女神の反撃とサンテールからの船出
「量と質?」
「うん。そう。回数と濃さと言っても良いと思う」
「うーん。ムズイ……」
私とマリーで魔法に関しての話をしていると、横からチャチャが入った。
チャールズの、いつものマリーいじりだ。
「頭を使え。山猿」
「うるせー! 脳筋! 訓練に来たんだろ! いけよ! 女子の部屋に居座るな!」
「女子部屋じゃねーし。動物園だろ?動物しかいねーじゃん」
出会ってから半月。
こうして、ほぼ毎日、サンテール王国の王女マリーと会っている。
私達の部屋に来て、一緒に過ごすことが多い。
たまに今日の様に王城の離宮を訪れることもある。
私とマリーは先ほどから、時間魔法をどうやって成長させるかを話していた。
マリーの時間魔法は主に二つの機能を持っている。
あくまで現状では、だが。
一つは、時間停止。
もう一つは、時の巻き戻しだ。
両方とも、現状のマリーでは一分が限界らしい。
一分間だけ時を止められる。
自分以外のすべてが止まる。
無敵のスター状態だと思う。
もう一つは一分だけ、対象の時を巻き戻せる。
前に、王様が壊した女神像を復元した魔法がこれである。
どう頑張っても、これ以上のことは出来ないと言っていた。
だから、私達が治療したモジャ君のように、ケガをしても一分経過したら戻せない。
ただ。
私の空間魔法にしても、フローレンスの回復魔法にしても、話は同じだと思う。
込める魔力の量を増やすか、魔法の質、濃さを上げるか。
その二択の、もしくは、その両方の鍛錬を続けるしかない。
結界の魔法の場合は、量を増やせば、大きな結界になり、
質を上げれば、強固な、色々な効能を増やす結界となる。
「ララの場合は、こうやって鍛錬したの」
分かりやすいように、曇りガラスの空間ボールを空中に浮かべた。
少しずつ数を増やし、動きを付けていく。
空中で十個のボールが色々な動きをするのを、マリー達が口を開けてみていた。
「毎日使えば、使うだけ沢山作れるし、質も上がる」
「ワタシも毎日使わないとダメってこと? なんか……。ツマラナイんだよね」
「うん。例えば……。チャックが死んじゃったとする。もう心臓が止まっちゃったら、ララ達じゃ治せない。だから、マリーの所に一生懸命連れて来る。でも、一分経ったから巻き戻せないと言われたら悲しい。もし、マリーが成長していて、十分なら、一時間前までなら元に戻せるとなったら……」
「分かったわ! 頑張る! でも、チャックなら死んだままにするわ!」
「おい! 猿!」
マリーとチャールズも凄く仲良くなった。
仲良くなった……、のだと思う。
ずっと、こうやってじゃれ合っている。
チャールズは基本的に、女性に対しては、いつも紳士的だ。
キモイくらい丁寧に、胡散臭い笑みを浮かべて接する。
でも、マリーに対してだけは粗雑な扱いなのだ。
フローレンスと姉はマリーの部屋にいるワンちゃん達を愛でている。
今は私達が治したモジャ君を抱えて、二人で撫で回していた。
マリーとチャールズは、いつまでも終わらないじゃれ合いを続けている。
平和だ。
そう思った時、姉が。
姉が何かを感じ取ったように顔を起こした。
怖い顔をして視線を左右に動かした。
何かある。
私には分からないが、姉の直感を信じた。
仲間の位置を確認して結界を張った瞬間。
ガシャン!
