表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/54

立冬6-1 大体スカイラブハリケーン



 風から湿り気が消えて一オクターブ上がったような音が意識にのぼるようになり、人々は軒先に野菜や果物を吊るして一息つく。冬がくる前に食料の備蓄が間に合った。あとそろそろ失敗作は生まれませんようにと精霊に願う。日中だけ干すとか実は一日二日で完成するものも多いとか、ちょっとしたコツが広まるまではまだ試行錯誤が足りない。


 冬支度に目処がたったらすることはほとんどない。麻や綿などをよって糸にして、布を織り、服を作り、革を編み込みサンダルを、あるいは木工に勤しみ家具を作る。室内でできることをのんびりするのが冬のスタイルなのは昔から変わらない。そしてスローライフが性に合わない生粋の狩人というか体育会系も一定数いて、どう身体を鍛えるかが冬の課題になる。


 現在リコピンシティのトレンド急上昇はブランコ。街の中心やや外れにそびえ立つ大木、セナたちの旧宅をとっくに破壊してなお成長が留まるところを知らない謎の木が存在感を増していて、付き合いのある近所の漁村からはシンボルマーク扱いされている。黒光りするバナナに魔力を注ぎ込んで覚醒するスーパーシゲル。他の住民が埋葬したスーパーシゲルは立派なバナナに転生したのに、セナが初めて黙祷を捧げたスーパーシゲルはどうして合体事故を起こしたのか? 謎は謎のまますでに忘れられて久しい。ついでにセナが企んでいた秘密基地のウロは絶賛拡大中だけど、位置が上に上に伸びてしまったせいでこれまたセナに忘れられた。秘密基地の片隅に眠る意味不明のホワイトホールが魔力を与え続けているとかきっとこの先も誰も気付かない。


 ただ、巨木を遊ばせておくのも(しゃく)に障ると、セナの冒険用に父ポアロが枝から垂らしたロープをヒントに、サコンがブランコを発明したらウケた。

 巨大な枝という枝にブランコを設置して遊ぶ子供たち。女子はまだ常識的な使い方で楽しんでいるけど男子は無理。そこに飛べる環境があるなら飛んじまいな。飛距離を競う謎のスポーツが生まれるのに時間はかからなかった。遊びは子供のものだけど、スポーツと言えば大人が楽しんでも正当化できる。


 手が空いた冬の入口、より遠くへ飛ぼうと挑戦する子供から歓談する年寄りまで、多くの人で賑わうシンボルツリーを横目に眺めながら、サコンは街外れに歩いた。自分の作った物で誰かが笑顔になる。これほど職人冥利に尽きることはないと誇らしくなる。そう、サコンも十七歳。狩りと採取、家庭菜園で食料をまかない、先日所帯ももって、すっかり大人の一員になった。ただし戦闘力は上がらず、好きなモノ作りで貢献する方針は変わらない。


 今日は新発明のテストを行う。モノだけは暇を見て作って組み立てて、冬に改良を楽しむつもりだ。

 街の外れ、北側は地平線近くまで荒野が広がる。かつてゴブリンの群れがコソコソ近寄れないよう、天然の荒れ地に住民が長い時間をかけて見晴らしを良くした歴史がある。

 ここならどんな破壊的な実験をしても怒られないと、サコンはひとり黙々と通って模型作りから検証していた。


 現場には話をしたら興味を持ち、目新しいおもちゃのお披露目が待ちきれないと集まったセナ、ハク、クウ、トロ、そしてライとヒメ、いや成人したヒメノ姉弟がおもちゃの使い途を考察していた。久し振りのメンツにサコンは村のころを思い出し、成長した姿に時の流れの早さを感じた。感じることが大人あるあると思い知った。


 荒野に野ざらしに置かれている巨大建造物は三つ。まずは一番分かりやすいスキージャンプの滑り台。土だけで造形された、高さ三十メートル、幅三メートル、長さ五十メートルはありそうな坂。サコンは興味津々のみんなに説明した。


「これらは全部新兵器だよ」

「おぉー、ロマン兵器?」

「え、う、うん。ロマンと言えばロマンかな」 

「巨大かいじゅうをたおせる?」

「あ、なんか正解なのが悔しいけどそうだね。最近は全然見なくなったけど、森から危険な魔物が襲ってくる例はあった。今も地下で寝る人が多いのはそのせいだし。それに伝説とはいえかつてここにはドラゴンがいた。そういう特別な強敵がいつかは現れるかも知れないと想定して、備えておくことは重要だと思うんだ」


