表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/40

賢者との面会と別れ


賢者との面会当日。

朝食を食べた後、ジョヴィの頭の中の自動機械を皆で、手に乗せて調べた。


「やっぱ、少しだけ重いと思うわ」


「中身も何となく違う感じがする」


姉は微妙な重さの違いを指摘して、フローレンスは診断魔法で中身を比較していた。


音声以外に映像も受信できるのだ。

やはり、機械として異なる物なのだろう。

女神はあの子を、最初からこう言う使い方をするつもりで命を与えたのだ。

最早、それこそ神への冒涜だと思う。

人の命を何だと思っているのだ。


「きっと山猿があの子を明るくしてくれるさ。これからだよ。あの子が幸せになるのは」


チャールズが珍しく素敵な事を言っていた。

フローレンスがジト目で見ている。

まぁ、でも、チャールズは優しい男の子だ。

マリーの事も揶揄いながらも大切な友人だと思ってる。


「さて。今日の確認をしておこうや。おそらく、教会の近衛兵は何かしてくると思うで」


「オリバーさん、どんなことが考えられます?」


「面会後に御用ってのが一番あり得るやろうな。大使館に行ったまま、司教も使徒も帰ってこんのや」


「オジちゃん、面会前じゃないのはどして?」


「そりゃ、大使の要請は守るやろ。それを邪魔はせんはずや」


「マルグリットさんが司教の逮捕理由を伝えても、まだ争いますかね?」


「わからへんな。それがさらに強行な手段を選ばせるってこともあるな」


「うん。でも、こっちは何も対策できないよね? 出たところ勝負?」


「せやな……。ワシが退却のルートだけ確保しておくのが精一杯かもな。賢者の面談は若いのだけでやりぃや。ワシは部屋の外の様子を見たり、逃げ道を確保するのに注力するさかい」


