↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みにくいアヒルの子~マリア無魔力と呼ばれた少女~  作者: 春告草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/25

第2章 禁忌の森へ

「行っちゃったね」


16歳のアンナは十代半ばを過ぎた年の功か、ふっと息を吐き出した。自分の服を落ち着いた手つきで軽く叩いて埃を落とす。その顔には恐怖や絶望の色はなく、むしろどこかすっきりとした清々しさが漂っている。10歳のマリアを見下ろす瞳には、底知れない母性と頼もしさがあった。


「はい。これで本当にあの息苦しい場所から離れらましたね」


マリアは自分の足元を見つめた。王宮の冷たい大理石とは違う、湿った黒い土の感触。頭上を覆う木々の隙間からは、夕暮れの橙色の光が差し込んでいる。


「アンナ。行こう。禁忌の森の奥へ」

「はい、マリア様。私に任せてください。ここから先は、私たちの場所です。王宮の連中も絶対に追ってこられない。私がしっかり守りますからね」


アンナは、6歳年下のマリアを包み込むように優しく微笑み、冷えた小さな手をしっかりと自分の温かい手で握りしめた。

二人は後ろを振り返ることなく、生い茂る木々のトンネルへ足を踏み入れる。


そのとき、マリアの体内で、ズキリと何かが静かに目を覚ました。誰にも見せないように隠し続けてきた醜い痣。太ももの内側の秘密の場所が、冷たい森の空気に反応するかのように、熱を帯び始めたのだ。


「行こう。少し遠いわね。でも、歩いて歩けない距離じゃない」


マリアが前を向いて歩き出しながら、小さく息をついた。


「アンナ。乳母はどうしてるんだろう。一緒に来ればよかったわね。私やアンナと別れて、冷たい家に残されて、辛く当たられなければいいんだけど」

「マリア様。母は大丈夫です。あの人は強い人です。あそこに家族が残っていますからね」


アンナは少しだけ遠い目をして、しっかりと前を見据えた。父や兄、そして妹の顔が頭に浮かんだ。アンナの表情には、愛する家族と離れる寂しさはあるはずなのに迷いはなかった。


「お父さんも、お兄さんも、妹さんもみんないるものね。アンナ、お願いがあるの。これからはお姉さんって呼ぶのはだめかな。私のことはマリアって呼び捨てにしてね」


マリアが振り返ってそう言うと、アンナは慌てたように首を横に振った。


「そんな。マリア様を呼び捨てになんて出来ません。お姉さんはもったいないながら、いいのですが。私はこれからも、マリア様と呼ばせていただきます」

「そんな堅苦しいの嫌いなのに」


10歳のマリアは不服そうに頬を膨らませる。アンナは少しだけ困ったように、愛おしそうに目を細めた。


「マリア様、これだけは譲れません。話って何ですか」


アンナが少し歩幅を緩め、心配そうに覗き込んでくる。マリアは言い淀むように、裾をぎゅっと握りしめた。


「アンナ。こんなこと、気持ち悪いかな。嫌なら、聞かないでほしいんだけど」

「マリア様、なにを言うんですか。私にとって嫌な話なんて何一つありません。どんなお話でも、気持ち悪いなんて思いませんよ」


アンナの力強い言葉に勇気づけられて、マリアは小さくうなずく。


「私の太ももの内側の痣、知ってるよね」

「はい。ご両親たちが心無いことを言っていた、あの綺麗な花の模様の」

「この森に近づくたびに、不思議なんだけど、そこがズキズキするの。痛くはないのよ。体が熱くなって、何かに呼ばれているような、そんな気がして。私、やっぱり気味が悪い子なのかな」


不安そうに瞳を揺らすマリアの小さな手を、アンナは自分の温かい両手で包み込んだ。


「気味悪いだなんて、そんなこと絶対にありません。マリア様の痣は、誰が何と言おうと綺麗です。この森がマリア様を呼んでいるんだとしたら、ここにはマリア様のための何かがあるんですよ」

「うん」


アンナの言葉に少しだけ勇気をもらいながら、二人はついに足を踏み入れた。生い茂る黒々とした木々が口を開ける禁忌の森の境界線へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。