002(ダブルオーツー)リュミエールの新しい女神
フローレンスの成長が著しい。
いや、チャールズも優秀だ。
彼も同じように伸びているのだが、フローレンスが半端ないのだ。
私と同じで、この世界に転生した時には、二人とも知的レベルが既に高かった。
言語理解力、語彙力、数学的素養、その全てが幼児とは思えなかったそうだ。
そりゃ中等学校に行っても、満足できない訳だよと私も思った。
そのベースの上に、空間部屋の書籍を与えられたことで、一気に花開いたのだと思う。
傍から見ていると、理解の速さに驚く。
元から知っていた?
思い出しているだけ?
そう感じることが多い。
新しい知識を解釈して覚えているのではなく、忘れていた知識を取り戻しているように感じることが、ままあるのだ。
「フロ、これ、感じる?」
「あ、うん。わかる。これが胆のう?」
「そう。これが胆のう」
最近は夜になると、こうして一緒に魔力を体内に浸透させて、内臓部位を確認して学んでいる。
フローレンスはこれを『診断魔法』と命名した。
魔力で体内の異常個所を検知し、診断することから、その名前を付けたのだ。
「これが膀胱だよね……。じゃあ、この横についた小さい袋は?」
「どれ……? これ?」
「そうそう」
「これは、多分、精嚢だと思う」
「精嚢って……、え、ひょっとして、あれが溜まる場所」
「そう。ここから小さい管が通っているはず……。尿道とは別に。そんで尿道と合流して……」
「うぇ……、じゃぁ、これが……、その、無理よ。これは無理よ」
「うーん。でも、これが卵子と結合しないと……」
二人で魔力を浸透させながら、学術的検証をしていると、その被験者から声が上がった。
「ちょっと! ララちゃんもフローレンスも! おかしいでしょ!」
「うるさい。チャック黙っていて、魔力が霧散しちゃう」
「フローレンス! そんな気持ち悪いって表情で僕を見ないで!」
本だけだと、学びには限界がある。
だから、私とフローレンスはこうして日々、臨床実験をしているという訳だ。
フローレンスがいることによって、私にも大きなメリットがある。
それは、成長の促進だ。
チャールズやフローレンスと比べると、どうにも私だけが子供過ぎる。
数歳は下に見えてしまう。
フローレンスは二次性徴が始まっているし、チャックもそうだ。
でも、私にはその気配が全く訪れない。
なので、毎晩寝る前にフローレンスに、成長ホルモンを分泌する主な臓器に、回復魔法をかけて刺激してもらっている。
視床下部、下垂体、性腺、卵巣あたりだ。
今のところ、全く効果はない。
※
十日ほどかけて、リュミエールに到着した。
裏街道とは言え、首都リュミエールには城壁を超える門がある。
そこで身分証をチェックされた。
私と姉は、リュミエールでも活動している冒険者なので、何の問題もない。
片目剣士のオジちゃんは、衛兵に最敬礼で迎えられていた。
チャールズとフローレンスは、オジちゃんの養子だ。
同じように通してもらえた。
「うわっ、相変わらず凄い人の数だ」
「本当ね。今までの街とは大違いね」
「嬢ちゃん、これからどうする? ワシは陛下に謁見申請を出したいんや」
「そうですね。まずは冒険者組合で手続きしちゃいましょうか。その後、宿にチェックインして、そこから個別行動にしましょう」
「了解や。じゃあ、こっちやな」
「北支部の方に行きましょう」
「え? おお、そやな。女子供やさかいな」
片目剣士のオリバーオジちゃんは、馬の方向を北方向に変えた。
門から馬に乗って三十分。
南から北に向かうと分かる。
少しずつ、歩いている人の雰囲気が変わって行く。
馬車道を進む馬車も、ちょっと立派になった感じがした。
いつもは夏に来ていたので、冬のリュミエールは初めてだ。
それでも、冬独特の寂しい感じはしない。
一枚着る服が増えただけな印象を受けた。
同じマントを着て馬に乗る私達が少し珍しいのか、通行人からの視線を感じる。
先頭は見るからに冒険者風の男性だし、
二列目は、見目麗しい金髪碧眼の姉妹だ。
二人とも長い金髪をポニーテールにして、黒いつば広の帽子を被っている。
