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雫から始まる物語  作者: あまやすずのり
63/70

第63話

 人混みをかき分け駆ける、駆ける、駆ける。

 荒くなった呼吸も何のその、

 時折立ち止まり左右を見渡し、

 目的の彼女がいないのを確認し、

 また駆ける。

 さほど広くはない園内、

 だが休日だけに人混みは激しく、

 行き交う人波から彼女を、

 五月を探すのは困難となっていた。

「ハッ!クッソッ!」

 何であの時迷ったのか、

 すぐに追いかければ今頃は。

 後悔が頭の中を支配し、

 だが、それを悔やむ時間はない。

 振り払うように体を反転させ、

 まだ探していない区画へと足を滑らす。

 マラソンランナーとしては

 少なくとも自分としては考えられない程の

 無茶苦茶なペースで縦横無尽に駆け巡る。

 しかし、一向に見つからなかった。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 日が傾き始めていた。

 腕に絡めた時計を見ると

 既に時刻は夕刻だった。

 どれくらい走ったのか、

 時間に換算しようとするが思ったより

 脳が働かない。

 心が乱れた状態での走りが

 進にいつも以上の疲労を与え、

 そして焦りへと変わる。

 早く見つけないと、

「見つけて……ハァ……どうするんだ……」

 瞬間、何かが足に引っかかる。

 違和感に自分の足へと視線を落とすが、

 何も異変は無い、しかし、

「……クッ……」

 足が出ない。

 次の一歩が踏み出せない。

 まるで進の意志を全否定するかの如く

 地にへばりついていた。

 誰よりも共に苦労を重ねた足が

 今は最大の敵となり、進を阻む。

 それは考えてはいけない事が原因だった。

 五月にあってどうするか、

 探しながらも片隅で検討していた事。

 運良く見つけたとして、

 自分は何を話すのか。

 どんな話をすればいいのか。

「……ハァ……分からない……」

 ポツリと漏れた言葉が進の心に闇を広げる。

 不安が恐怖が、考えられる五月の否定が

 ドンドンと深い闇を作り出す。

 いっそこのまま見つけられない方が、

 もう会わない方がいいのでは。

 そう思った矢先だった。

「……あれ、は……」

 道の端にある草むらから光りが見えた。

 夕方の淡く優しい明かりに照らされ、

 乱反射しながらまるで進を導くように。

 瞬間、進の脳裏からあの光景が蘇る。

 風に舞い踊る雫。

 棚引く髪と沈んだ笑顔。

 そして、夕陽に照らされた携帯の

「ひまわ、りっ!」

 足が弾け飛ぶ。

 重くのし掛かっていた枷が消え、

 今まで動かなかったのが嘘のように

 進はひまわりのストラップへと駆けより拾い上げる。

 間違いない、間違いようがなかった。

 五月が付けていたひまわりのストラップ。

 それがここに落ちていたという事は。

「……ここか……」

 見上げた先には看板があった。

 だが、案内には目もくれず、

 進は歩き出した。

 恐らく、いやきっとこの先にいる。

 それは根拠がない確信、

 否、ひまわりがあった、

 それだけで十分であり

 そして、思い出させてくれた。

「……大丈夫だ……」

 心に広がった不安の闇は既に一掃され、

 進は自分でもびっくりする程

 落ち着いた状態で歩んでいく。

 きっと五月も通ったであろう、

 淡い木漏れ日が導く森林道へと、

 自身の決意と共に進んで行くのだった。

こんばんわ、作者です。


この連載もラストが近づいております。

書き手としては何となく複雑な心境もありつつ

ここまで来たんだなー、と感慨深くもあり、

偏に読んで頂ける皆さんのおかげでもあるわけでして、

はい、頑張ります最後まで!


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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