大音量と共に何かが窓を割って侵入してきて…
部屋中の全てを破壊した。
ガガガガガガガガガ
そんな音が部屋中に響いた。
「ララ! 自動機械! 収納して!」
部屋中が煙い。
でも、見渡したら見つけた。
浮いている自動機械。
四本の足に回転する扇風機が付いている機械。
魔力を展開して捕まえた。
空間魔法で収納する。
ホッと息をついて、結界魔法を解除した。
「イヤー! イヤー!」
マリーの叫び声が響いた。
ドアから兵士がなだれ込んでくる。
「窓から自動機械が!」
チャールズが兵士に伝えると、全兵士が窓を塞ぐように立った。
外をキョロキョロ確認している。
「ララ! こっち! クロちゃんを診て!」
フローレンスの声だ。
窓際にいた大型犬が血を流している。
マリーはその横の白い犬を抱えて叫んでいた。
私の結界で囲うことが出来なかった子達だ。
駆け寄って、診断魔法をかける。
黒い大型犬の身体の中に、大量の小さな……、鉄の石が入っている。
これを撃ち込まれたのか。
あの浮いた自動機械に。
白い子の方は、もう死んでいる……。
「マリー! その白い子は死んじゃっている! 早く巻き戻しなさい! まだ一分経っていない!」
マリーがハッとした顔をした。
魔法をかけようと集中し始めた。
「ララ、この鉄の石を取り出して。肺と胃……、血管の修復は私がやるわ」
「分かった」
魔力で鉄の石の場所を見つけ次第、収納していく。
全部で十二個撃ち込まれてた。
「ララ、次はこっち!」
姉に呼ばれて、次のワンちゃんのところに行った。
机に潜り込んでいたのが幸いしたのだろう。
この子は足だけだ。
鉄の石を一つ取り出して、フローレンスに託した。
マリーが抱えていた白い子は、上手く巻き戻せたようだ。
でも、今、抱えている茶色の子はもう亡くなっている。
一分を超えてしまったと言うことか。
マリーが上を向いて、大声で泣いていた。
「みんな! 無事か!」
王様とテオドール隊長が入ってきた。
※
愛犬を亡くして打ちひしがれているマリーを除き、仲間たちは王様たちと会議室に入った。
護衛官たちと訓練をしていたオリバーのオジちゃんも合流する。
姉が起きたことを説明した。
最初に変な音がするので気になったそうだ。
あの、怖い顔はそういうことだったのか。
でも、そのお陰で、私達は助かったのだ。
「ララ、その自動機械は今も収納しているんだよな?取り出せるか?」
「うん。でも、また動かれても困る」
「結界で囲ったまま取り出せないか?」
少し考えた。
取り出した後、結界を囲うのでは遅いだろう。
結界で囲ったところに取り出すか。
それならば出来そうだ。
「やれそう。机の上に出すね」
結界をまず作る。
机の大きさで良いだろう。
そこに自動機械を出した。
すぐに動き出して回転しながら鉄の石を撃ち出した。
全て結界に弾かれて、中に鉄の石が溜まっていく。
皆がビクっと反応したが、安全だと分かったのかシゲシゲと見始めた。
1フィート程度の魔道具だ。
ここに、どれだけの鉄の石が詰まっているのだろう。
こうやって見ると四つ足の生き物…、四つ足の蜘蛛みたいに見える。
「これは……。非常に強力な武器ですね……。陛下、こんなものが街中で暴れたら……」
「そうだな……。どうやって動いているのかもわからんな。あの足に付いた扇風機で浮かせているのか」
「あ、通信しているみたい。結界に反応がある。あれ?でもおかしいな。教会の通信の自動機械は除去したのに……、どこと通信してるんだろうう」
「通信の自動機械が他にもあり、それが指示をしているということか?」
「ララ、わたしも一つ疑問があるのです。どうして、わたし達の居場所が分かったのか。冒険者の身分はバレていないはずなのに」
「アス姉、監視の自動機械があるってこと?」
「そうかもしれないわ」
「アンヌ=マリーの部屋を特定したことからも、飛んでいる監視自動機械がいるのかもしれないな」
「うん。納得。監視の自動機械と攻撃の自動機械は、その別の通信機械から命令されている。その通信機械が女神のところに通信を経由している」
「陛下。通信の自動機械であれば、女神像にあったような大型自動機械なはずです」
「ララ、近くまで行けば、その通信の自動機械は見つけられるか?」
「結界で囲える大きさ、建物まで絞れれば分かる」