ひょっとしたら、あの帽子も流行るかもしれないな。
馬に乗る姿勢も、ピンと背筋が伸びていて格好が良い。
三列目に並ぶ、私とチャールズも兄妹に思われているだろう。
姉たちの後ろに並ぶと、従者っぽく思われるかもしれないが。
アスファルトで舗装されている馬車道から、角を曲がって石畳の道に入る。
冒険者組合北支部の建物の前にある馬繋場に馬を留めた。
冒険者組合に入ると、受付のお姉さんが挨拶をしてから奥へと入っていった。
しばらく待つと、ヘレーネさんがやって来た。
「お久しぶりです。エッジ・シーカーの皆さま。ご元気そうで何よりです」
「ヘレーネさん、こんにちわ。今日は買い取りと、仲間の冒険者登録、パーティ登録をお願いに来ました」
ヘレーネさんは、最初にここを訪れて、買取を担当してくれた人だ。
それ以降、私達が来ると担当してくれるようになった。
奥の一番広い会議室に通された。
私は途中で一度、買取手続きの為に外に出た。
男性連中を引き連れ、買取用の収穫物を買取窓口へと運んでもらった。
リヤカーいっぱいに木箱を詰め込んでも、三往復分もあった。
その後、会議室で再び合流する。
姉とヘレーネさんの話は進んでいたようだ。
フローレンスが冒険者登録用紙に記入しているところだった。
「これまでパーティで貯めていたお金は、一度、私とララの二人の個人口座に分けて入れて欲しいのです。あ、十万Gだけ残しておいてください」
「かしこまりました。お二人の冒険者カードをお預かりします。半分ずつで宜しいですか?」
「いや、八対二で。私が二割です」
「アス姉、半々にしよう。常に半分こだよ」
「分かったわ。では、半々で」
「うふふ。相変わらずお姉様思いなのね。えっと、男性のお二人も冒険者登録ですか?」
「いや、ワシは既に登録しておる。息子と娘だけや。ワシの冒険者カードはこれや。嬢ちゃんたちと同じパーティに登録してくれ」
「失礼しました。二級冒険者の方、あ、オリバー・アシュトン様……。元王宮護衛官の。それは……、良いお仲間を見つけましたね。しかも、丁度良いですわ。おそらく、エッジ・シーカーのお二人も、今回で二級冒険者に昇格なされます。五名中三名が二級冒険者なので、二級パーティとして活動できますよ」
「何か良いことがあるのですか?」
「はい。買取金額が五割増しになります。指名依頼の基礎報酬額も同様です。組合と提携している宿屋、馬車、船の運賃、武器防具店での割引が四割となります」
「すごい……。半分近くになるってことですね……」
「はい。二級冒険者パーティはサンテールでも五組しかいません。しかも、いずれも護衛や討伐依頼を主としている方々です。調査・採集依頼を専門になされるパーティとしては、国内唯一になります。また指名依頼が殺到しますね」
「はは……、まあ、やれる範囲で頑張ります」
「今も指名依頼が沢山来ていますけど、どうなさいますか?」
「買取窓口に出した物で賄えるものは、依頼を受けて達成したことにしてください。残りは後で確認しておきます」
「かしこまりました。それでは、チャールズ様、フローレンス様の冒険者登録、皆さまのパーティ登録、これまでのパーティ預り金の個人振替を先に手続きしてきます。しばらくお待ちいただけると」
ヘレーネさんが丁寧に礼をして出て行った。
オジちゃんが、冒険者としての今後の活動方針を確認してきた。
「嬢ちゃん。ワシとチャールズがおるから、護衛も討伐任務も受けられるど、どないする?」
「そうですね。空間部屋の内装工事が終わるまでは、お二人で護衛か討伐依頼を受けてくるのが良いと思います。チャールズの訓練にもなると思いますから。旅が始まると長期の依頼は受けられないですからね……。ただ、パーティの受注可能項目には護衛、討伐と、医療も入れておきましょう」
「せやな。フローレンスとチビちゃんの二人がおる。おそらく世界一の医療パーティにもなるんちゃうか」
「間違いないでしょうね。ただ、もう少し様子を見ましょう。まだ私達と、この冒険者パーティの繋がりはバレていないと思うので」
