロ、ただの結界魔法だから」
五分で動かなくなった。
でも怖いから、さらに数分待つ。
「ララ、診断魔法をかけたわ。もう死んでいる。心臓が止まっているわ。あと、例の変な臓器がある。心臓の横」
オウルベアの結界を解除した。
レナさんとレオンが直ぐに近づいて、爪を触ったりして調べている。
手帳の書き込みがドンドン増えていった。
私はフローレンスに言われた通り、診断魔法で体内を調べた。
フローレンスが言った臓器は直ぐに分かった。
大人のコブシ大より大きい。
赤ちゃんの頭くらいはあるかもしれない。
大きな石だ。
「フローレンス、これ、魔石じゃないかな。魔力が詰まっているよ」
「魔石って……。私達にもあるこれ?」
選ばれし使徒の特徴なのか、魔法使いの特徴なのか。
その辺はもう少し検証が必要なのだが、私、フローレンス、チャールズには同じような体内臓器がある。
ちなみにレオンにあるが、レナさんや姉にはない。
「取り出してみちゃう?」
「そ、そうね……。どうする? 空間部屋からバケツに水を汲んでこようか?」
「うん。ベチャベチャしちゃうのは嫌だよね」
「わかった。チャック、バケツに水を汲んできて」
「え? 僕? まあ、分かったよ」
チャールズがバケツに水を汲んで戻ってきた。
その裂け目から、大使も出てきたようだ。
姉から説明を聞いて、また驚いている。
「じゃあ、フローレンス、行くよ」
私はバケツの中にオウルベアの魔石を取り出した。
大きい石だ。
鉱石みたいだ。
黒地に白。白い部分が少し輝いているように見えた。
「ララ、これって、書庫のガラクタ置き場に転がっているエネルギー鉱石と同じかな」
「うん。魔力が詰まっているのは同じ。だけど、あれはもっと全然大きいよ」
ガラクタ置き場には、エネルギー鉱石と私達が呼んでいる大きな鉱石が粗雑に転がっている。
十個ほどあったはずだ。
どれも2フィートから3フィートある大きなものだ。
「少し調査してみたいわね。書庫に情報が残っていないかしら。私、探してみるわ。チャック、この魔石洗っておいて」
まるで従者の様にフローレンスに使われていた。
ジャブジャブ洗ってピカピカになった魔石はフローレンスの調査のために渡しておいた。
「ララさん、大変、良い勉強となりました。この素材、物凄い額で売れると思います。このまま収納して冒険者組合経由でオークションに出すことをお勧めします」
「うん。アス姉、森の人たちのパーティと折半しよう」
「そうですね。レナさん、これは皆さん無くしては遭遇できなかった魔獣の素材です。是非、エッジ・シーカーと協働で討伐したことにさせてください」
「いや、しかし……。殆ど、ララさんの功績ですから」
「レナさん、そんなこと言ったら、エッジ・シーカーの功績は、ほぼララの功績ですから」
「ぷっ。ははは。分かりました。それでは他で何かお返しさせて頂きます」
「うん。レナさん、そしたら、アス姉にボウガン教えてあげて。中距離の武器が欲しいんだ」
「え? ララ? わたし、出来ないよ」
「それは良い案ですね。弓と違って、ボウガンは女性でも使える武器です。私とアストリッドさんの体格は、ほぼ同じですから、きっと扱えますよ」
「俺の上げる。いや、上げます」
レオンが背中に担いでいたボウガンを外して、姉に渡した。
姉はまだ戸惑っている。
「俺、チャックと同じ様に前線で戦う剣士になろうと思っている。だから、中、長距離の武器は不要」
「アス姉さん。僕の剣をレオンにあげることにするよ。僕はオヤジのがあるし」
「わかりました。レオンありがとう。でも、もう敬語は不要よ。あとレナさん、道中で教えてください」
「了解よ。取引成立ね。でも、レオンのボウガンはシュタインランドに行くまでのレンタル品ね」
「え?」
「ふふ。このオウルベアの爪の素材で、お揃いの高級ボウガンを作りましょ。シュタインランドにはね、良い鍛冶屋がいるのよ」
レナさんは、足でオウルベアの爪を蹴りながら言った。
この山で最強の魔獣が、まるで子熊のように小さな存在に見えた。