「テオドール。まずは他国の施設、商業団の建物をピックアップせよ。ララを連れて行き特定するのだ」
「陛下。船って手もあるんやないすか?」
「船か……。そうだな。オリバーの言う通りだ。そっちの方が可能性高そうだ。他国籍で入港した船もリストにしよう」
「膨大な量になります」
「セヴェルスカ、ウルグル、バイシンを優先せよ。次いでアル・ナジール、ラージャスティ辺りだな」
私は立ち上がって、窓から外を眺めた。
この空に、1フィートの自動機械が飛んでいたら、すぐに見つかるだろう。
監視の自動機械はもう少し小さいのかな。
闇雲に上空に魔力を広げた。
もちろん、何にも引っかからなかった。
※
マリーは私室が鉄の石で破壊されたので、私たちの宿屋で引き取った。
もう常時結界を張っておこうと思う。
居場所はバレているだろうが、侵入は絶対させないつもりだ。
スウィートルームにワンちゃん達もやってきた。
宿屋側も王族からの依頼なので、やむなく引き受けたのだろう。
夢の楽園のようなスウィートルームになった。
マリーはいつもの明るさを無くして、メソメソ泣くようになった。
寝る時も私に抱き着き、ぶるぶると震えている。
「ララ……。ワタシ頑張るわ。巻き戻しの魔法の時間を延ばす。もう誰も目の前で死なせないわ」
「うん。マリー、それがいい。あと、そう思ったのなら、もう泣かない。前を向いて、女神をやっつけることを考える」
姉とフローレンスが、そう話す私たちを包む込むように抱いた。
外から見たら、四姉妹に見えるのだろうな。
きっと、どうせ、私が一番下だろうけど。
チャールズは怒り心頭で、毎日外を出歩いて、何かを探している。
天を見上げて、ずっと歩いているけど、見えないと思うよ、とは私も言わなかった。
優しいチャールズのことだ。
泣きじゃくったマリーの敵を討ちたくてしょうがないのだろう。
※
私たちの空間部屋の内装工事がついに完成した。
王様から買ってもらった家具も全て搬入したそうだ。
王様とマリー、テオドール隊長も連れて、内観と完成パーティを空間部屋で行った。
「なんかさ……。僕とオヤジの部屋って、ちょっと狭くない?」
「チャールズ、それを言うたらアカン。ここで寝泊りさせてもらうだけで、旅は快適やで。風呂場も小さいなんて言ったらアカン」
端っこで男性陣がブツブツ言っているが、皆、笑いを堪えて聞こえないふりをしている。
多分、誰もが思っただろう。
確かに、男性側のスペースは少し狭いのだ。
リビングルームはそのままにした。
その横に同じくらいの大きさのダイニングルームを作った。
全員で座るダイニングテーブルが置かれている。
キッチンも広くて立派なものを付けた。
ダイニングを抜けると男性陣のエリアだ。
反対側のリビングルームを抜けると女性陣のエリアとなる。
もちろん、中央には変わらずドカンと書庫スペースが奥まで続いている。
男女それぞれのエリアには、お風呂とトイレが付いている。
両方とも癒しの魔道具付の常時温められたお風呂である。
廊下が真っすぐと伸びていて、各自の部屋もある。
乾燥室なる洗濯物を干す部屋も作られた。
書庫のガラクタ置き場に眠っていた乾燥魔道具が配備されている。
「ララの部屋の家具は元々あったものか?」
「うん。あれだけは前からあるもの。あとはマリーパパに買ってもらったもの」
「ワタシもここに住みたいわ!」
「猿は勉強しないだろ。ここは勉強する人のための部屋だ」
「うるさい! 脳筋だって脳筋だろ!」
「だから山猿なんだよ。僕はこう見えて文武両道のイケメンなのさ」
「こう見えてって、イケメンの枕詞には付かないものなの! イケメンはパッと見てもイケメンなの!」
王様とテオドール隊長は、書庫スペースとリビングルームを行ったり来たりしている。
多分、本当はたっぷり読書がしたくてしょうがないのだと思う。
「マリーパパもゆっくり読んで良いんだよ。三日過ごしても、出発した時間に帰してあげるから」
「マジか? そんなことも出来るのか? もはや神だろう。時間魔法と変わらんじゃないか!」
「空間魔法って素敵! ワタシもそっちが良かった! 動物の部屋を沢山作るのに!」
「動物の部屋……。うん。マリー、悪くないアイデア。女神倒したら、一緒に作ろう。沢山の動物を世界中で集めよう」
「それよ! それ! パパ! 早く倒してきて!」
