覚醒の予兆
「次の試合は特に気合い入れんとアカンな……」
予選二回戦が終わって15分のインターバルで少し寛いでいた所、ポツリと師匠が言葉を漏らします。
「いつも気合い十分で試合をしていますよ?」
「呟いてたの聞こえてた?」
「普通に聞こえてたわよ……」
「……聞こえてたならしょうがないな……
フェリシアちゃん。今までの予選と次の試合の一番大きな違いって分かるか?」
「次の試合は参加パーティーが8組とこれまでの試合より少ない事です。」
「それも正解やけど、もっと大きな違いがあるで」
「次に勝てば本戦に出れる事を言いたいのでしょ?」
「フィルちゃん大正解。次の試合に勝つか負けるかで結構大きい差が生まれるねん。
報酬はもちろん、このゲーム内での名声がはね上がるのが大きいで」
「名声なんて要らないわよ」
「私も特に欲しくないです」
「お嬢様以外にジロジロ見られるのは不快ですね……」
「……君らホンマにそういうの興味ないよな……
名が売れるってのはそんなに悪くないで。
例えばNPCからの好感度が上がりやすくなってイベントの発生にも繋がるし、プレイヤー同士でも有利に働く場面は多いで」
「「「……」」」
「興味無さすぎやろ……」
「君らは要らんかもしれんけど、名声が欲しいプレイヤーは多いねん。
つまり、全員死に物狂いで戦うからかなり手強いって話や」
「強い方といっぱい戦えるのは嬉しいです!」
「そうじゃないと面白くないわね」
「誰だろうと関係ありませんね」
「……君らには愚問やったな。
そろそろ時間や! いつも通り勝つで!」
「はい!」
「ええ」
「勿論です。」
師匠の掛け声に答えたタイミングで丁度時間になったのか、私達は予選三回目のフィールドへ転送されました。
転送の白い光がなくなると、そこには木々が立ち並ぶ景色が広がっていました。
「今回は森林フィールドか…二戦目よりも死角が多いから奇襲に気をつけるのは勿論やけど、開けた場所が少ないから個人戦になる場合が多いで」
「木々が邪魔で面倒な所ね……」
「魔法も木が邪魔で射線が通りにくそうです……」
「まあ、相手さんも同じ条件やから、いかに早くこの環境に順応するかやな」
「頑張ります!まずは周囲の確認をしますね『空間把握』!」
「……少し遠いですが南東に4人いますね…」
「南東か…行くのを迷うなぁ……動くと隙が出来やすいし、罠に嵌まるかもしれんからな……」
「!?…北から3人が凄いスピードで接近中です!」
「なんやて! どれぐらいでエンカウントしそうや?」
「このスピードだと1分かからないです」
「くそっ!高速で移動やと……」
「とりあえず全員戦闘準備や!」
「はい!」
「こちらに向かってきた事を後悔させてあげる」
「お嬢様は私が守ります!」
草木を掻き分ける音が凄い速さで近づいてきて、私達はピンッと張り詰めた空気の中、相手が姿を現すのを固唾を飲んで待っていると、3人の男性プレイヤーが先制攻撃を仕掛けてきます。
「縛れ!『ソーンバインド』」
「いけ!『ライトニングスピア』!」
「噛み砕け!『ロックバイト』!」
まず、棘だらけの茨が私達の動きを封じようと、近付いてきますが、師匠が『ヒートエッジ』で全て斬り落とし、斬った断面からは着火してそのまま灰となって消えます。
「は?…アレを斬るのか……」
次に雷の槍が私を貫こうと迫りますが、『リフレクション』で跳ね返し、旗のような物を持った男性の右肩に当たりました。
「がぁ!……」
最後に魔法を発動した槍を持った男性は地面に槍を突き刺すと、地面が徐々に隆起し、石で出来た大型犬のように姿を変えて突進してきます。
「躾のなってない駄犬ですね……」
