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みにくいアヒルの子~マリア無魔力と呼ばれた少女~  作者: 春告草


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第27章 マリアのご褒美

皇宮の最奥にある、厳重な警備が敷かれた絢爛豪華な広間。皇帝、皇后、エドワード皇太子、第二王子ロベール、王女アリアーヌ、帝国の頭脳である老練の宰相は、巨大なシャンデリアが眩い光を放ち、重厚な絨毯が足音を吸い込むその特別な空間に揃って控えていた。


筆頭公爵家の当主である公爵夫妻と、嫡男である青年クラウスは、一体何事かと神妙な面持ちでそこに同席させられていた。この場の主賓であるマリアとアンナ、そして足元で彫像のようにお利口に座る巨大なヴァイスと、小さな水泡のなかで機嫌よくぷかぷかと浮かぶディーネも一緒だ。


公爵一家が、我が家が何か粗相でもしたのだろうかと緊張感を漂わせる中、皇帝は、威厳ある顔をふっと和らげ、穏やかな笑みを浮かべてマリアに向き直った。


「さて、マリア殿。先日の大祝賀会の件で、我が帝国を救ってくれた最大の恩義に対する、何でも好きなご褒美を約束したな。一体、どのような望みかな。金銀財宝でも、広大な領地でも、どんな無理難題でも、私が必ず叶えてしんぜよう。遠慮は一切不要だ。さあ、申してみよ」


マリアは、皇帝が豪快に笑いながらそう促すと、少し緊張した面持ちで居住まいを正した。傍らのアンナが静かに微笑んで頷くのを見て、彼女は一つ深呼吸をし、澄んだ赤い瞳で皇帝を真っ直ぐに見据えてはっきりと告げた。


「皇帝陛下。私には、これ以外に望むものは何もありません。お願いです。アリアーヌ殿下と、そこにいらっしゃる筆頭公爵家の嫡男であるクラウス様との婚約と、未来の結婚を、どうか確約していただけないでしょうか」

「なに」


広間にいた公爵一家は、一瞬にして息を呑んだ。まさか国を救った英雄の口から自分たちの息子の名前が出るとは思ってもみなかったのだ。筆頭公爵家の当主は、我が耳を疑い、滝のような冷や汗を流しながら顔面を真っ青にした。


「おい。何という恐れ多いことを。マリア殿、我が息子はただの一介の騎士に過ぎません。陛下の御前でそのような冗談はおやめください」


当事者であるクラウスは、驚きに目を見開いた後、震える拳を固く握り締めた。彼は、意を決したように父の制止を振り切って一歩前に進み出ると、皇帝の御前で深々と頭を下げた。


「父上、申し訳ありません。皇帝陛下。身勝手で恐れ多いお願いとは重々承知の上でございます。ですが、どうか、アリアーヌ殿下と私の婚約をお許しください。私は生涯をかけて、殿下をお守りし幸せにすると誓います。私の命に代えても、必ずや殿下を笑顔にし続けます」


アリアーヌも、青年の命懸けの覚悟に続くように自ら席を立ち、皇帝の前に進み出た。彼女の美しい瞳には、嬉しさと決意の涙が浮かんでいる。


「お父様。私も、彼と結ばれることを強く望みます。クラウス様は誠実で、誰よりも私の心を救ってくださいました。マリア様と私たちの願いをお聞き届けください。どうかお願いいたします」

「こら。お前たち、陛下を前にいったい何を考えているんだ。お許しください、陛下。息子は気が動転しているのです。直ちに連れ帰って厳罰に処します」


公爵は慌てて息子を止め、平伏して謝罪しようと声を荒らげたが、場の空気は大きく温かい方向へと動き始めていた。


皇帝は、突然の申し出に驚き目を丸くしていたが、声を上げて腹の底から楽しそうに笑い出した。傍らにいる皇后も、健康を取り戻して晴れやかな顔のエドワードも、事情をあらかじめ知っていた様子のロベールも、愛する家族の幸せなを前に微笑ましく見守っている。


「よいではないですか、あなた。二人の瞳には微塵の迷いもありません」


皇后が優しく夫に語りかけると、エドワードもそれに続いた。


「私も賛成です。クラウスの剣の腕と忠誠心は、私が一番よく知っています。アリアーヌを任せるに足る男です」


ロベールも肩をすくめて笑う。


「まったく、マリア嬢には驚かされます。自分のための褒美をこんな風に使うなんて、本当に彼女らしいですね」


緊張していたはずの場は、身分やしがらみを超えた若い二人の純粋な想いと、自らの特大の恩賞を惜しげもなく他人の幸せのために使ったマリアの真っ直ぐな優しさによって、すっかり和やかで幸福な空気に包まれていく。


老練の宰相は白い髭を撫で、満足そうな笑みを浮かべてこう呟いた。


「ほう。これはもう、文句なしに決まりですな。ちょうど、隣国のカスティリャ王国の皇太子から執拗に届いていた、我が国にとって何の益もない理不尽な婚姻の打診をどう断ろうかと、口実を探していたところですし。これほどの純愛と、我が国の英雄の願いを阻む理由など、帝国にはただの一つもございませんな」


皇帝は、宰相のその見事で機転の利いた言葉に大きく深く頷き、広間中に響き渡る声で力強く宣言した。


「公爵よ、頭を上げよ。これは罰するようなことではない。満場一致で許可する。マリア殿、実に見事なご褒美の使い道だな。その温かい心遣いに、改めて礼を言う。おめでとう、クラウス、アリアーヌ。我が愛娘の未来の伴侶として、二人の婚約をここに正式に確約しよう」


広間は、一瞬にして割れんばかりの温かい祝福の拍手に包まれた。アリアーヌとクラウスは、感極まった表情で互いの顔を見合わせ、大粒の涙を流しながら、マリアと皇帝に向けて深く深く頭を下げた。

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