「わかった」



教会へは徒歩で向かった。

多くの兵士さんが周囲を護衛する中、私達は歩いて教会まで行った。


同行するのは、マルグリットさんではなく、大使だった。

昨日のことを受け、大使自らが出向くことにしたらしい。


大使がいたおかげで、教会での手続きはスムーズだった。

二階の応接室まで丁重に案内される。

大使が公式文書を手渡し、昨日の事件を直接説明する間、私達だけ応接室で待機した。

オリバーのオジちゃんは、部屋に入らず、部屋の外をウロウロしていた。

部屋の前には王国の兵士さんがいるので、不要だと思う。


大使が戻ってきたのちに、賢者の部屋まで案内された。

教会の五階。

大分高いところに幽閉されている様だった。

五階に上がる階段のところに、数名の近衛兵が番をしていた。

教会の案内役は書類を渡して、私たちに言った。


「五階には賢者様のお部屋しかありません。面会時間は三十分です。その後は昼食になりますので、時間厳守でお願いします」


案内役はここまでの様だ。

私達は、そのまま五階に上がった。

五階の長い廊下を歩く。

部屋は幾つかある様だが、使われていないのだろう。

ドアは板で塞がれていた。


一番奥の部屋。

ドアを開けるまでもなく、賢者の部屋だと分かった。

壁がガラスになっており、廊下から部屋の中が丸見えだったからだ。


廊下から部屋の様子を見る。

部屋自体は大きく立派な部屋だった。

広い寝室。

手前には豪華なソファ。

お風呂やトイレもあるのだろう。

賢者は、ベッドの下にうずくまっていた。


「ワシは四階の階段以外の道を探すわい。無かったら、あの階段を死守するしかない」


「分かった。じゃ、みんな入ろう」


オリバーのオジちゃんは万が一の時の逃げ道を確保するために、廊下を戻って行く。

私達は、その後ろ姿を見送った後、賢者の部屋に入る決意を固めた。

大使が、私達の顔を見渡して、一つ頷いてから部屋の扉は開けた。


「デラロッカ様、賢者様。失礼します」


部屋に入った大使が、すぐに賢者の名前を呼ぶが反応はない。


私は部屋全体に結界を張った。

女神に覗かれる訳には行かない。

飛行する自動機械にも侵入させない。

結界は不可視の曇りガラスにする。

当然、通信も遮断だ。


賢者がビクっと反応した後、こちらに顔を向けた。


マルコ・デ・ラ・ロッカ (Marco della Rocca)。

知性の十使徒の一人。

教皇だった父と同年代だったはずだ。

未だ六十歳にはなっていないはず。

しかし、賢者は九十過ぎの老人に見えた。


頭の毛は全て抜け落ちて、血の気は全く無かった。

肉は削げ落ち、目は窪み、眼球だけが浮かび上がっていた。

皮膚は黒く、頬には自傷の傷跡が沢山付いていた。


「な……ひ、……し、た……」


目をギョロリと剥いて、こちらを睨んだ後、何かを言った。

ガサついた声で、何を言っているのか分からない。

でも、その見た目の凄まじさに、私たちも戸惑い、足が止まった。


唯一動いたのはフローレンスだ。

賢者に駆け寄って、手足の縄を解いた。

チャールズが続き、それを手伝う。

姉が、私も、歩を進めた。


診断魔法をかける。

特に悪いところは見つからない。

チャールズが枯れ木の様な老人を抱え上げて、ベッドに横たえた。

フローレンスが濃厚な回復魔法をかけた。

私は賢者の頭の中の自動機械を除去する。


「賢者のオジちゃん、これ、頭の中にあった自動機械。女神に埋め込まれてたの。取り除いたからね。もうインチキ女神の声は聞こえないよ。安心してね」


ベッドに横たわった賢者は、私に向けて、枝のような手を伸ばした。

私はその手を握る。

これは最早、骨だ。

骨の上に皮膚がついているだけだ。

その手の中に自動機械を入れてあげた。

ベチョベチョしてるけど、気にしないだろう。


チャールズが、上半身を起こしてあげた。

背中に枕を押し込んで、上体を楽にしてあげる。


「こ、……これが……」


フローレンスが喉に回復魔法を強めにかけた。

それで随分と楽になった様だ。

何度か咳き込んだ後、しゃがれた声で礼を言った。


「女神の声が……しなく、なった、礼、言う」


「うん。よく頑張ったね。ララがインチキ女神を探してやっつけるから」


「イン……チキ……」


そう言って、賢者は笑った。

笑ったのだと思う。


「賢者のオジちゃん、女神の居場所知ってる?」


賢者は私をジッと見て、首を振った。

そうか。やっぱ知らないよな。

そんなに簡単にわかる様なら苦労しないし、物語として成り立たない。


「こもん……じょ……」


こもんじょ?