「ハハハハハ! そうだな! ララ達が見つけたら、王国の兵士を大量動員して滅ぼしてきてやろう! 俺とレオナルドで連合軍組めば連戦連勝だ!」
レオナルドというのは、王様の親友でサンパウリーナ王国の国王だ。
サンテール王国とは同盟関係にある。
レオナルド・ダ・コスタ (Leonardo da Costa)。
戦上手で、サンパウリーナ王国の国土を一代で拡張した。
ユニオン・リパブリック建国の支援をしたりもする熱い王様だと言う。
結局、王様とテオドール隊長は、この部屋で丸二日過ごした。
男子部屋のベッドを二人で使ってしまったので、チャールズとオジちゃんは、男子エリアの最奥のフローリングの床に雑魚寝したそうである。
※
通信の自動機械は船に積まれていた。
王国の査察という名目で、外国籍八隻を立ち入り検査した。
沢山の兵士に混じり、私たちも船に乗り込んだ。
兵士が色々調べたりしているのは、カモフラージュで、実際は私が結界魔法を展開して調べた。
八隻のうち一台から見つかった。
バイシン帝国籍の船の船底に隠されていた。
通信の反応があると私がテオドール隊長に告げてから、本格的に兵士による探索が始まった。
だが、どこの部屋からも見つからない。
結界の範囲を少しずつ絞り、エリアを特定した。
そのエリアのいずれの部屋にもない。
最後は、最下層の床を取り外して調べた。
そして、自動機械は、まさに、船底に隠されていた。
テオドール隊長は、王族襲撃の容疑者として、船長ならびに船員を捕縛。
厳重な取り調べをしたが、誰も船底の自動機械のことは知らなかったようだ。
ただし、積み荷のリストには記載されていなかった大きな木箱が積まれていた。
宛先はサンテール王国の商会宛で、その商会関係者が実際に引き取りに来たので渡したという。
それが取り調べで出てきた唯一の怪しい点だったそうだ。
翌日、商業組合に登録されていた商会住所に突入。
木箱は見つかった。
空になって見つかったそうだ。
その住所に住む人も出入りする人もいない。
無人の住居だったと言う。
「おそらく商会も架空の存在なのでしょう」
テオドール隊長はそう言っていた。
そこで調査は行き詰まりである。
ただ、その住宅の敷地に、小さな自動機械が落ちているのが見つかったそうだ。
鏡のような反射する外殻を持つ円盤型の自動機械。
大きさは直径が男性の親指程度だ。
相当小さい。
「ひょっとすると、これが監視の自動機械かも知れません。上空にいても非常に見つけにくいです」
※
サンテール王国からの出発の前に、もう一つ大きな動きがあった。
カウニア連邦から、教皇誘拐犯指名手配の外交文書が届けられたそうだ。
その外交文書は以下のような内容だったと言う。
エイナル・アフ・スヴェンソン前教皇が行方不明になった。
ラルナー教会は行方をくらませた二人の娘を指名手配する。
女神の神託によると、このうちの一人が人類を滅ぼす終末の使徒である。
ローラ・アフ・ラーズドッティル。
銀髪で小さな少女である。
姉のアストリッド・アフ・スヴェンソンが共謀している可能性が高い。
見つけ次第、確保し、各国の教会に預けられたし。
「ふーん。ララはそんな名前じゃないし」
「ははは! そうだ。俺たちの仲間はララ・スティエルナだ! 別人だな!」
王様は笑い飛ばしているが、仲間たちは、そしてマリーは憤慨している。
「まあ、皆の者。怒るな。サンテール王国は異なる外交文書を出した」
サンテール王国が出した外交文書はこんな感じだ。
サンテール王国の選ばれし使徒アンヌ=マリー王女が襲撃された。
離宮が謎の自動機械によって、破壊された。
またラルナー教の教会から、怪しげな大型自動機械も発見されたので、これを押収。
不徳にも女神像の中に大型自動機械を隠していた。
また、各都市の教会の尖塔にも、同様に自動機械が隠されていたのを発見した。
近年のラルナー教が発表している女神様の御神託は、不正の可能性有。
現在、自動機械の詳細ならびに襲撃事件との関係性も調査中。
各国へ要請する。
近年の御神託は不正の可能性有。
社会に混乱をもたらす何者かが、御神託という嘘の情報を広めている可能性が高い。
慎重な判断を求める。
「マリーパパ、完全に教会に喧嘩売っちゃったね」
「構わん。今の教会など、何の価値もないわ。だが、ララよ。現教皇は厄介だ。絶対に折れない女だ。気を付けよ」
「女の人なの?」
