予選二回目は新たな世界を覗いてしまいます……
予選1回目は圧倒的な勝利で終わりましたが、ほとんど何もやっていない私は不完全燃焼でご機嫌斜めです。
「つーん」
「なんかフェリシアちゃん、ご機嫌斜めじゃないか?」
「イベント始まる前からやる気満々だったのに、先の試合では殆ど何も出来なかったから拗ねているのかしら?」
「……」
フィルちゃんが私の胸中を的確に把握しています……
「えー…フェリシアちゃん……君が活躍する場面って結構ヤバい状況やねんな…
強敵が来たらフェリシアちゃんの力がめっちゃ必要になるから、それまでやる気を温存してもらえへん?」
私だってそれぐらい理解はしていますが、やる気満々で挑んだのに、肩透かしを食らったので、感情の整理がつかないのです……
「お嬢様は大丈夫ですよ。少し時間を頂けると、自身で折り合いはつけられるでしょう」
「お嬢様は普段はそこまで表情に出しませんが、イベント前の熱意を消化しきれていないのでしょう……
少し大目に見て頂けませんか?」
「そうやったんか……フェリシアちゃんゴメンな。
テンション上がってバンバン倒してもうて……」
「い、いえ……師匠のせいではありません。もちろんフィルちゃんのせいでもありません。
私が勝手にやる気になり過ぎていただけです……」
「私はやる気になり過ぎる事が、悪いとは思わないわ。特にシアのやる気は周りにも伝播し、見ていて力を貰えるわね。」
「フィルちゃん…ありがとうございます。
ですが、感情をコントロール出来ない私は、いつまでも子供のようで恥ずかしいです……」
「まあ、大人でも感情をコントロールするのは難しいから、あまり気負わずに気楽にいきや」
感情は大人の方でもコントロール出来ないのでしょうか?
身近にいる大人の方は感情を表には出さないので、感情的になる性格を一向に改善できない私はいつまでも子供のように思っていました。
ですが、大人の方も感情をコントロールするのが難しいと聞き、私も徐々に改善していけば良いと思い、自然と焦りが消えていきます。
「師匠ありがとうございます。もう大丈夫です!
次の試合も頑張ります!」
「その意気やで!」
話をしている間にインターバルの15分が終わり、予選二回目が始まり、転送されます。
「今回は廃墟ステージか…開けた場所もあるけど、建物に隠れて死角から不意打ちが来るかもしれんから気をつけや!」
「分かりました師匠。『空間把握』!」
「北に4人、南西にも4人です!」
「両方とも開始早々フルパーティーって事は、初心者3人とベテラン1人やな。さて、どっちから行く?」
「シア。どちらのパーティーが近いのかしら?」
「南西の方が近いです」
「ありがとう。南西から順に叩きましょう」
「OK。早く終わらせんと北の奴らも来てまうからすぐに出発や!」
「今度こそお役に立ちます!」
やる気を漲らせて、南西へ向かいます。
死角に気をつけながら進むと、女性4人のパーティーを見つけました。
このイベントで初の女性プレイヤーとのエンカウントです!