古文書か。


「本? 書類? どこかに書いてあるの?」


「古い記録……女神に……教会に……」


「教会にあるの?」


賢者に小さく首を振られた。


「教会が女神の指示で……禁書に……」


賢者はハァハァ言い出した。

殆どこれまで話していなかったのだ。

そもそも話せる状態じゃないのだろう。

フローレンスが、再び回復魔法をかける。


「女神教の力が弱い国……、ワシは東の国で読んだ……」


「ミナセ? バイシン?」


ゲホゲホ言いながら頷く。


「人類の……、起源を、調べるのじゃ……」


「うん。分かった。東の国で古い記録を見つける」


「ワシは……、女神は……、人ならず、神でもあらず……」


「ララ!」


姉が叫んだ。

結界に衝撃が走る。

メシッと音がした気がした。

慌てて結界を強化するべく魔力を注ぐ。


その直後に、耳をつんざく大爆発音。

たまらず結界で音声を遮断した。


その瞬間、私達の足場が浮いた。

フワッと全身が浮き上がった感触がする。

足にかかっていた重力が、床の感触が消えた。

ゾワっと背筋が凍える。

胃がせり上がる。

これは、結界が落下している。

マズイ。

そして、結界が傾いた。

世界が傾いた。

全員が部屋の反対側に落ちていった。

姉が大使を掴んで抱き抱える。

私は部屋の全員を囲うもう一つ小さな結界を張る。

もう一度胃がせり上がる感じがして、

大きな衝撃を感じた。

そして、私は、意識を失った。



「ララ! ララ!」


姉の声が聞こえる。

目を開けたけど、何も見えない。

暗闇だ。

小さな結界の中で、皆がひしめきあっているのだけが感じ取れた。


「ララは大丈夫。みんなは無事?」

「私は大丈夫」

「僕も」


フローレンスとチャールズの声で返事があった。

姉が大使に声をかけている。


「フローレンス、ここに大使がいるんだけど、回復魔法かけれる?」


姉にそう言われて、診断魔法を私はかけた。

大使の位置が掴めた。

足を折ってるみたいだ。

二箇所。

内臓に問題はない。


「フローレンス、私が魔力で整形する。骨折箇所分かる?」


「うん。今、掴んだ。右足大腿骨。右肩。右側を下に落下したのね」


「ララちゃん、賢者が動かないんだ。こっちも診てあげて」


「了解。フローレンス、大使は終わった」


「オッケー。じゃ、繋げちゃうね」


私はチャールズの声がする方に魔力を広げた。

賢者の爺ちゃんの場所を探る。

見つけた。

あぁ……、でも、これは、もう、亡くなってる。

首の骨が……、折れていた。


「チャック……、賢者さん、もうダメだ。首の骨が折れちゃってる」


「くそっ……。せっかく……、せっかく救えたのに……」


「大使! わかりますか?」


「あ、アストリッド様? はい、身体中が痛みますけど、大丈夫です」


「良かった……」


「ララ、空間部屋に退避しようか」


「うん。でも、空間部屋に退避しても、そこから戻る先はここだよ。結局、ここから出られなくなっちゃうよ。いつかは何とかしないと」


「あ、そうか。外はどうなってるのかな」


「瓦礫みたいだね。上の瓦礫を一度収納しちゃうか。そうすれば結界を解除できる」


広げた魔力を上の方に集めた。

三メートル程度、瓦礫が結界の上に積み上がってるみたいだ。

少し広めの範囲を一気に収納した。


上に乗っかっていた瓦礫が取り除かれ、上空が開けた。

真上に太陽があった。

暑い雲の隙間から、顔を覗かせていた。

突然差し込んだ光に目が眩む。


結界を解除した。

大使とチャールズがゴホゴホと咳きこみ出した。

そうか、砂埃だ。

二人の身体を結界魔法で纏わせた。


「女神の野郎。教会ごと破壊しやがったな」


チャールズが賢者の爺ちゃんを抱えて立ち上がって言った。

皆が瓦礫をよじ登り始めた。


瓦礫を登った姉が辺りを見渡して言った。


「いや……、教会だけじゃない……、街が破壊されてる……」


私もヨイショと登る。

瓦礫に足をかけながら、頑張って登った。

手を瓦礫の縁にかけて、一気に身体を持ち上げる。

瓦礫の山の頂上に登ると、周囲の様子が、街の様子が一望できた。


姉の言う通りだった。

地上は、一面の焼け野原だった。



元教会だった場所は、組み上げたレンガが瓦礫になり、小山となっていた。

