第6章 家づくり
「マリア様、ここは小さな広場のようになっていますね。私たち、ここに家をつくりましょうか」
木漏れ日が頭上から柔らかく降り注ぐ平坦な地面を見渡し、アンナが頼もしく微笑むと、マリアはパッと顔を輝かせた。
「うん。お姉さん、私もお手伝いするね。なんでも言って」
「では、お家づくりの始まりですね。まずは骨組みをつくりましょう。木の棒があれば教えてくださいね。でも、危ないのであまり私のそばから離れてはいけませんよ」
「はい、お姉さん」
マリアは元気よく返事をする。開けた広場の周りを見渡して、ふかふかとした落ち葉を踏みしめる。丈夫そうな落ち枝を探して歩いていると、茂みの奥からカサコソと小さな足音が聞こえてきた。
「ほら、木を咥えて来てくれるよ。さっきのうさぎさんかな」
額に角の生えたホーンラビット姿を現した。道中で懐いてきたあのうさぎだった。小さな口には、太くよく乾いた木の枝をしっかりと咥えている。マリアの足元までトコトコとやってくると、ぽとっと枝を落として靴先にすりすりと鼻先を押し付けてきた。
「うさぎさん、ありがとう。火をおこすのに使えるよ」
マリアがしゃがみ込んで柔らかな背中を撫でてやると、ホーンラビットは気持ちよさそうに目を細めた。今度は頭上の枝から、色鮮やかな羽を持った小鳥の魔物たちの可愛らしいさえずりが聞こえてきた。くちばしにくわえた木の実をマリアの足元へ次々と落としてくれている。
「お姉さん、ことりさんが、木の実をおとしてくれるよ。動物さんはとてもやさしいんだね」
マリアが両手いっぱいに木の実を拾い集めながら無邪気に笑った。アンナは驚きに目を丸くしながらも、ふっと優しい微笑みを浮かべる。
(マリア様を凶暴なはずの魔物たちが、まるで助けようとしているみたいだ。本当に不思議な森ね)
「本当ですね。ありがたく使わせてもらいましょう。私が運びますね」
アンナが駆け寄ろうとすると、マリアはむっと頬を膨らませた。
「ううん、私が運ぶよ。お姉さんばかりに負担をかけたくないもん」
「マリア様、ありがとうございます、」
それから二人は動物たちの助けも借りながら手分けをして、家の骨組みにできそうな真っ直ぐな木の枝や太い枝を探し出す。そして、少しずつ広場の中央へと集め始めた。家と言っても、壁や立派な屋根を作るわけではない。地面の土を、平たくなった木の枝を使って掘る。そして、枝を立てて支柱にし、その上に侯爵邸から持ち出した分厚く大きめの布をしっかりと覆い被せる簡素なテントだ。布の端を風で飛ばされないように、石や土で押さえる。誰にも脅かされることのない、大切な我が家を、自分たちの手で一から作り上げるのだ。




