第35章 アリアーヌとロベールの相談
アリアーヌとロベールはまだ少し風の余韻が残る足取りのまま、急ぎロベールの執務室へと向かった。
「お兄様、聞いてちょうだい。女子会でマリア様からとっても気になる聞き捨てならない話を聞いたのよ」
「マリア殿から。一体どんな話だい」
「マリア様ね、10歳まで、隣国カスティリャ王国の侯爵家の令嬢だったそうなの。でも、なんらかの理由でそのあと禁忌の森に追われてしまったんだって。理由は教えてもらえなかったけれど、あそこの国のレオン皇太子の婚約者が義妹だと、話していたのよ」
ロベールはアリアーヌのその言葉に眉をひそめた。
「ほら、思い出して。私が以前、あそこの国と無理やり政略結婚させられそうになって、マリア様のおかげで白紙に戻ったでしょう。あのとき、あそこの皇太子にはすでに別の婚約者がいるって話だったわよね。マリア様は、義妹の婚約がなくなったのかなって不思議そうに話していたのよ。なんだか、裏ですごい事情があると思わない。ちょっと調べてほしいの」
ロベールは腕を組み、切れ長の鋭い視線を宙に走らせた。
「なるほど。我が帝国を救ってくれた英雄マリア殿が、なぜ10歳でそんな辺境の森になど。しかも、あの荒れ果てたカスティリャ王国の皇太子と義妹の影がちらつくとなれば、穏やかではないな。よし、極秘裏に裏の事情を調べてみよう」
アリアーヌは頼もしいロベールの協力の返事に満足そうに頷いた後、さらに小さく咳払いをして真剣な表情に戻った。
「ありがとう、お兄様。実はね、このことは明日、お父様とお母様、皇太子のお兄様、宰相、クラウスにもちゃんと話すつもりよ。その上でね、私、どうしてもマリア様に我が家のお義姉様になってほしいの」
「は」
ロベールは、予想の斜め上を行く爆弾発言に盛大に椅子から転げ落ちそうになりながら聞き返した。
「なんだって。義姉、どういうことだ」
アリアーヌは悪戯っぽく、けれど本気の熱を帯びた瞳を輝かせてこう言い放った。
「だって、お兄様にはまだ婚約者がいないでしょう。マリア様はあんなに美しくて優しくて、世界を救うほどの奇跡の力を持っているのよ。あんな素敵な方がお兄様の奥様になってくれたら、これ以上ない最高のお義姉様じゃない」
「ちょっと待て。兄上にはすでに公爵家の令嬢という素晴らしい婚約者がいるだろう」
ロベールが慌てて的外れな突っ込みを入れると、アリアーヌは呆れたようにため息をついた。
「第二王子のお兄様、あなたには婚約者がいないじゃないと言っているの」
「待て待て待て、私の話をしているのか。急にそんな話を振られてもだな」
アリアーヌは、ロベールが頭を抱えてたじろぐのも構わず、うっとりと夢見るように両手を組んで微笑んだ。
「想像してみてよ。マリア様が我が家の家族になってくれたら、毎日がどれだけ華やかで素敵か。そうだわ。私とクラウス君の結婚式には、アンナ様もマリア様も、それにヴァイス様とディーネ様も、みんな揃って絶対に出席してくれるって約束してくれたんだから」
「フェンリル様と水の精霊様まで。彼らが来てくれるなら国賓級の歓迎ものだが」
「だから、ヴァイス様たちのお席もちゃんと特別に用意しなくちゃいけないのよ。いまから結婚式が本当に楽しみだわ」
アリアーヌは、すっかり自分の理想の未来予想図に酔いしれ、一人で華やかに盛り上がる。一方で当のロベールは、突然、第二王子の嫁候補として名前を挙げられてしまい、天を仰ぎ、大きく深呼吸をするしかなかった。
平和な禁忌の森とは対照的に、帝都の皇宮では、マリアを巡る新たな恋の謀略と家族会議の幕がまさに上がろうとしていた。