仲良くなりたい気持ちもありますが、負けられない理由がありますので、心を鬼にして対峙します。
「女性プレイヤーか……ちょっとやりにくいな……」
「そちらも冴えない男と凄く可愛い女の子3人じゃない。」
「ねぇ、貴方たち そんな男のパーティーなんか抜けて、うちに入らない?」
パーティーリーダーである年齢不詳の妖艶な女性が、師匠に対し敵意剥き出しの表情を浮かべながら、私達に問いかけます。
「いえ、今は試合中ですのでお断りします」
「じゃあ、試合が終わってから、一緒のパーティーで遊びましょ」
試合の真っ只中なのに、まさか勧誘してくるなんて……
でも、仲良くしてくれる方が増えるのは嬉しいですね
「こちらこそよろし…」「お断りします!」
えっ!?……私の返答の途中にまさかの妨害です……
少し非難を込めた目でユキナを見ると、相手の女性に対して、警戒心が剥き出しの表情をしていました。
ユキナが何をそんなに警戒しているのかは不明ですが、流石に相手の方に失礼ですので、注意をします。
「ユキナ…初対面の方に対して失礼ですよ。」
「いえ、あれはお嬢様を狙っている目をしています。
警戒し過ぎるぐらいで丁度良いです。」
「今は敵同士なので、狙っていて当たり前じゃないですか……
でも、試合終了後は仲良く出来るはずです!」
「あの女は、そちらの意味で狙っている訳ではありません」
「えっ!?…どういう事でしょうか?」
「率直に申し上げますと、あの女はお嬢様を性的に狙っている目をしています」
「えっ…?? あの方は女性ですよ?」
「中にはそう言う方もいらっしゃいます。
私の勘が、ずっと警鐘を鳴らしていますので、まず間違いないかと……」
「……そんな事…」「気付かれてしまっては仕方ないわ」
「え?……」
「そうよ。貴方たち3人とも凄く美味しそうだもの…
特に真ん中の銀髪の娘は最高ね」
「……あ、あのユキナ?……女性同士で、そ、そのせ、性的な事…なんて、無理ではないでしょうか?」
男性相手でも想像がつかないのに、女性相手なんてもっと想像がつきません。
ユキナに尋ねる今の私は、羞恥で顔がリンゴのように真っ赤なのでしょう……
「お嬢様には関係のない話ですので、知らなくて大丈夫です。」
「あらあら、顔を真っ赤にして本当に可愛いわ。
もう我慢出来ない……」
「貴方みたいな害虫は早急に駆除します。」
「さっきからお姉さまに向かってなんて口を聞いてるのよ!」
「そうよ!お姉さまに手を出して頂けるなんて至高の喜びよ!」
「ちょっと…いえ、かなり顔が良いからって調子に乗るんじゃないわよ!」
「……あの3人も同じ穴の狢って訳ですか……
パンダモンさん、ユキナ様、あの女は私が駆除しますので、残りの害虫駆除とお嬢様の護衛をお願いします。」
「……仕方ないわね…シアの護衛引き受けるわ…」
「害虫駆除って……」
あのユキナが自主的に私の守りを外れるなんて…よほど、あの女性に恨みがあるのでしょうか……?
初対面ですよね?なぜそこまで嫌悪出来るのでしょう?
「貴方が私と踊ってくれるのね。あの男が来るかと思ってゲンナリしてたけど、最高ね!」
「私に叩き潰されるので最悪の間違いでしょう」
こうしてユキナとパーティーリーダーの女性との戦いが始まりました。
残りの初心者マークが表示されている女性3人はこちらで相手をします。
「俺らはこっちを片付けるないとな」
「私達の相手はあの冴えないオッサンかぁ……」
「なんか攻撃してくる時にセクハラとかしてきそうなんだけど……気持ち悪っ……」
「明らかにモテなさそうで草」
「ガハッ!……」
師匠が女性3人に罵詈雑言を浴びせられ、膝をついてしまいます。
HPは全く減ってないのに、戦う前から既に瀕死の状態かもしれません……
「師匠は優しくて、誠実で素敵な男性です!」
「ほ、ほんとか?…フェリシアちゃん?」
「本当です!師匠は頼りになる最高の男性です!
フィルちゃんだって、ユキナだって、そう思ってるはずです!」
「ふ、フィルちゃんはホンマに俺の事、頼りになると思ってる?」
「え、ええ……そうよ。貴方は確かに容姿はそこまで優れているとは言えないわ。ただ、その真っ直ぐな気持ちと他人を思いやる心は尊敬に値するわね」
「フィルちゃん……」
「なにあれ…女に慰めてもらってるわよ…女々しい男…」
「結局容姿は優れてないって言われてるじゃん。マジうけるんですけどー」
「外見が残念だから、内面でフォローしてもらってて草ー」
「ぐっ……」
遂に師匠は両手を地面につけて四つん這いになってしまいました……
これは師匠抜きで戦わないといけませんね……
方針が決まり、どの様に戦うか思案していると、フィルちゃんが師匠の耳元で何やら囁きます。
すると、四つん這いになっていた師匠が急に立ち上がり、女性プレイヤーを1人斬り伏せてしまいました。
えっ!?……先まで瀕死状態だったのに、急にどうしたのでしょうか?
