相棒の名は黒雪です。
広場に向かってる時に、ボソッとユーピョンさんが呟きます。
「袴を履くのは初めてだけど、こんなに動きやすいのね」
「動きやすいように馬乗り袴にしてくれてるけど、これは凄く動きやすいわね」
「馬乗り袴?」
「馬乗り袴は文字通り、馬に乗りやすいように設計された袴ですね。
中がズボンのように二股に分かれてるのが特徴です」
「確かにスボンみたいね。動きやすくて良いわね」
「でも、現実世界の袴よりかなり動きやすいわよ。
これもゲーム独自のものね」
「確かに、現実世界の着物や袴だとモンスターと戦いにくそうだものね……」
広場に到着すると、お爺様が若い女性とお話していました。
「お爺様。お待たせ致しました。」
「お爺様ですって?」
私が呼び掛けると、お爺様とお話していた女性の方が反応し、険しい表情になります。
も、もしかして、お爺様の彼女さんなのでしょうか……?
「おお!?、前も十分、別嬪さんじゃたが、今は天使のようじゃ!
ホントに可愛いのう。うちの孫にならんか」
「なに言ってるのよ、このエロジジイ!」
!?……女性の方がお爺様の頭を強く叩いて罵倒します
「サラよ、何するんじゃ!」
「お爺ちゃんが変な事を言うからでしょ!」
「だって着物姿のフェリシアちゃんが凄く可愛いんだもん」
「だもんって……自分が何歳だと思ってるのよ……」
えっと……彼女さんではなさそうですね……
言動から察するにお孫さんでしょうか?
「あ、ごめんなさいね。私はサラよ。不本意ながらこのエロジジイの孫よ」
「私はフェリシアと言います。よろしくお願いしますサラさん。」
「ッ…… お爺ちゃんから聞いてはいたけど、本当に可愛いわね。顔小さいのに目はクリッとして大きいし、スタイルも良さそう……
可愛い過ぎてちょっとムカつくわね……」
「えっ……ありがとうございます? サラさんもお綺麗ですよ」
「性格も良さそうね……」
「コラ! サラよ、フェリシアちゃんに失礼じゃろ」
「そうね、確かに感じ悪いわね……
ごめんなさいフェリシアさん」
「いえ、気にしていませんので大丈夫です。
私の方こそ、何か粗相をしていましたら申し訳ございません」
「何なのこの子……良い子過ぎない…?」
サラさんは何やら呟いているようですが、
先ほどまでの少し敵意のある目つきではなく、理解できないものを見る目に変わったので、嫌われてはないと思います……多分……
「そろそろ本題に入るかの。結論から言うと、武器はまだ未完成じゃ」
「えっ! お爺ちゃん、出来てるって言ってなかった?」
「モノは出来ておる。じゃが、銘がまだないから魂が入っておらんのだ」
「銘でしょうか?」
「そうじゃ、これから長い間共にする相棒じゃから、主らが決めるのが一番じゃろ」
「名前か……私ネーミングセンス怪しいわよ……」
「お嬢様も大概ですので大丈夫ですよ」
「ユキナ!?」
「名付けするのに、武器そのものを見ないと難しいのではないかしら」
「そうじゃの、暫し待っとれ。」
お爺様はそう言うと、イベントリの中から薙刀や刀などの武器を取り出して、私達に渡します。
「これがお爺様の作った武器ですか……」
お爺様から渡されたのは、黒い柄の所々に白い雪の結晶のような模様があり、反りのある刃が特徴の美しい巴形薙刀でした。
柄の長さは4尺(120cm)で、重さも現実世界で使っているものとほぼ同じぐらいで、まさに注文通りの仕上がりです。
「美しい反りに、柄の華やかさ……まるで芸術品のようです」
「見事な仕上がりね……よく斬れそう」
「手によく馴染みます」
「凄い装飾……武器で使うのが勿体ないわね」
「ほれ、お主らそんなに武器を見とらんと、早く銘を決めんか」
「プッ……お爺ちゃん照れてる」
「……」
破天荒なお爺様でも、自身の作品を絶賛されると恥ずかしくなるのですね……
いけません……余計な事は考えずにこの子の銘を決めないと……
黒い柄……雪の結晶のような模様……そうです!