「そうだ。イングリッド・アフ・ハルドソン。お前らの父の右腕だったヤツだな」
「え、イングリッド様……」
「アス姉知っている人?」
「うん。良く知っている。使徒よ。女神に与えられた使命は『規律』。物凄く厳格で厳しい人よ。まず間違いなくインチキ説は受け入れないわ」
「ララ、残念なニュースがもう一つある」
王様が教えてくれたのは、選ばれし使徒の情報だった。
私たちが向かう場所。
賢者がいるセレニカーナ王国首都セレニティアの教会から公表された。
ジョヴァンナ・マルティーニ (Giovanna Martini)。
私たちと同じ歳の女の子だそうだ。
女神像はこう言ったそうだ。
『貴女の使命は未来に起きることを予知すること。人類に訪れる悲劇を予知し、一人でも多くの命を救いなさい』
つまり『予知』の能力持ちということだ。
「彼女が最初に予知したのは、前教皇の死だ」
「馬鹿らしい……。女神が通信で情報を渡しただけ」
「まあ、時系列からして、そうだろうな。そして、先日の予知はこんな内容だ」
『終末の使徒の訪れと共に、ここセレニティアは地獄と化す』
「私たちがセレニティアを訪れた時に、女神が何かをするという脅迫?」
「まあ、そういうことだな。俺が御神託の信憑性を疑う文書を出したのだがな。もう一つの別のやり口を見つけたってことだな。面倒な奴らだ」
「ララ……。心配だわ! ワタシも行く!」
「馬鹿、猿がいても役立たんだろ! ここで魔法の強化でもしてろ」
「うるさい! チャック! ちゃんと肉壁役を果たせ!」
「マリーパパ、あの攻撃自動機械をセレニティアの街に放たれたら、ララは守り切れないかも」
「お前らが着く前に、あの攻撃自動機械の情報も各国に展開するつもりだ。教会と関係があると匂わせておく。ララ、お前が全てを抱えることはない」
「わかった。ありがと」
「ああ、到着したら、まずはセレニティアにあるサンテール大使館に顔を出せ。手紙は姉上に渡してある。何かあったら、そこに逃げ込め」
私は座りながらだけど、王様に頭を下げた。
本当に未来に希望を与えてくれる人だと思う。
※
王様が手配してくれた船は、サンテール国内最大商会の観光船だった。
多くの人を世界各国に届ける大型客船。
四本マストの帆船だ。
しかも、その一等客室。
宿のスウィートルームみたいな客室だった。
どうせ空間部屋に入るのだから、普通の部屋で良いといったのだが、案内されたのは一等客室だった。
一か月も船に乗るのだから、まあ船旅を楽しもうと思う。
沢山の兵士と一緒に、王様もマリーも見送りに来てくれた。
サンデッキと呼ばれる甲板から、私たちも手を振った。
岸にいる二人が何かを叫んでいるけど、全然聞こえない。
隣のチャールズが「じゃあな! 山猿!」と叫んでいた。
彼らが小さくなって、見えなくなるまで、サンデッキにいた。
「アス姉の言う通りだったね。直感は正しかった。サンテール王に会うのは正解だった」
「うん……」
褒めたつもりだったけど、アス姉からは元気のない返事が返ってきた。
フローレンスがその顔を覗き込み、心配そうに言った。
「お姉様。心配ごとがあったら、言うべきよ。私たちは同じ荷物を背負う姉妹なのですから」
「そうね……。今度はね。セレニティアは……。嫌な予感しかしないのよ、行きたくない。行かない方がいいって、思っちゃうのよね。でも、賢者がそこにいるから。行くしかないんだけど」
「おいおい。嬢ちゃん、もう船は出発してしまったやん。もう降りる場所は……、ああ、あるか。三か所停泊するけんな。嫌やったら、皆で降りようや」
「そうね。そうしましょう」
怪しげな予言の使徒よりも、私は姉の直感の方を信じる。
科学的裏付けは何もない。
姉は豊富な知識を、膨大なデータとして自身に溜め込んでいる。
それを高速シュミレーションで弾き出すのが直感なのだ。
決して、超能力の類いではない。
まあ、それでも。
船は出航した。
行くだけ行ってみるか。
そう私は思うのだが。
船はリュミエール湾を出て、西に進路を取った。
大海へ出るのだ。
船の進行方向には、暗い雲に覆われた空が広がっていた。
サンテール王国は私たちにとって、希望の国だった。
首都リュミエールは、名前の通り、希望の光だった。
次の国は何か。
次の都市は私たちに何をもたらすのか。
思いつく二文字は幾つかあったけど、私はそれを飲み込み、口を噤んだ。




