↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みにくいアヒルの子~マリア無魔力と呼ばれた少女~  作者: 春告草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/37

第28章 王女の婚約の噂

一人の少女の無垢な願いが、厳重に守られた帝国皇宮の一室で運命の歯車を大きく動かしたその頃。


遠く離れたかつての母国カスティリャ王国では、まさにアリアーヌの婚約を巡って、政情の根幹を揺るがす重大な事態が起きていた。天変地異と魔物の脅威によって、いまや崩壊の危機に瀕している。


「馬鹿な。帝国が縁談を断ってくるとは」

「我が国にはもう、強大な帝国に逆らう力も、交渉を覆す外交カードも残されていません」


かつてカスティリャ王国が強引に進めようとしていた帝国との政略結婚は、宰相が執拗に推し進めていた外交カードであり、アリアーヌの意向を完全に無視した縁談だった。しかし、この厚かましい計画は、マリアの願いと皇帝の快諾によって音を立てて白紙へと押し戻された。


アリアーヌとクラウスの真実の恋は、帝国の後ろ盾を得たことで完璧に守られた。皮肉にも、マリアを無能と切り捨てた母国の失態であった。こうして、王女であるアリアーヌと筆頭公爵家の嫡男であるクラウスの純愛による婚約は、両国を揺るがす大事件の裏で、無事に正式なものとして帝国史に刻まれた。


この慶事は瞬く間に貴族社会全体へと広がり、連日開かれる夜会のたびに熱狂的な噂の的となった。


「聞いたか。あのアリアーヌ殿下の婚約をまとめ上げたのは、他ならぬ我が帝国の救国英雄、マリア殿だそうだぞ」

「マリア殿が自ら、皇帝陛下へのご褒美として直訴されたらしい。あの方はどこまで慈悲深いのだ」

「これでカスティリャ王国の目論見も完全に潰えたわけだ」


実はこの好意的な噂が飛び交う背景には、帝国の頭脳である老練な宰相と側近による、深く計算し尽くされた政治的配慮があった。


「宰相閣下。王族と筆頭公爵家が直接結びつくことになります。公爵家の権力が大きくなりすぎないでしょうか」

「他の有力貴族たちがそれを危惧し、やがて余計な政争の種になりかねん。だからこそ手を打つ」

「どのような手立てを講じるおつもりですか」

「若い二人の純愛だけでは、権謀術数が渦巻く政治の世界は渡りきれん。猜疑心に満ちた不穏な勘繰りを防ぐための大義名分が必要だ」

「大義名分でございますか」

「皇太子の命を救った最大の大恩人であるマリア殿が、唯一願われた神聖な縁談であるという筋書きを流すのだ」


宰相は遥か先の内政の安定まで見据えていた。公爵家に権力を誇示する野心は微塵もなかったが、派閥争いを完全に防ぐために、手回しよく巧妙に貴族社会の隅々にまで情報を浸透させたのだ。


「奇跡の少女の切なるご希望であるならば、それはもはや個々の家柄の損得や派閥を超えた、帝国全体で祝福すべき奇跡となります」


帝国中のすべての貴族家は、宰相の巧みな情報統制と誘導によって不満や警戒を抱く隙すら与えられず、こぞって両家の婚約を絶賛した。そして、心からの祝福と豪華な贈り物を次々と王宮へ捧げることになったのである。


公爵家の権力バランスを巡る些末な懸念は綺麗に霧散し、若者たちのひたむきな恋は、帝国全体の温かい祝福の波に包まれて、確かな未来へと歩み出していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。