第21章 皇太子完治
風の精霊たちの強大な加護を受けた一行は、驚異的なスピードで帝国の帝都へとたどり着いた。
帝都を囲む巨大な城壁や人々の行き交う大通りに入る直前、ヴァイスの体はマリアの腕の中でふわりと淡い光に包まれた。彼は周囲の目を驚かせないよう、あっという間に愛らしい小さな子犬の姿へと変化したのだ。マリアは小さくなったヴァイスをそっと抱きかかえ、ロベールが乗る馬の前に一緒に腰掛けたまま、帝都へと足を踏み入れた。
一行が皇宮の巨大な正門に差し掛かると、すでに皇帝からの厳命を受けていた衛兵や完全武装の騎士たちは、道を開けるように一斉に深く頭を下げた。誰一人として責める者はおろか、怪しむ者すらいない。一行は、ただ最上級の敬意と張り詰めた緊張感に包まれた厳戒の態勢の中、一切遮られることなく、大理石が敷き詰められた皇宮の敷地内へとそのまま滑り込んでいった。
馬を降りたマリアとアンナ、そしてロベールたちは、厳重に守られた皇宮の最奥へと急いだ。皇帝、皇后、そして王女アリアーヌは、重厚な扉が開け放たれた療養室の前で息を殺して待ち構えていた。マリアはロベールに促され、重苦しい空気の漂う部屋の中へ一歩ずつ足を進めて入る。
エドワード皇太子は、部屋の中央にある豪華な天蓋付きの寝台で、高熱と呪いに蝕まれ、生気のない顔で苦しそうに伏せっていた。アンナは、その傍らでそっとマリアの背中を温かく見守っている。
「ここですね」
マリアは静かに呟くと、寝台のふちに歩み寄り、苦しそうにうなされるエドワードの胸元へとそっと小さな両手をかざした。
その瞬間、太陽の光を上回るような眩い金色の光が、マリアの手のひらから溢れ出した。その光は確かな意思を持つ生き物のように、エドワードの衰弱しきった体を優しく、力強く包み込んでいく。
部屋に控えていた宮廷医師や家族たちは、神秘的な光景に息を呑み、思わず目を見開いた。金色の光の粒子は、エドワードの衣服や皮膚を通り抜け、まるで体の中へと吸い込まれていくように浸透していく。彼の命を長年蝕み続けていた澱んだ黒い呪いの鎖が、その内部で聖なる光の奔流によって跡形もなく浄化され、完全に消え去っていくのがはっきりと見えた。
やがて眩い光は静かに収まり、マリアはそっと両手を下ろした。
静まり返った部屋の中で、荒く浅かったエドワードの息は、驚くほど穏やかで深いものへと整っていった。彼は数秒の沈黙の後、かすかな寝息とともにゆっくりと重いまぶたを持ち上げた。透き通るような青い瞳は、ぼんやりと絢爛な天井をとらえ、それから枕元にいる家族や見慣れない少女たちの姿へと向けられた。
「ここは」
かすれた声で呟き、自分の体がいつの間にかあの耐え難い重苦しさから完全に解放されていることに気づいた。
「私はどうしたんだ」
安堵と歓喜の波が、静まり返っていた療養室にどっと押し寄せた。
「エドワード。よかった、本当によかった」
皇后は耐えきれず、ゆっくりと身を起こしたエドワードの胸にすがりつくようにして声をあげて泣き崩れた。アリアーヌは傍らで両手で顔を覆い、あふれ出る涙を拭おうともせずに肩を震わせている。
皇帝は我が子の奇跡的な生還を目の当たりにし、言葉を失ったまま、ただ震える瞳でベッドの上のエドワードと、傍らに立つ銀髪の少女を見つめていた。ロベールは数歩後ろで完全に呆然とした表情でその光景を眺め、いま起きている奇跡が現実なのかどうか信じられない様子で立ち尽くしている。
やがて皇帝は深い感動のあまり、胸にこみ上げる熱いものを抑えきれずに一歩前へ踏み出した。そして彼はマリアの前にゆっくりと歩み寄ると、一国の君主であることも忘れ、深々と頭を下げた。
「マリア殿。我が息子を救ってくださり、本当にありがとう」
皇帝の言葉には、偽りのない心からの感謝と、親としての深い安堵が痛いほどに込められていた。