「アス姉さん、エッジ・シーカーってパーティ名、格好いいね。世界の果ての探究者って感じかな。僕もそう名乗ることにするよ。『エッジ・シーカーのチャールズです』。格好良いな」
「ふふ。元はね、ララの『終末の使徒』を意訳したのよ」
「『ワールドエンド・メッセンジャー』とかだったら、ヤバイけどね」
「アス姉、ここにいる間、医療の依頼も私とフロで受けるから、ヘレーネさんに言っておいて」
「わかったわ。連絡先を決めないとね。先に宿屋を決めるべきだったかしら」
ガチャっと、ドアが開いて、ヘレーネさんが入ってきた。
トレイに色々なものが乗っていた。
「まずは、個人の預り金への振替書となります」
アス姉は金額をチラっと見た後、私に書類を渡してきた。
半分こしても一千万Gを軽く超えている……。
ヤバし。
すぐに空間収納に格納した。
「こちらが、オリバー様、チャールズ様、フローレンス様の冒険者カードとなります。そして……指名依頼書がこれで……」
テーブルに書類の束をドンと置いた。
全員が驚愕の顔を浮かべた。
姉ですら、その多さに眉をしかめた。
「今回、持ち込み頂いた物の中に、指名依頼があるものが多数ありました。ですので、こちらの指名依頼は受注して達成したことにさせて頂きます。どなたかサインをお願いします」
先ほどの書類の束と同じだけの量の書類が置かれた。
これは一人でサインする量ではない。
五人で手分けしてサインすることにした。
ヘレーネさんにペンを借りて、皆に割り振った。
「何か、後ろめたいわ……」
「分かるで……。ワシら荷物運んだだけやからな」
「まあ、アヴェリーヌで頑張って働いた分だと僕は思うことにするよ」
「そんなこと言ったら、わたしだって同じですよ。殆どがララのお陰ですからね」
「まあ、嬢ちゃんは、チビちゃんのマネジメントを一手に引き受けているしな」
「うう……。やっぱ、チャック、貴方、ちゃんと肉壁になりなさい。ララの代わりに死ぬのよ」
「いや、フローレンス、どうして死ぬことになっちゃうのよ。僕がその前に敵を屠るし、ちゃんとララちゃんは守るよ」
「そうは言ってものぉ。チビちゃんが一番、防御力高いからな」
「はは……、間違いない」
皆がペンを動かしながら、そんな会話をしていた。
ヘレーネさんはずっと笑いを堪えている。
必死でペンを動かして、受注していたことにする指名依頼書にサインを終わらせた。
「ありがとうございます。買取金額ならびに依頼達成代金を合計した額がこちらになります。問題なければ、お支払い手続きを行ってきます」
「はい。問題ございません。また、一万Gだけ現金でお願いします。残りはパーティ預かり金で」
「かしこまりました」
ヘレーネさんが出て行った後、全員が姉が持つ書類に顔を寄せた。
「はあ! 百六十万G! そんなアホな!」
「オヤジ、声がデカい」
「そ、そうよ、落ち着きましょう。スーハースーハー」
「ふふ。わたしも最初は同じ感じでした。何度かやると慣れるもんなんですよね。どうしましょう。五等分じゃダメか。何割かパーティ共通費用にして、旅費、食費に回しましょう」
「半分で良いがな……半分は共通資産にせんと、ワシらのメンタルが保たん」
「いや、オヤジ、半分にしても一人頭、十六万Gだよ……。荷物運びと収穫作業だけで……」
「次からは命をかけるミッションかもしれない。お金で買えないくらい大変なことは、これからだよ。あと、ララは大人になったらフロと医院を建てたいから、お金貯めたいし。皆んなも将来のために貯蓄するべき」
「その、医院には僕も出資するよ」
「ワシもや」
「じゃあこうしましょう。今回、空間部屋の内装工事とかにお金を使います。それら初期投資を差し引いて、残った額の半分をパーティの費用。半分は等分するで預かっておきます。また貯まってきたら、考えましょう。とりあえず、今日は現金二千Gのお小遣いを配りますね」
「二千って……、剣が新調できるで」
「あ、オジちゃん、新しい剣を買ってきなよ。それはパーティ予算だよ。チャックの分も買ってあげて。一番高くて、一番良い剣にしてね。絶対ケチっちゃいけないところだよ」
「まじかいな……。まあ、わかったで。後でチャックと行ってくるわい」