「この子の銘は『黒雪』にします」
「ふむ、良い銘じゃ。少し待っておれ、最後の仕上げじゃ」
お爺様は作業台みたいな物をイベントリから取り出すと、そこに黒雪を置き、何やら操作すると沢山のウィンドウ画面で埋め尽くされます。
「本来は鏨を使って銘切りを行うんじゃが、ゲームじゃと簡略されとるのが何とも悲しいのぅ……」
お爺様は少し寂しそうな顔をしながら、出来上がった黒雪を渡してくれました。
【黒雪】(ATK+110)(名声値0)
「あれ?……この名声値とは何でしょうか?」
「名声値はプレイヤーで言う熟練度みたいなもんじゃ。
名声値が上がるとステータスの上昇や新しいスキルを覚えたりするぞ。
つまり黒雪はフェリシアちゃんと共に強くなっていく武器ということじゃな」
「私と一緒に強くなる武器……凄いです!」
「そうじゃろ。黒雪の事、大切にしてやってくれんかのぅ」
「もちろんです。お爺様…こんなに素晴らしい武器をありがとうございます。」
「その言葉だけで嬉しいわい」
「黒雪の代金は本当に無料でよろしいのでしょうか?」
「そういう約束だからの」
「ちょっとお爺ちゃん! 名声値持ちの武器は今の相場で億近くするんだけど……」
「えっ!?……」
「サラよ黙っておれ。
フェリシアちゃん達は絶対に有名なプレイヤーになるからの、今のうちに友誼を結んどくのが得策なんじゃ」
「お爺ちゃんにそこまで言わせるプレイヤーなのね……
私も興味が湧いてきたわ。
ねぇ、あの店の裏手に巻藁があるから、ちょっと腕前を見せてくれないかしら?」
「これ! サラよ。失礼じゃぞ」
「構いませんよ。私も丁度この子を使ってみたいと思ってた所ですので」
「話が分かるじゃない。こっちよ! ついてきて」
サラさんに案内された所には、試し斬り用の巻藁が3つ置かれていました。
「フェリシアちゃんこれを斬ってみてよ」
「分かりました。巻藁が3本ありますが、フィルちゃん達も試し斬りしたいですよね?」
「私は1本で構わないわよ」
「私の鉄扇は巻藁を斬るには向かないので、遠慮致します」
「私は魔法だから大丈夫よ」
「では、私が2本試し斬りさせて頂きますね。」
「決まったなら早く斬っちゃってよ」
「では、参ります」
巻藁の前に立って一礼し、黒雪を中段に構えます。
この子なら問題なく"技"が出せそうです。
さて、サラさんを納得させるにはどの技が良いでしょうか……
巻藁を斬るのに適しているのは、速さ重視の"風"の型か威力重視の"月"の型のどちらかですが、
まずは得意な"風"の型にしましょう!
出す技が決まると、私は中段に構えてた黒雪をスッと脇構えに変え、一瞬で左横一文字に向きに黒雪を振り切り、その後すぐに重心を整え、右足を引いて半身となり、瞬く間に斬り上げます。
「裂風重!!」
斬り終わると、一歩後ろに下がり構えを解いて一礼します。
「「「……」」」
「流石お嬢様。お見事です。」
「シア。また腕上げたわね」
ユキナとフィルちゃんは絶賛してくれましたが、肝心のサラさんが、口をポカンと開けて固まってます……
「サラさん。斬り終わりましたが……」
「はっ!……正直、一瞬すぎてよく分からなかったけど、斬ったのよね?」
「はい。横と斜めに斬れているはずです」
「でも、巻藁は無傷じゃないの?」
「触って頂けると、斬れている事が分かると思います」
サラさんは恐る恐る巻藁を触ると、ドサッと音がして巻藁の上部が落ちました。
「…………本当に2回斬れてる。凄い……」
「ほっほ、素晴らしい技の冴えじゃ!
