第4章 初めての夕食
「お腹空いたね。お昼も食べてないし、もう暗いよ」
マリアがお腹をさすりながら言うと、アンナは空を見上げた。木々の隙間から覗く空はすでに薄暗く染まり、森の夜のとばりが下りようとしていた。
「そうだね。今日はこの近くで休みましょうか」
「はい、お姉さん」
そう答えたマリアに、アンナは少しだけ照れくさそうに微笑むと、手際よく荷物を下ろした。
「私は周りの草やキノコを集めてきますね。マリア様、ここに独りでいると危ないですから離れないでくださいね」
「はい」
マリアがそう言って立ち上がろうとした。足元の茂みを見つけて声を上げる。
「これ見つけたけど、食べられるのかな」
「それはダメです。お腹を壊しちゃいますよ。こっちは食べられますよ。こっちの丸いキノコは良い出汁が出ます」
アンナは長年の知識を頼りに葉の裏や茎の色をテキパキと見極めながら、安全な野草やふっくらとしたキノコを木製のカゴに入れていく。そして、周囲からよく乾いた枯れ草や手頃な太さの木の枝を集めた。手慣れた様子で石を打ち合わせて火種を作り、小さな焚き火の火をおこした。赤い炎がパチパチと燃え上り、薄暗くなった森の一部を明るく照らし出す。
旅立ちのとき、荷物に忍ばせて用意していた道具たちが、地面に敷いた布の上に並べられていく。マリア様の追放に着いて行こうと思い用意していた、塩漬けの硬い干し肉、すすで黒ずんだ小さな鉄の鍋、持ち手に無数の傷が刻まれた使い込まれたナイフ。粗末ではあるけれど何度も磨かれて滑らかになった、手入れの行き届いた木製の器とスプーン。
「これで温かいスープを作りましょう」
アンナは切り株を上手に利用して即席のまな板を作り、トントンと食材を切っていく。表情は、これから過酷なサバイバルが始まるとは思えないほど、楽しげで生き生きとしている。
「マリア様、敷物に座って待っていてね」
「お姉さん、私にお手伝いできることある。なんでも言ってね」
「大丈夫ですよ。マリア様はそこに座って体を温めていてください」
間もなくして、鍋から食欲をそそる良い香りが立ちこめてきた。森で見つけた木の実と、干し肉、そして採りたての野草とキノコが入ったスープ。別邸で食べていた冷えた硬いパンくずなどとは比べ物にならないほど素朴なものだった。一口飲むと、冷え切った体が芯からポカポカと温まっていく。
「お姉さん。あったかいね、おいしいね」
「本当ですね」
マリアのお腹が満たされ、安心感からかまぶたがトロンと重くなってきた。
「マリア様、今日はこの敷物で横になって眠ってください」
アンナは優しく微笑むと、マリアの肩に自分の上着をふわりとかけてやった。マリアはゴツゴツとした地面の冷気を通さないよう、敷物の上で丸くなって、心地よさに目を細める。ふと気になって、うとうとしながら見上げた。
「お姉さんは寝ないの。」
「私は昨日たくさん眠りましたから大丈夫ですよ。夜の森は少し冷えますし、虫や獣が来ないように見張っていないといけませんからね」
「うん。無理しないでね。お姉さん、風邪ひかないでね」
マリアは安心しきって、そのまま穏やかな眠りへと落ちていった。静まり返った禁忌の森の夜は、パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く。アンナは一晩中、愛しい主人の眠りを守るために火の番を続けた。