その後、私と姉は二級冒険者カードを受け取った。
全員に小遣いも配った。
ヘレーネさんにおすすめの高級宿を紹介してもらって、チェックインを済ませた。
女子部屋はリビング、ダイニング、お風呂、それにベッドルームが二つも付いたスィートルームだ。
男性陣はツインで良いと言っていた。
宿屋には一ヶ月分の代金を前払いしておいた。
男性陣は謁見依頼、武具屋に行ってから、討伐依頼を見てくると行って出て行った。
私達は内装工事の業者と商談だ。
※
国王陛下の謁見の返答が来たのは翌日だった。
指定されたのは明後日の昼。
思っていたよりも早かった。
私達はそれぞれ忙しい日々を過ごしていた。
内装工事も始まったので、朝晩と目隠しして、大工さん達を連れて行かないと行けない。
オジちゃんとチャールズは新しい剣を持って、毎日何処かへと向かっていた。
私達は、パーティ全員分の洋服を見繕ったりした。
姉は既製品を買わずに、オーダーメードで買い揃えた。
ブリオー(シャツ)、ブレー(長ズボン)、ショース(靴下)、腰帯。
シェーンズ(下着)までも揃っていた。
これまで着ていたシェーンズとは違って、柔らかい絹製のもの、動きやすい綿製のものもあった。
ブリオーは細身のシルエットで、腿が隠れる程度の短さだ。
厚手長袖、薄手のもの、半袖と各種揃えた。
デザインは全て同じ。
色合いは、個人で分けてあった。
オリバーのオジちゃんは、茶髪に合う様に、同色の色合いだ。
明るい茶色のブリオーで、ズボンはアイボリー、靴下は焦茶。
姉は上から濃紺、アイボリー、濃紺。
フローレンスは水色、グレー、濃紺。
チャールズは黒、グレー、黒。
私はグレー、黒、グレー。
笑えたのは、左胸にそれぞれの数字が入っていたことだろう。
『V』『XX』『LV』『XXV』そして、『I』。
見る人が見れば分かってしまう奴だ。
女性陣は、つば広の帽子を被る。
マントは全員一緒。
ワークブーツもお揃いだ。
風変わりなファッションでも、五人揃えば格好良いと思う。
ちなみに個人的なお気に入りは、絹製品のネグリジェである。
※
国王陛下の謁見の前日、私達は王女殿下と会った。
本人から王女殿下だと直接言われた訳ではない。
でも、あの人が王女殿下だと言う事は、私には分かったし、その場で皆んなにも告げた。
リュミエールに出現し、サンテール国王陛下に保護され、後に養子縁組された王女殿下。
選ばれし使徒だ。
コード番号は『002(ダブルオーツー)』。
私の次の番号を持つ使徒である。
『時の管理人』と呼ばれていたはずだ。
冒険者組合のヘレーネさんから、緊急の治療依頼が入った。
かなりのお金持ちからの依頼で、金額が破格。
そう言って、へレーネさんから伝言が入った。
金額に関わらず、私達は受けただろう。
宿屋のスウィートルームに来てもらう様に返答した。
やって来たのは、少女と老執事。
そして、ワンちゃんだった。
「ワタシはマリーよ! そして執事のジャン! この子はモジャ君よ!」
宿屋のリビングルームに通されるや否や、少女は元気よく告げた。
黒髪黒目。
東の国の民族。
私よりも、ほんの少しだけ高い身長。
それだけで、私は好感を持った。
目鼻立ちのハッキリした顔。
お人形さんの様な顔立ちに、綺麗に切り揃えた前髪。
相当な美人さんだ。
そして、何よりも口をニカっと開けた笑顔が可愛い。
元気いっぱい、明るく挨拶した女の子だったが、次の瞬間に使徒だと分かった。
女神からの神託が彼女に降りたのだ。
当然、念の為に私達の周りにも、来客の周りにも結界を張っている。
突然襲われることもあるのだ。
ある程度の保険は必要だ。
その結界に通信干渉があった。
位置情報通信ではない。
あれは通信を受信したのだ。
そして、宛先は老執事ではない。
この少女だ。
この子が、凄く嫌そうに、悲しそうな顔をしたから。
姉が私達三人の紹介を終わらせた。
その後は私が引き継ぐことにした。
「私が『週末の使徒』。話は後にしよう。まずはそのワンちゃんを治す。その子に罪はない。女神も関係ない」
姉とフローレンスがギョッとした顔をした。
なぜ、身分をバラすのか?
