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大雪7-1 異文化交流のシナジー



 身を切る冷気に吐く息は白く色付き、青い月が少しずつ小さくなっていき、毎年お迎えするあの御方、冬将軍の降臨まであと十日もないリコピンシティ。選抜メンバーは各々、新調した装備の慣らし運転に余念がない。獲物のいない新雪に覆われた森や荒野に出かけてはイメージトレーニングを行っていた。


 魔法による後方支援がメインのベテラン組は大きく変えないからのんびりしたものだが、最前線で動き回る若手は、カッコつけて新しい革ジャン着たら腕が曲がらないヤベェ、とか許されないからせっせと身体に馴染ませる。着ないカッコつけないという選択はない。


 あととにかく人に見せたい自慢したいとの下心も明け透けに、ドヤ顔で訓練に行き来する若者を他の若者や子供が囃し立てる。今も通りを練り歩く戦士がひとり。


「モアイ兄ちゃんの剣、光ってるなにソレ」

「おお、いいだろコレ」


 土の土台に氷を張って安全性ガン無視のハーフパイプとか、こっちもこっちで思いつくままに遊びの進化が止まらない子供たちのひとり、ハクが目ざとく陽の光を反射するなにかに気付いて駆け寄り、モアイは鼻の穴をピクピク膨らませながら背中の両手剣を抜いて、集まった子供たちの前に差し出した。


「宝石とか金とか、やっぱエルフってすげーよな」


 そう言って見せる剣は、もうかつての骨だけの剣ではない。差し色(アクセント)程度の装飾とはいえ、鍔(つば)には金、柄頭にはメノウが象嵌されていて、子供たちからすると伝説の宝剣そのものだった。カッコよすぎると大興奮。


 伊達に長命種ではない。エルフの文化はぽっと出のリコピンとは違い、熟成されていた。


 エルフは炉を使う大掛かりな金属加工は嫌っていて、銅製や鉄製の武具は持っていないけど、魔力操作によるちょっとした加工くらいはできた。なによりまず金属というものがあることを知っていた。

 リコピンシティの住民も砂金くらいは一応知っていた。川にはキラキラする粒があるんだぜ、とトリビアを語るくらいには。利用する気が一切なかっただけで。あと価値の高さは分かってない。


 エルフもエルフで、魔物の骨が強力な武器になる事実に驚いた。エルフに限らず大抵の地域で共有する価値観になるが、スケルトンからの連想で骨は呪物のカテゴリーになる。実際獲物との関わり方、作り方によっては呪われた武器になるだろうし、エルフも始めは抵抗があった。しかしリコピンと同じく狩猟の民、倒した獲物に感謝して糧とする考え方は受け入れられた。セナの父、ポアロはアガサに止められたけど、現在骨の鏃を作ってトリガーハッピーなエルフが増殖中。


 変化は剣だけではない。モアイの全身が垢抜けていた。留め金つきのレザーブーツ、木綿の上下にレザーコート。まだ大量に残っているワイバーンの革はムラなく赤黒く染まり、木綿の生地は黒白のホルスタイン柄。ズボンは袴のように折り目が入ってやや裾が広がり、シャツは大きな木製ボタン三つに紐をからめて前を合わせている。腰の革紐は垂らして前を開けたコート姿のモアイは、序盤は頼りになる仲間(N P C)くらいの強者感を漂わせていた。中盤に退場しそう。ちなみに乳牛はこの辺りにはいないし、誰も見たことはない。


 リコピンシティとエルフたち、どちらも、特に職人肌の者は今が楽しくてしょうがない。コスプレ文化にカルチャーショックを受けた国くらい、物怖じせず開花していくリコピンセンスにエルフの染色技術や小物の加工技術が融合して、お洒落への情熱がかつてないほど盛り上がっていた。見た目の変化は保守的だったエルフの方が激しい。先進性に浮かれすぎて、収穫祭とお盆を足した本来の意味は知ったことではないハロウィンに洗脳された交差点くらいには少しイタい。


「兄ちゃん、これは?」


 クウがモアイの左胸を指差す。土器の試験管に歯ブラシに使われる樹脂で蓋をしたような小さな容器が三本、並んで挟まっていた。ファッションの方向性からショットガンの弾薬にも見えて、クウの好みに突き刺さった。


「ポーション。戦闘中でも使える性能って革命だよな」


 これもまたエルフがもたらしたもの。薬の知識が一番大きいかも知れない。ヘイボスという植物の葉と、マンドラゴラの成長途中の根、二つを乾燥させたり煮たり濾過したり、リコピンなりに改良してきたものがポーションだったけど、エルフのポーションをスマホとするなら糸電話くらいの完成度。狼煙より高度なことはしているけど実用性の低さはいかんともしがたい。大怪我をしたら魔力の外部供給によって身体強化をもっと強化してガンバレ、という仕組みに対してエルフのポーションはハペコの治癒魔法、新陳代謝を早めるまさに魔法のような薬だった。


 まず薬の概念が違う。この地域のポーションは栄養ドリンクを飲んで怪我や病気に耐えろ、という全対応。エルフのポーションは怪我にかけて止血や単純骨折の緩和くらいは見込める。それ以外の病気や毒にはそれぞれ専門の薬がある。言われてみれば当たり前のことではあるけど、数百種類の毒を解毒薬一本で治せると思うような、低すぎる文明レベルをリコピンシティは自覚した。自覚すれば改善したらいいだけのこと。とりあえず数百種類の毒を身体ひとつで克服してきたハペコのせいにしておいて、新しい薬の知識を歓迎した。


「どんどん変わっていくねー」

「なんか今、ベンキョーが大変そう」

「うぇー、オレベンキョームリー」

「医者だけじゃない? 他は、地理? 遠い国の話はボク好きだよ」


 言葉の壁はあるけど、魔力を込めた文字が背面飛びした。調薬、染色、製鉄、それに農業と呼ぶほどではないが、エルフも薬の素材やハーブを庭で育てたり、山野に柿や栗の種をまいて放置くらいはしていて、有力な情報交換ができた。一番人気は旅エルフの各地の話。身振り手振りと感情の乗った絵文字に子供たちは紅潮した顔で瞳を輝かせ、エルフもまた、永い間子供の少ない環境に慣れていたからこの賑やかさに終始微笑みが絶えない。


 総じて、互いに良い影響が作用していた。エルフもスカイラブハリケーンを叫ぶとか悪影響もあるのはご愛嬌。





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