ユキナはボソッと呟き、飛びかかってきた石の犬の下顎をかち上げ、尻尾の付け根の部分を薙ぎ払う事で、石の犬をそのまま転倒させてしまいます。
転倒させられた石の犬はそのまま動かなくなり、石の塊へと戻っていきました。
「嘘だろ!?」
先制攻撃を凌いだ私達はすぐさま反撃に転じます。
「俺は茨を出したヤツを叩くから、フィルちゃんは旗を持ったヤツで、ユキナさんとフェリシアちゃんは槍を持った男を頼む!」
「分かりました!」
「すぐに倒すわね」
「叩き潰します」
「どうやって集まったか知らんが、相手は全員ベテランプレイヤーや!だから気ぃつけや!」
奇襲を受けた形にはなりましたが、予選三回戦の最初の戦いの幕が上がりました。
「オレの相手はお前か…不死身のパンダモン!」
「俺の事を知ってるんか?」
「前回の大会で7位を取ったお前の事を知らないヤツは新人以外にいないだろうよ」
「俺も有名になったもんやで…さて、お喋りはこの辺にしてそろそろ行くで!」
「ああ、来い!『バンブーマイン』、『エンドレスト』、『バンブーマイン』!」
……んっ? 2回もスキルを発動したはずやのに、何も起こらんやと……
多分、アイツのスキルは時間差で効果が発揮するか、直接攻撃じゃなくてなんか違う効果を持ったスキルか…?
確かアイツはバンブーマインって言ってたな……竹と地雷か…?って事は十中八九トラップ系やな……
くそっ……俺の事を近付けんつもりか……どうせこのまま待ってても状況が良くなる訳でもないし行くか!
「行くぜ!ー『アサルトステップ』!」
「バカめ! 真っ正面から突っ込むなんて無謀だな!
ここはトラップだらけなんだよ!竹の槍に貫かれて消えろ!!!」
俺がアサルトステップで奴との間合いを一瞬で詰めようとすると、奴から5m程手前の地面を踏み込んだ瞬間、地面から竹の槍が猛スピードで迫る!
「チッ…間に合え『ヒートエッジ』!」
俺は迫る竹の槍を焼き斬る事に成功したが、奴との距離を更に詰めようとすると、また竹の槍が地面から射出される。
「くっ…これは無理や…」
俺は被弾を覚悟しながらそのまま距離を詰めようと、自分から竹の槍に向かって突き進む。
たが、貫かれると思った瞬間、俺の目の前に半透明な帯状のものが現れ竹の槍を防ぐ
「なに!?…なんだその帯みたいなのは!? 俺のバンブーマインを防ぎやがって……」
これはフェリシアちゃんのオリオンベールか…?
あんな距離からサポートしてくれてるのか?凄いな……
マジで感謝や!このチャンスは逃されへんな!
「おらっ!『ソウルキャリバー』!」
「舐めるなよ!『エンドオブソーン』!!!
…………はあ!? スキルが使えないだと……」
フェリシアちゃんのオリオンベールは防いだ魔法の属性を封じるんや!
俺の剣がパニックになってる鞭男の首を捉え、そのまま首を落とした。
「かひゃ!……」
ふぅ……相手の練度が高くて結構危なかったけど、フェリシアちゃんのお陰で助かったわ
「サンキューフェリシアちゃん。」
俺は遠過ぎて聞こえなくてもフェリシアちゃんに感謝を送る。
「さて、他のフォローに回るか……」
『ライトニングシェイプ』
「オラオラ! 速すぎて見えないだろ。可愛子ちゃんコッチコッチ~」
私の相手は槍を持った雷を使う男…シアがライトニングスピアを反射させ自滅してたくせに、
雷を纏って物凄いスピードで飛び回り、煽ってくる姿はかなり腹が立つわね……
「どこから攻撃来るか分からないだろ? くっ…光の槍?か…? まあいい、気付かないままやられるがいい!『サンダーチャージ』!!!」
光の槍…シアの魔法?……まあ置いときましょ…
それにしても、この男バカなのかしら?