ここが、周囲の建物の中でひと際高い小山なのは、教会が高かった所以だろう。


私達はその小山の上にいた。


呆然と辺りを見渡す。

周囲の建物は概ね同じような瓦礫の山になっている。

南の、港の方向は焼け野原だ。

広場付近は廃墟となっていた。


広場から、少し離れた場所に立っている建物は無事だったようだ。


「黒い屋根の建物だけが……壊された?」


「フローレンスの言う通りみたい。もう黒い屋根が見えないわ」


「大使館が……。大使館もない……。マルグリットが……」


キャっとフローレンスが叫んだ。

皆が身を縮こませる。

港の方に、大きな雷のようなものが落ちた。

それも何本も。

落ちた場所から高い水しぶきが上がったのが見える。

少し遅れて爆発音が響いた。


「か、か、かみなり?」


「違うみたい……。もっと直線的な……。まっすぐ落ちている」


「船よ。船を壊しているんだわ」


「あれに俺たちもやられたってことか」


「上空に自動機械があるってこと?」


「そういうことね……。しかも大型の自動機械が」


チャールズが瓦礫の上に、賢者の遺体を横たえた。

その枯れ枝の様な手から、ころりと小さな球体がこぼれ落ちた。

私は、賢者が大事に握りしめていた小さな自動機械を拾い上げた。


おそらく、建物にいた人は全員ダメだったろう。

私達だけが。

二重、三重に結界で包み込んでいた私達だけが生き残った。


「あ! オヤジは? オヤジは何処だ?」


その声で全員の血の気が引いた。

チャールズが物凄い速度で瓦礫を駆け下りた。

オジちゃんは五階にいたはず。

私達と同じように瓦礫の上の方にいるはず。


私は頭の血が薄くなるのを感じた。

胃の中の物がせり上がって来る。


「イヤ……、嫌よ……」


フローレンスの呟きが聞こえた。


私は両手を瓦礫に付けて四つん這いになった。

瓦礫の中に魔力を展開する。

薄く薄く広げた。

人間を探すのだ。

例え、人間だったもの、であったとしても。


感じ取ったものは、片っ端から収納して、瓦礫の上に並べた。

大使と姉が、一つ一つ確認していく。

私は確認しない。

見ることもしない。

ただ、機械的に瓦礫の上に亡骸を積み上げた。


腕がない遺体。

身体が半分になった人。

手首から先。

右足だけ。


収納魔法の出し入れだけでも、それが何かは分かる。

でも、見れないよ。

こんなもの見られる訳がない。


姉からすすり泣く声が聞こえる。

それでも、姉は一人一人を確かめているようだ。

フローレンスは膝を抱えて蹲っている。

チャールズのオジちゃんを呼ぶ声が遠くに聞こえた。


姉から、大きな溜息が聞こえた。


「あぁぁぁぁ……」


オジちゃんが見つかったのか。

顔を上げて姉を見ると、両手で顔を覆っていた。


私は、足に力を入れて、立ち上がった。

頭に血が回っていない。

視界がボヤけてふらついた。

いつもよりも、さらに小さい歩幅で姉の方に進む。


十二歩先。

そこにエッジ・シーカーのユニフォームを着た遺体があった。

頭部がない。

潰れて引き千切られた形跡が首に残っていた。

右脚も膝から下は潰れて肉塊になっている。

左脚の腿は抉れて、骨が見えていた。

指も……、数が足りない。


黒いマント、黒のワークブーツ。

頭部が無いからか、黒いマントは、ほぼ脱げかかっていた。

明るい茶色のブリオーで、ズボンはアイボリー、靴下は焦茶。

腰には剣。東国の剣。

何でこんな分かりやすいんだよ。

顔が無くても分かっちゃうじゃんか。

マントの下のブリオーは、半袖だった。


「オジちゃん……。何で今日も半袖着るのさ。寒いって、言っていたじゃんか。馬鹿なの。もう。馬鹿なの」


私がそう呟いたら、フローレンスが立ち上がって、こっちに来た。

姉が抱き寄せる。

フローレンスは聞いたこともないような大声で、オジちゃんの名を呼んだ。

街中に響き渡る声で、泣き叫んだ。


チャールズが目に見えない速度で駆けあがってきた。

オジちゃんの遺体を抱き上げ。

慟哭した。



どれくらい経ったろう。

それでも、流れる涙は止まらない。

チャールズがいつもの様に明るい声で、私に声をかけた。


「マントとブーツと剣は、僕が引き継ぐ。ララちゃん、悪いけど収納していおいてもらえるかい」