「だらっしゃーい。次じゃー『ヒートエッジ』ィィ!!!」
「な、なにコイツ…ヤバいんだけど……」
「うるせえ!『カースブレイド』ォォ!!!」
「……フィルちゃん…師匠に何を吹き込んだのですか?
まるで別人じゃないですか……」
「ちょっとね……私もあそこまで変わるとは思ってなかったわよ……」
本当に何が起こったのでしょうか……
師匠1人で10秒もかからず3人の女性プレイヤーを倒してしまいました……
「し、師匠…大丈夫でしょうか?」
「ふぅ……ああ、大丈夫や。開き直ってぶっ潰しただけやからな。
いやーそれにしても、カースブレイドも中々ええ威力してたわ」
あれだけ落ち込んでた師匠が晴れやかな顔になっていたので、要因はどうあれ、あまり深く考えないようにしましょう……
「ほらほらどうしたの? このままじゃ反撃出来ずに落ちるわよー ほらっ『メテオスイング』!」
「……『パリィ』」
「あら、黙りかしら…戦う前は威勢がよかったのに、
いざ戦うと防戦一方じゃない。『アースインパクト』!」
「……『ジャストガード』」
「また黙り……寂しいじゃない!『グランドスマッシュ』!」
「……『フルガード』」
あの女は嬉々として大剣を振り回しながら、喋りかけてきます。
私はあの女と喋る気は一切ないので、大剣を捌きながら無視を続行していますが、何度も話し掛けてきて鬱陶しい…
大体の間合いと呼吸は掴んだので、そろそろ攻勢にでましょうか……
いい加減、あの煩い口を閉じてもらいましょう
「なっ!?……急に攻撃に転じてきたわね。」
「話を聞いていたなら、返事ぐらい欲しかったわね」
「……」
「くっ!……何なの…攻撃にスキルを全然使ってないのに…こんな……」
「……」
「なっ!?……私の手首を狙って、大剣を叩き落とすなんて……」
「ちょ、ちょっと待って……」
「い、いやぁぁぁ!!」
大剣を失った女に守る術はなく、鉄扇で切り刻まれ、悲鳴をあげながら退場していきます。
「駆除完了です。早くお嬢様の元へ戻らなければ」
師匠が女性3人を斬り伏せて、少し落ち着いてた所、奇襲を受けてしまいます。
ユキナは先程のパーティーリーダーの女性とまだ戦っていますので、タンクがいない状況での戦闘です。
「今だ!『『『ファイアボール』』』!!!」
「私が叩き落とすわ!」「散雪!!」
「そこだ!『アースバインド』!」
「きゃっ!……」
いち早く相手の奇襲に気付いたフィルちゃんが、散雪で迫り来る炎の玉を叩き落とそうとすると、向こうのパーティーリーダーの魔法が発動し、地面が隆起したと思うとフィルちゃんの脚に絡みつきます。
あれでは踏み込みが必要なフィルちゃんの技が封じられてしまいます……
「ッ……」「凪月!!」
フィルちゃんは脚が封じられた瞬間、素早く2本の刀を鞘に納め、踏み込みを必要とせず上半身の捻りと重心を後ろに傾けることで引き付けながら放てる居合術"凪月"で対処しました。
ですが、炎の玉を2つまでしか相殺できず、残りの1つを受けてしまいます。
「!?……フィルちゃん!『ハイヒール』!」
初心者マークが表示されたプレイヤーのファイアボールなのに、フィルちゃんのHPを6割程削ってしまった事に驚きながらもすぐに『ハイヒール』でHPを回復します。
「初心者マークが表示された方のファイアボールなのにダメージが高すぎます!?」
「パーティーリーダーのステータス1つを10分間借りれる、あのルールのせいや!」
「恐らくそれでパーティーリーダーのINTをコピーしとる!」
「では、あちらは4人のベテランプレイヤーの魔法に匹敵するのですね……」
「そうや!ユキナさんが帰ってくる前にこれは中々キツイな……」
「ですが、あちらの3人はINT以外低いはずですので、師匠とフィルちゃんは、間合いを詰めて倒して下さい」
「そうやと、フェリシアちゃんの守りがおらんくなるで。それにまだフィルちゃん拘束状態やから動かれへんで」
「両方とも問題ありません。『聖なる雨』、『フィジカルギフト』!」
私は状態異常を回復する聖なる雨でフィルちゃんの拘束を解き、続いてATKとDEFが上昇するフィジカルギフトを師匠へ発動します。
「フィルちゃん師匠のATKを借りて下さい。こちらは私一人で対応します。」
「分かったわ!」
「向こうヒーラーが浮いてるぞ!お前らはアッチを狙え!