そんな疑問を顔に浮かべていた。
老執事から殺意が生じたのは、その次のセリフでだ。
「『時の管理人』よ。そこのソファに座っていて。ララにその子を治す時間を頂戴」
姉が私の前に立った。
老執事も一歩前に出る。
「ジャン! 下がりなさい!」
少女が抱いていたワンちゃんを収納魔法で一度しまい、私の腕に取り出した。
転移魔法の様に見えただろう。
老執事からの警戒度がさらに上がった。
「凄い! 凄いわ!」
少女は、ひまわりの様な笑顔を浮かべて、手を叩いた。
もう、私達に任せる覚悟を決めたのだろう。
ソファに座って、両手を胸の前で組んだ。
「ローシェン……、超絶可愛い」
ローシェンは、「小ライオン」と呼ばれる小型犬だ。
お金持ちや身分の高い人しか飼っていない。
私も初めて見た。
たてがみやしっぽの先の飾り毛が、ライオンのようなカットをされている。
大事にされてるのが伝わってきた。
「そうなの! わかる? モジャ君って言うのよ」
「うん、可愛い……。足が悪いのね……。骨折したのかな……」
「うん……、ちょっと目を離した隙に、どこかに行っちゃって、見つかった時にはもう足を怪我してた。ワタシには治せなかったのよ。お願い! このままだと歩けなくて早死にしちゃうわ!」
「分かった。ちょっと待つ」
少女が心配しないように、小さなテーブルを彼女から見える位置に置いた。
その上にモジャ君を乗せる。
フローレンスと一緒に診断魔法をかけた。
「ララ、右の後ろ足ね。どうする?」
「うん、変な形で治りかけちゃってる。もう一度折るか。私が折って整形する。その後、すぐに濃い回復魔法をかけて」
「折る……、痛がるわ。先に全身に回復魔法を痛み止め代わりにかけたいわ」
「オッケー、それで行こう」
足の骨に魔力を纏わせた。
結界魔法でその周囲を固める。
折れた箇所を上下別々に囲った。
ちょっとズラせば折れるはず。
「フロ、こっちはオッケー」
フローレンスが全身に回復魔法を浸透させた。
彼女が小さく頷いた瞬間にパキっと折った。
「キャン!」と小さく鳴き声がした。
フローレンスが、骨だけに集中して、濃い回復魔法をかけた。
みるみる骨が再生していく。
「フロ、完璧。また質が上がった」
「良かったわ……。嬉しい。この子の未来を守れたわ」
二人でハイタッチをした。
モジャ君を先ほどと同じやり方で、収納して、少女達を囲む結界の中に出してあげた。
嬉しそうに走り回るモジャ君を見て、少女は飛び上がって喜んだ。
私達が治療している間にも、女神の通信があった。
しかも二回。
でも、少女は動かなかった。
彼女達の周りの結界は解除する。
代わりに、部屋全体を囲う結界を作って、通信を遮断した。
「女神の指示を無視しちゃったね。どうする?」
少女はビクっと反応した後、しょんぼり顔で私を見た。
表情がクルクルと変わる子だ。
素直で明るい。
本当に良い子だ。
こんな子を利用するのは最早、悪意の塊だと思う。
「声がするの……。女神様の声が」
姉が少女の前にスッと跪いた。
そして、目線を合わせて静かな声で話しかけた。
「王女殿下。わたしの話を聞いていただけますでしょうか」
ここから先はお馴染みの流れだ。
今回はフローレンスもいる。
適切な補足もあった。
私は各種自動機械を取り出して見せるだけだ。
ひと通り話を聞いた少女は、私を見て言った。
「ララ。ワタシの頭からも取り出して! もう嫌よ! 二度と聞こえない様にしたいわ!」
「いいよ。でも、女神に敵認定されるよ。ララ達と同じ。しかも、貴女はダブルオーツー。ララと同じ様に狙われるかも」
「構わないわ! 誰かを殺せと命じるヤツより、動物を助ける人の味方になるわ! 当たり前よ!」
ソファから立ち上がり、私と同じ全く膨らんでいない胸を突き出して宣言した。
ただ、老執事がそれを静かに諌めた。
「王女殿下。どうか陛下に相談してからにしてください。お願いします」
「頭の中よ! 言わなきゃバレないわ!」
そりゃ違うだろと、この場の全員が心の中でツッこんだ。
でも、私は賛成だ。
自分の人生に関わることだ。
自分の意思で決めるべきだと思う。
「いいわ。手を広げて。そこに取り出す。体液でベチョベチョしてるけど、自分のだから」
一瞬で取り出した。
老執事だけが、ギョッとした顔を見せた。
少女はじっくりと小さな自動機械を眺めた後、それを右手に持ち、高々と掲げて宣言した。
まるで野に咲く満開のサンフラワー。
満面の笑みだ。
「これでワタシは自由よ!」
どこかの国の緑色の銅像が頭に浮かんだ。
『レディ・リバティ』
そんな名前がチラついた。
その女神の周りを小さなライオンが、ワンワン吠えながら、クルクルと走り回っていた。
僕も自由を手に入れたぜ、どこまでも走るぜ、そんな鳴き声で走り回っていた。




