第22章 王国の異変
帝国でマリアたちが温かく穏やかな時間を過ごしている頃。かつての母国であるカスティリャ王国は、5年前、マリアとアンナを冷酷に追放したが、いまやかつてない異常気象と混乱の渦に飲み込まれようとしていた。
悲鳴のような報告が、王国全土から次々と王宮へと舞い込んでいた。
「最近の天変地異は一体どうなっているんだ」
「こちらの地方では何週間も全く雨が降らず、川は干上がり、畑の作物が干からびてほぼ全滅です」
「ふざけるな、こっちはその逆だ。長雨が何日も続いて泥の海になり、秋の収穫が全滅しかけている」
「陛下、大変です。北部の国境を守っていた結界に原因不明の亀裂が入り、そこから凶暴な魔物たちが次々と領内へ侵入してきています」
「西部の穀倉地帯では突如として異常なつむじ風が巻き起こり、村がいくつも吹き飛ばされました」
干ばつ、大雨、結界の破損、魔物の侵入といった壊滅的な災害の報告が、各地方から休まることなく届いていた。そのため、王宮の執務室は怒号と悲鳴が飛び交うパニック状態に陥っていた。
国王陛下は頭を抱えていた。皇太子レオンも、その緊迫した王宮の片隅で、激しい頭痛に耐えるように頭を抱え、脂汗を流していた。
かつてこの国から、無魔力の落ちこぼれと見下され、冷酷に追放された少女マリアの姿が、彼の脳裏にふとよぎった。
マリアはあのとき、周辺諸国の複雑な言語や歴史書や礼法を完璧に理解していた。
言い知れぬ後悔と先行きへの不安が、レオンの胸中を駆け巡る。
側近が、さらに追い打ちをかけるように青ざめた顔で執務室へ駆け込んできた。
「レオン殿下。婚約者のソフィア様が、また王都の宝石店や高級ドレスのサロンを貸し切り、大量の買い占めを行っております。お止めしても聞く耳を持たず、お妃教育や公務の書類決済も、まったく手つかずのままです」
側近の悲痛な報告が、静まり返った執務室に重く突き刺さる。
義妹のソフィアは、マリアからその場所を奪い、この国の未来の皇太子妃として婚約者の座に収まっていた。しかし彼女は、国の存亡の危機などどこ吹く風であり、相変わらず自分が着飾るための贅沢とファッションにしか興味を示していなかった。
王宮上層部は、そのあまりの無能さと浪費癖に呆れ果てていた。彼らはすでにソフィアを正婚約者から側室候補へと降格させる手続きに入っており、国を支えられる有能な新たな婚約者を血眼になって探している有様だ。
そしてレオンは、もう一つの大きな焦りを抱えていた。
彼はかつて、周辺国への勢力拡大を狙い、他国との大規模な政略結婚を執拗に推し進めていた。それは、帝国の王女であるアリアーヌとの、縁談という名の強引な外交カードだ。
宰相が、皇太子の名でどうにか形にしようと、帝国との交渉を粘り強く続けてはいる。
(マリアがいれば。いや、あの子を理不尽に追い出したのは、他でもない私自身だというのに。しかも私は5年前、人が到底生きてはいけないあの恐ろしい禁忌の森に彼女を捨てたのだ。後悔しても、あの子が生きているはずなどないのだ)
荒れ狂う異常な天候、破られた国境の結界、牙を剥く魔物たち、次々と飛び込んでくる絶望的な報告に玉座の間は混乱の渦に飲み込まれていた。




