第29章 王女殿下の婚約パーティー
王女アリアーヌと筆頭公爵家の嫡男であるクラウスの婚約パーティーが開催され、皇宮の大広間はかつてないほどに温かく華やかな祝祭の空気に包まれていた。巨大なシャンデリアが天井から眩いばかりの光を放ち、色とりどりの見事な花々が壁際に美しく飾り付けられて祝宴の始まりを彩っている。
我が子の幸せな未来を見守る皇帝一家が雛壇の上に座り、これ以上ないほどに穏やかで優しい表情を浮かべていた。筆頭公爵家の一家はその傍らに並び、王女の降下婚という身に余る栄誉と重責に少しだけ緊張しながらも、誇らしげに微笑みを絶やさない。
「クラウス。我が娘を生涯大切にすると誓ってくれるか」
「もちろんでございます、皇帝陛下。私の命に代えましても、アリアーヌ殿下をお守りいたします」
「頼んだぞ」
やがて高らかなファンファーレが会場の静寂を促すように鳴り響き、宮廷司会者が正式なアナウンスを告げた。
「これより、我が国の宝であるアリアーヌ王女殿下と、筆頭公爵家嫡男クラウス様との婚約を正式に宣言いたします。なお、アリアーヌ殿下におかれましては、本婚姻に伴い、公爵家へ降下されること相成りました」
その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が広間を包み込んだ。純白の美しいドレスに身を包んだアリアーヌと、凛々しい正装姿のクラウス。二人は政略の重い枷を外し、自らの意志と純愛を貫き通しており、その姿は見上げる者すべての胸を打つ。雛壇の上に並んで立つ二人はしっかりと視線を合わせ、隠しきれないほどの満面の笑みを浮かべて見つめ合っていた。
「アリアーヌ殿下。今日は本当に美しい」
「クラウス様も、とても素敵です」
「君をずっと離さない。これから先も共に歩んでいこう」
「私を見つけてくれて、本当にありがとうございます」
パーティーが始まると、高位貴族たちが次々と二人のもとへ駆け寄り、惜しみない賛辞と祝福の言葉を浴びせていく。
「アリアーヌ殿下、本当におめでとうございます」
「クラウス殿、末永くお幸せに」
「お二人こそ、我が帝国の希望の光です」
たくさんの温かい声が飛び交う中、他の貴族たちからの心温まる挨拶の列は、雛壇の傍らに座る公爵家にも途絶えることがなかった。誰もが心からこの縁を喜び、すべてはあの国を救った英雄であるマリア殿の海より深い慈悲と決断があってこその奇跡だと、深く納得した笑顔を浮かべている。
マリアとアンナもまた、美しく仕立てられたドレスを身にまとい、その光景を心から嬉しそうに見守っていた。
「お姉さん、アリアーヌ様、本当に幸せそうですね」
「マリア様が二人を助けたからよ。あなたの優しさが結んだご縁ね」
「私はただ、お二人の気持ちを伝えただけです。クラウス様の強い思いが届いたのですね」
皇宮中が明るく誇らしげなムードに染まる中、フロアの音楽がついに優雅なワルツへと切り替わった。
アリアーヌとクラウスは中央のステージで、言葉では言い表せないほどの幸せを噛み締めながら、息ぴったりの美しいファーストダンスを踊り始めている。マリアはその愛らしい姿を特等席から見つめながら、ふっと柔らかな笑みをこぼした。
そこに、穏やかな声が不意にかけられる。
「マリア殿。よければ私と一曲、踊っていただけないだろうか」
振り返ると、優しい瞳をした第二王子ロベールがそこに立ち、紳士的な手つきで手を差し出していた。マリアには前回の祝賀会のときのような戸惑いも緊張もなく、少しだけ頬を染めながらも、今度はすんなりとその大きな手に自分の小さな手を重ねた。
「喜んでお受けいたします」
マリアはロベールの優しく的確なエスコートに合わせ、軽やかにステップを踏む。
「マリア殿。あなたには何度感謝してもしきれない。エドワード兄上を救い、妹の幸せまで守ってくれた」
「ロベール様。私はただ、大切な方々が笑顔でいてほしいと願っただけです」
「あなたの願いが、我々を深い絶望から救い出してくれたのだ。本当にありがとう」
今日は特別に小さな子犬の姿になったヴァイスがその足元ですまし顔で白い尻尾を揺らし、ディーネはキラキラと輝く光の粒をまき散らしながら、ふんわりと二人を囲んで楽しげに舞っている。
最高に幸せな夜は、誰もが笑顔で祝福する温かな光に満ちあふれ、どこまでも続いていく。