高速で飛び回れるなら、遠距離で攻撃する方が反撃のリスクもないでしょうに……
折角場所を悟られないように、木々に隠れながら高速で移動していたのに、突進技で接近なんかしたら場所がバレバレでしょ……
「ハァ……『百花繚乱』…」
「なんだ…? スキル名か…?」
「まあこれで終わるから関係ないな! オラッ!貫いてやるぜ!」
百花繚乱は脱力により、全方向への重心移動をスムーズにし、最小限の動きで攻撃を回避する"花"の型の奥義。
なので、何の捻りもない直線的な動きなんて余裕で回避出来る技なの…だからこの光景も必然ね……
「な、何!? 俺の攻撃がすり抜け…」「瞬月!!」
「がぁっ!……お、俺の足がぁ……ぁぁ…」
首は遠くて刀が届かないから、代わりに足を斬り落としたのだけど、そんな絶望した表情を浮かべられると気まずいわね……
「クソッ!…一時的に透明になるスキルを持ってたのか……」
「あれはスキルじゃなくて、技術ね」
「スキルじゃないだと……リアルチート持ちか……」
「私の努力が否定されたみたいで、チートって呼ばれるのは嫌ね……」
「それで、まだ続けるのかしら?」
「い、いや…この足じゃ満足に戦えないから、見逃してくれないか?」
「えっ?……そっちから奇襲してきたくせに、何を言ってるのかしら?」
「あ、謝るから許してくれ!」
「はぁ……貴方……もういいわ…すぐに楽にしてあげるわね」
「ひぃぃ……クソッ!…絶対逃げ切ってやる『ライトニン……
『シールチェーン』
「な、なんだこの鎖……スキルが使えないだと!?」
「その鎖は移動系のスキルの使用を封じる効果があるのよ」
「……いいさ、やってやる…やってやるぞぉぉぉ!」
「うるさいわね……さっさとかかってきなさい」
「うぉぉ!『ライトニングスピア』!!」
『リフレクション』
「ぎゃぁぁ!……」
「もう終わりかしら?」
「いきがるなよ!…リフレクションはクールタイムで使えないからこれば防げないだろ!『ボルトアロー』!」
「散雪!!」
「はあぁっ!?…俺のボルトアローを全部斬り落としただと!?」
「それで次は?」
「ひ、ひぃぃ……ならばこれだ『サンダーボルト』!」
「空雪!!」
「!?……上からの雷でも無理なのか……」
「そろそろネタ切れかしら?」
「……ならばコッチも拘束してやる!『サンダーチェーン』!」
「明月!!」
「……拘束も通じないのか…クソッ……」
「万策尽きたようね…ではさようなら」
あのバカは予選二回目の雷使いよりもスペックは高そうだったけど、使い方がなってないわね……
さて、シアとパンダモンさんの方はどうなってるかしら?