これは景神流の風の型じゃな?」
「!?…お爺様ご存知なのですか?」
「ワシも武器を作ってる身じゃからの、武術には多少詳しいんじゃ。
正直今まで見てきた風の型で一、二を争う程の技のキレじゃ。その若さでよくここまで精進したのう」
「ありがとうございます。では、次は月の型をお見せしますね。」
「楽しみじゃな」
先ほど同じく巻藁の前に立って一礼をし、次は上段に構え、そのまま黒雪を巻藁目掛けて振り下ろします。
この時、右足を蹴るように力を入れ、持ち手も石突きの方へスライドし、刃先に遠心力を存分に乗せて放ちます。
「崩月!!」
振り下ろした黒雪は、巻藁の下の土台まで真っ二つにしますが、少し手が痺れてしまいます。
やはり月の型は少し苦手ですね……
先ほど同じく、斬り終わると一歩下がり一礼します。
「おいおい、下の土台まで真っ二つかいな……」
「ホント凄い威力ね……」
ユーピョンさんと師匠は驚いていますが、ユキナとフィルちゃんには、先ほど右肘の折り畳みが悪く、技が不十分であった事がバレています……
「よくそんな細腕で真っ二つに出来るわね……
フェリシアちゃん。疑ってしまってごめんなさい」
「いえ、気にしてないので大丈夫です。
私もちょうど試し斬りが出来て良かったです」
「フェリシアちゃんは月の型がちょっと苦手そうじゃな。
まあ、月の型は男性向けだから仕方ないと思うがの。」
「もっと鍛練を積んで、月の型もマスターしたいと思います!」
「技を極めたフェリシアちゃんを見るのが楽しみじゃわい」
「次はフィルちゃんじゃな。刀はワシの専門分野じゃ。どんな技を見せてくれるのかのぅ?」
「私は景皇流なので、"花"の型は論外で、"雪"の型は巻藁には向かないから、今回は"月"の型を見せるわね」
フィルちゃんは残っている巻藁の前に立ち、一礼をした後、腰に差してる刀に手を添えたと思うと、一瞬で巻藁を斬り、チンッと言う音と共に刀を納め、手を離します。
「瞬月!!」
フィルちゃんが刀から手を離すと、ドサッと音がして巻藁が地面に落ちてしまいました。
「「「……」」」
「フィルちゃん凄いです。いつ刀を抜いたかハッキリ見えませんでした」
「フィル様お見事です。」
「早いの……ワシもほとんど見えなかったぞ。
素晴らしい技の完成度じゃ。フィルちゃんもフェリシアちゃんもワクワクさせてくれるのぅ」
「あら、今日はセクハラしないのね?」
「!……お爺ちゃん。もしかしてこの子達にセクハラしたの?」
「さ、サラよ落ち着くのじゃ。これには深い訳が……」
「こんの、エロジジイ!!」
パンッといった音がしてお爺様がふっ飛んでいきました……
「!?……お爺様大丈夫でしょうか!?」
「そんなエロジジイほっときなさい!」
「あまりセクハラしてこなかったのは、孫がいたからなのね……」
「サラさん……使えますね。
今度あの変態対策に活用させて頂きましょう」
「まあ、いい薬じゃないかな……人間痛い目に遭わないと学ばないし」
「あのエロジジイは全然学びませんよ!
今まで、どれだけの人に迷惑をかけてきたか……
皆さんも本当に申し訳ございません。」
「頭を上げて下さい! 特に被害はあってないので大丈夫です」
「フェリシアちゃん……あなたいつかセクハラされるわよ……」
「安心して下さい。私の目が黒いうちは絶対にさせませんから。
もし、仮に、万が一、お嬢様に手を出した愚物がいれば、生きてきたことを後悔させますので」
「……あなた怖いわね」
「あっ、いけない……そろそろ落ちないといけない時間だわ。」
「ユーピョンさん……」
「絶対に優勝しますので、見に来て下さいね!」
「特等席で見させて頂くわ。
一緒にイベントやりたかったけど、ごめんね。
そろそろ落ちるわ」
「また今度お会いしましょう」
「バイバイ」
そう言ってユーピョンさんはログアウトしてしまいました……
「俺達も装備も整ったことやし、そろそろ狩りに出掛けようか」
「はい! お爺様、黒雪を生み出して頂いてありがとうございます。
サラさんもまたお会いしましょう」
「ええ、突っ掛かってしまって本当にごめんなさい。
また会いましょう」
「フェリシアちゃん達なら優勝間違いなしじゃ。
観客席から見てるから頑張ってのぅ」
私達は優勝を目指して鍛えるために、狩り場へ向かうのでした……




