第64話
夕焼けに照らされた並木道。
所々道が分かれており、
その先にはビニールハウスや小さな花壇等
様々な植物が堪能できるようになっていた。
しかし、進はその先々には目もくれず、
ただひたすらに伸び続ける1本の道を歩いていた。
まるで導かれる様な確信的な感覚で
足が自然に前へと進む。
一歩、また一歩と踏みしめる度に
進の鼓動は高鳴り、緊張感が増していく。
だが頭は意外とクリアで冷静を保っていた。
この先で待っているであろう彼女と
どんな話をするのか、どうすればいいのか
数分前まで絶望で何も見えなかったのが幻のように
言葉が、気持ちが頭の中を駆け巡る。
今ならきっと、ちゃんと伝えられる。
言いたい事、話をしなければいけない事、全てを五月に。
やがて道は大きな広場へと繋がった。
綺麗に切りそろえられた芝が目の前に広がっている。
風が吹き抜ける度にさざめく音、
そして穂先に落ちる夕日の光が辺りを優しく包む。
その光景に進は否応なしにあの日が心に蘇っていく。
橙色に染まった空、
俯きながら耳に当てたスマホと会話する彼女、
いつもはただただ走り去るだけの景色は
その日だけは特別な表情で進の心に焼き付いた。
恐らく一生、忘れる事はないだろう、
だが忘れたくない記憶は
更なる形で更新されようとしている。
なぜなら今目の前にいるのは、
「見つけたよ、五月さん」
広場にポツリと佇む小さな東屋、
その前で夕焼けに照らされた彼女がいた。
膝を抱え顔を隠した姿、
一見、五月さんとは似て非なるものの様に見えた。
なぜならいつもの明るく元気な様子とはかけ離れたものだったから。
だけど、服装や髪型から五月さんである事は明白であり、
進は一瞬躊躇しながら、
「それでも、俺は……」
一人呟く事で落ち着きを取り戻す。
そう、大事なのは目の前に五月がいる事。
そして、自分の話を聞いてもらう事だから。
決心を込めて踏み出した足に芝が絡み音を立てる。
それは風に乗り、きっと五月の耳にも届いているはずだが、
一向にその姿を崩す事はなかった。
進は内心動揺し始める。
自分が五月へと近づく事、五月へと語り掛ける事、
それが拒否されているかのように感じた。
一歩一歩が徐々に重くなる。
五月の元に行くことで否応もない悲鳴が心に傷を作る。
だけど、進は止まる事など出来なかった。
否、出来るはずも無かった。
「ここまで来て、止まるなんて、できないよ、な……」
長年の戦友に語り掛ける。
それに呼応するかのように
共に駆けた相棒が進を当たり前のように前に運んでいく。
一歩、また一歩と五月との距離が縮まり
そして、進は五月の目の前に立つのだった。
「やっと会えた、五月さん」
こんばんわ、作者です。
ラストへ向けて着々と進む中
なぜかここにきて着々と筆が遅れる作者です(笑)
これも終わらせる事の難しさ故なのでしょうかね。
でもシッカリキッチリ締めていきたい、とは思ってますので
最後までお付き合い頂けると幸いです。
ここまでお読み頂きありがとうございます。