「次はこれだ!『ロックランス』!」
「無駄です。『パリィ』!」
「チッ…ならこれだ!『アースクエイク』!」
「させません!『サユクチュアリ』!」
「ちっ…領域系のスキルで上書きされたか……」
サンクチュアリは私を中心に聖域を展開するスキルで、聖域内は全ステータスの向上と継続的なHPの回復そして、聖域外からの範囲攻撃を防げます。
もちろん強い攻撃は防げないので、万能ではありませんが、かなり強いスキルです。
アースクエイクは地面が隆起し広範囲にダメージを与える魔法なので、今回は完全に防ぐことが出来ました。
「お嬢様ありがとうございます」
ユキナはお礼を言ったあと、槍を持った男性に攻撃を仕掛けますが、元々のATKが低く、サンクチュアリの効果を受けてもあまりダメージがありません。
あまり時間をかけると南東にいる方々が来られるかもしれませんね……
『リフレクション』『フィジカルギフト』『リーインフォース』
リフレクションで体勢を崩し、フィジカルギフトでユキナのATKを上昇させ、ユキナの攻撃のタイミングを逆算しリーインフォースで大幅にダメージを増やしますが、槍を持った男性のHPがまだ3割ほど残っていますね。
追撃のセイクリッドランスで倒そうとしても岩の壁が出来て防がれてしまいました……
「ちっ!……リーインフォースが成功したか…『大地の恵み』!』
大地の恵みを使うと、相手の方のHPが凄い勢いで回復していきます。
これは…私達で倒しきるのは時間が掛かりそうですね……
そう言えば、予選が始まってから個人個人では戦って来ましたが、パーティー全体として戦ってませんね…
なので、近くにいる仲間のサポートはしてきましたが、遠くにいる仲間のサポートは出来ておらず、パーティー戦ではなく個人戦になってます。
遠くの仲間もサポート出来るようにもう少し視野を広げてみましょうか……パーティー全員で勝ちにいきたいですから!!
後から振り返ると、この気付きが今までのサポートと一線を画した瞬間で、私がヒーラーとして開花した出来事でした。
『オリオンベール』『セイントランス』
師匠が危なかったのでオリオンベールべ防ぎ、フィルちゃんの相手は高速で移動してたので、足を止める為にセイントランスで牽制します。
「どこに魔法を撃ってやがる? まあいい。これで終わりだぁー『アースドラゴン』!!!!」
槍を持った男性がスキルを叫ぶと、岩で出来たドラゴンが現れます!
「……凄く大きいです!」
「無駄にでかいトカゲですね……」
「行け!アースドラゴン。全部食らい尽くせ!」
「ギャァアアアォォオ!!!」
「くっ!……重たい攻撃ですね…受け流しきれません…」
「ユキナ!?『リジェネレーション』!」
「お嬢様お下がりください。このトカゲ結構やります……」
ユキナが苦戦するなんて、中々凄い魔法のようです。
ただ、魔法で現れたドラゴンなので、時間経過で消えるか蓄積ダメージで消えるか何か条件がありそうです。
「ギャアォォオ」
「うるさい!」
『クイックヒール』『セイクリッドランス』
「ほぎゃぉ!…」
「あっ!……」
術者の男性が無防備だったので、セイクリッドランスで攻撃すると、直撃して吹っ飛んでしまいました。
これって致命的な弱点なんじゃ……
私はクールタイムが開けたセイントランスで攻撃します
『セイントランス』
「はぎゃ!…」
「えっと……もしかしてアースドラゴンを出してる間、スキルの使用って出来ないのでしょうか…?」
「ギクッ!……なんの事か分からないな…」
凄く図星をつかれた顔なのですが……
私の攻撃魔法はどちらもクールタイム中なので、近接戦闘を行おうと装備を変えます。
「黒雪…初陣ですね! 一緒に頑張りましょう!」
私は黒雪を装備し槍を持った男性に向かって距離を詰めます。
「なっ!?…ヒーラーじゃなかったのか!?」
「ヒーラですよ!」「春風!!」
「ぐぁ!…俺の右手をよくも!!」
「瀧花!!からの舞鳥!!」
黒雪の柄で相手の槍を叩き落とし、回転の力を上手く使って連撃を繰り出す"鳥"の型の基礎である舞鳥で、相手に反撃の隙を与えません。
「ぐぁ!…がっ!…おゎ!…ぎゃぁ!……ぐはぁぁ!……」
12撃目で相手のHPが無くなり、ユキナと対峙していたアースドラゴンも消えました。
「ふぅ~なんとか勝てましたね!」
「お嬢様のお陰ですね」
師匠の仰ってた通り、三回戦ともなると手強い方が多いですね……
予選三回戦の戦いはまだ始まったばかりです……