 サコンは先代の忠告を素直に受け入れている。尊敬の眼差しを向ける子供たちに照れ笑いしながら説明を続けた。


「ボクは弱いから、強い道具でサポートしたいんだ。さて、この滑り台は見たままだよ。重い物を転がして攻撃する。作ってみた手応えとしては、ゴブリンの群れとかにしか通じないかな? とりあえず試してみよう」


 サコンが地面に手を当てると雪だるまの頭くらいの丸い塊が盛り上がった。魔力の扱いにも慣れて、すでに熟練者の風格が漂っている。モノ作りが好きなセナの憧れの視線が熱い。


「ゼログラビティ、トゥエンティセカンズ」


 さらにヒメノが塊に手を当ててなんかお洒落な呪文を唱えると、塊は軽くなった。重力を知るわけないし本当にゼロかどうかは怪しいけど、クウを筆頭に子供たちは興奮を抑えきれない。


 塊を持ち上げて、サコンは土の階段を登り、頂上で塊をセットした。時間が切れて元の重さ、子供の体重くらいの塊をソっと押すと、塊は滑り台を転がり落ちて最後に少し上向きの坂を越えて、五十メートルほど先の地面に重い衝撃を与えた。

 思ったより飛ばないな。サコンは冷静にデータを分析した。最初から上手くいくとは思っていない。


「次はこれを試してみようか。大きな弓だね」

「おぉー、カッコいい」


 弓の全幅三メートルほどのバリスタ。フレームは魔物の猪、ワイルドボアの骨。弓弦は同魔物の腱をより合わせて融合加工。人力では、少なくともサコンの身体強化ではびくともしない引き絞る仕組みに苦労した。並んだ三角の切れ込みで固定しつつ、てこの原理で少しずつ引いていき、一気に放した時の復元力はまさに巨大な弓。


 準備に時間はかかるけど、威力は凄そう。最後にさっきと同じ土の塊を作り、引き絞られた弓弦にくっつけた板の上にセット。矢のほうがさまになるかもだけど、ちゃんと飛ばなかった時の事故が怖いし、同じ弾を使うほうが比べやすいとの判断による。


 子供たちの期待を背負い、バリスタ、ファイアー。


 ……まぁまぁ、まぁまぁ。初めて作った道具なんてそんなもんさ。サコンはポーカーフェイスを保った。飛距離は五十メートルほど。さっきと同じ。つまりアレだ。移動手段も考えると大弓、設置型は滑り台のほうが使い勝手はいいと。使える日がくるのかはさておき、データはとれた。子供たちに実戦を想定した成功失敗の判定はなく、大きな弓が物を飛ばしたことにはしゃいでいる。それだけでも救われる。サコンは内心の落ち込みを吹き飛ばして気合いを入れた。本命は最後のこれだっ。


「こいつはブランコの反対だね」

「おぉー、お?」


 見た目はブランコではないから伝わらなかった。左右非対称のシーソー。軸を起点に、短い側にしこたま重しを載せて、動滑車で持ち上げる。長い側にこれまた土の塊を載せる。あとは持ち上げたチカラを消せば、短い側が下にズドンと下がり、長い側が勢いよく上に上がる。トレビシェットと呼んでもいいが、長い側にスリングというロープで遠心力を増す仕組みまではないからあくまで原形になる。


 見た目は複雑で子供たちには仕組みがまったく分からないからワクワクが止まらない。サコンと一緒にせーのと滑車のヒモを引っ張って、せーので放すと巨人の腕が弾を遠投。弾は高く高く空に弧を描き、記録は百メートルを軽く超えた。


 子供たちの歓声を受けて、サコンはガッツポーズ。熱くなった目頭を誤魔化すように天を仰ぎ、目を閉じた。これは一歩だ。リコピン男子たるもの、ムラにドラゴン襲来の妄想なんて無限に繰り返す。でもサコンには倒せなかった。伝説の初代は言うに及ばず、先代や今代の長のような戦闘力はなかった。しかし今日、ほんの少し、可能性が見えた。現時点ではムラにゴブゴブパニック襲来のシミュレーションをクリアするのが精一杯だけど、いつかきっと、一歩ずつ進んだ先、ボクの一撃はドラゴンにすら届く。


 確かな手応えと決意を胸に、サコンは前を向いてクワっと目を開けた。


「Eeeeeーいやっほぅ」


 セナがスノボ的な板に乗って滑り台を飛び出しクルクル回るトリックをキめた。


「うっわ姉ちゃん自分を軽くは卑怯だって」


 ヒメノがバリスタで押される台に乗って空に飛び立った。


「これや…………、べぇー(べぇー、べぇー)」


 ハクがトレビシェットでぶっ飛ばされてエコーを響かせた。


 サコン、ニッコリ笑って空を見上げた。


 知ってた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