向かってくる2人は俺が対処する」
『『『ファイアボール』』』
3つの炎の玉が私に襲いかかりますが、想定内の攻撃に内心ほくそ笑みながら、向こうにとって致命的なスキルを発動します。
「そこです!『オリオンベール』!」
私の目の前に半透明な光のベールが展開され、迫り来る炎の玉は全て光のベールに阻まれ消滅します。
このスキルはリフレクションのように魔法以外防げないですし、反射もしませんが、リフレクションよりも展開する時間が長く、更にカバー出来る範囲も広い為、複数の攻撃に対し有効です。
更にこのスキルの真価は、防いだ魔法に応じて、その属性を一定時間封印する効果があり、向こうの3人は暫く火属性の魔法を撃つことは出来ません。
「お、おい!…ファイアランスが使えなくなってるぞ!?」
「ファイアボールもクールタイム短いはずなのに使えないぞ!?」
「ナイスやフェリシアちゃん!」
師匠はその隙に初心者マークが表示された3人のプレイヤーを倒すつもりのようです。
「お前ら落ち着け! 一度後方に下がって封印が解けるまで粘っておけ!
こっちはあの女の子を止めとくから。『ホーリチェーン』!」
光の鎖がフィルちゃんを拘束しようと、伸びていきます。
「二度同じ失態はしないわ!」「影花!!」
拘束しようと伸びてくる鎖に対し、フィルちゃんは緩急をつけた足捌きで相手の狙いを逸らす影花で、悠々と回避し、相手のパーティーリーダーへ接近します。
「なっ!? くそっ!『ライトニングブラスター』!」
ここまま、フィルちゃんが斬り伏せられるかと思いましたが、相手の方も黙ってやられるほど甘くはありません。
男性がスキルを発動すると、掌から雷が放射線状に広がり、接近するフィルちゃんに襲いかかります。
『リフレクション』
フィルちゃんはリフレクションを自身の足元へ発動する事で、踏み込みの衝撃を反射させ、まるでその場から消えたような跳躍で男性の頭上を越え、放物線を描きます
「なっ!?……どこ行った?……」
男性は予備動作も無しに姿を眩ませたフィルちゃんを完全に見失っているようです。
これで、フィルちゃんが男性の背後に着地し、無防備な背中を刀で斬ると倒せますね。
しかし私の予想と裏腹に、勘が働いたのか、男性は急に頭上を見上げ、空中に逆さの姿勢でいるフィルちゃんを見つけてしまいます。
「そこか!」
男性はフィルちゃんの着地した瞬間を狙って、魔法を発動させようとします。
このままでは、着地したフィルちゃんが狙い打ちです……
そう考えた私は、フィルちゃんの落下軌道を読み、空中に足場を作るためにスキルを使います。
「そこです!『リフレクション』!」
そこからは一瞬でした……私の意図を瞬時に把握したフィルちゃんは、空中に設置したリフレクションを逆さまの体勢でありながらも、しっかりと足場にして技を放ちます。
「宵月!」
「へっ!?……」
男性は何が起こったか分からないみたいな表情で、真っ二つにされちゃいました。
「流石フィルちゃんです!」
「おっ! そっちも終わったみたいやな」
「お嬢様…遅くなり申し訳ございません。」
フィルちゃんに賛辞を送っていると、師匠とユキナが合流し万全の体勢が整います。
そこからは先の戦いよりも苦戦することなく、予選2回目を勝利で飾ることが出来ました。