「うん……分かった。オジちゃんの遺体も連れて行く。時間を止めておくから。サンテールに連れて帰ってお墓を作ってあげよう」


「うん……。うん……、そうしてあげてくれ」


涙が、また零れた。

大粒の涙が沢山、こぼれ落ちた。


「アス姉さん、フローレンス、行こう。オヤジも連れて最後まで行こう」


「『そやで。前だけ向いて歩かんかい』。今……、私に御神託が降りたわ。変な訛りの神様から」


「はは。ずいぶん、頭の悪そうな神様だね。フローレンス、また騙されているんじゃないの?」


「今度のは本物よ。ニセモノのクソ女神は、ブチ殺してやる。マジでブチ殺すわ」


フローレンスが激怒していた。

私たち皆が、悲しみを怒りに転化しているけど、フローレンスは一際激しく怒っていた。


「皆さん……、大使館の場所まで行っても良いですか……。無駄なのはわかっているのです……。ただ、一度見ておきたい」


大使のお願いを皆、了承した。

上空からの攻撃は止んでいる。

もう大丈夫だろう。

皆で瓦礫の小山から、ゆっくりと降りる。

私達以外に動くものは無い。


広場まで行くと、様子を見に来た人たちがワラワラと集まってきていた。

行政関係者はいないだろう。

兵士もいない。

ちょっと離れた商店の人か、この辺りに住んでいる人たちだろうと思う。

廃墟になった街を見て、皆、大袈裟なくらいに、悲しんでいた。

これもカウニアとは違う文化なのだろう。

お芝居のように、嘆き悲しんでいた。

唇を噛み締めて歩く私たちとは、違う悲しみの表し方だった。


大使館は黄色の瓦礫と化していた。

鉄の門扉すらも倒れている。

大使は深く頭を垂れて黙祷していた。


「どうして、教会ごと破壊したんだろう」


「え? ララ? どういう意味?」


「私達だけを殺すためなら、大使館にいるうちに出来たはず。あのタイミングだったのは何故か。通信の自動機械を躊躇なく破壊できたのは何故か」


「うん……。そうね。今回は街の破壊が主目的であり、私達は二の次かな……」


「もう、この国の人たちは女神の御神託が聞けなくなる。それは女神にとって、望まないことだと思うの」


「そうね……」


「ララ様? 女神の御神託とは、女神像から降りて来る御神託のことですか?」


「うん。そう」


「御神託がある女神像に、声を発する自動機械はある。他の女神像にはない。ということですか?」


「うん。大使さん、どした?」


「フィオレンティアです。ここではありません。元首都だったフィオレンティアの女神像だけが御神託を告げるのです。使徒はそちらで最初の御神託を受けるのです」


皆が顔を見合わせた。

そうか。首都移転か。

五百年前の首都はフィオレンティアだった。

女神像ごと移転はしないだろう。

ということは、大型の通信、女神との通信機械は未だ健在ということか。


「フィオレンティアに行こう。女神との通信手段を残しておく訳にはいかない」


「はい。でも、馬車も馬もありません。馬車で十日は掛かる道のりです」


「大使さん、お馬さん乗れる?」


「はい。勿論です」


「お馬さんはララが持っている。瓦礫の地区を抜けたら、馬を出そう。ここじゃ足を痛める」


「分かりました。それでは、大通りを真っすぐ北に抜けましょう。途中の洋服店で旅装を買わせてください。この格好では馬にも乗れません」


大使さんは、豪華なオーバーチュニックを摘んで笑顔を見せた。

間違いない。

それでお馬さんに乗っている人はいないだろう。


行先が見つかれば、足が前に出る。

人は目的なしには頑張れない生き物だ。

行先があるからこそ、私達は前に進める。

無理矢理にでも向かう先を定めないと、悲しみに足を掬われそうだ。


『そやで。前だけ向いて歩かんかい』


私にも、今、御神託が降りた気がした。

変な訛の神様だ。


歩きながら、また目に涙が溜まった。


大好きだったな。

あの明るさ。

大好きだったな。

あの潔さ。

大好きだったな。

あの強さ。


でも、もう行くね。

また、どこかで会おうね。

ありがとう。片目の剣士さん。


帽子を脱いで、天を仰いだ。

上を向いたら涙がポロポロと溢れだした。


絶対、カタキは取るから。

ゆっくり休んでいてね。


そう呟いた。



世界地図

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