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みにくいアヒルの子~マリア無魔力と呼ばれた少女~  作者: 春告草


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第15章 皇太子を癒やした薬草

第二王子ロベールと従者のマルコたちは、禁忌の森を後にすると、急ぎ足で自国である帝国へと帰還した。


昼夜を問わず馬を走らせること数日。ロベールは、白亜の城壁がそびえ立つ帝国の皇宮へ戻ると、長旅の埃を払う息つく暇もなく、宮殿の最奥へと真っ直ぐに向かった。その場所は、厳重な警備と何重もの強力な魔法結界で守られており、原因不明の重病に倒れた皇太子が療養している特別区画だった。


重く閉ざされた豪奢な扉が開くと、薬の匂いと冷たく重苦しい空気が、部屋の中に濃く立ちこめていた。帝国の次代を担うべき優秀な兄である皇太子は、天蓋付きのベッドの上で高熱にうなされながら、苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。かつて精悍だった顔は紙のように青白く痩せこけ、その命の火は今にも消え入りそうな風前の灯火のようだった。


「兄上」


ロベールはベッドの傍らへ駆け寄ると、震える手で懐から上質な絹の布を慎重に取り出した。それは、禁忌の森の開けた広場でマリアからわけてもらった、あの幻の薬草だった。


部屋の片隅に控えていた数名の宮廷医師たちは、ロベールの声に気づき、慌てて駆け寄ってくる。深い絶望の色が、長年の懸命な治療の甲斐もなく完全に打つ手なしとなった彼らの顔に濃く滲んでいた。


「殿下、お戻りになられて。その布包みは一体」


筆頭である一人の老医師が、ロベールの手元を怪訝そうに見つめる。


ロベールは力強く頷き、布を開いてその瑞々しい薬草を医師たちの前に差し出した。


「これを見てくれ。これは禁忌の森の奥底で手に入れた薬草だ。あそこに暮らす少女たちにわけてもらった。おそらく、私たちが長年探し求めていた、兄上の病に効くと言われる幻の薬草ではないだろうか」

「禁忌の森だと」

「それに、この葉の形状、微かに放たれるこの澄んだ魔力の波動。間違いありません。伝説の書物にうたわれた、とうの昔に失われたはずの幻の薬草です」


驚愕と確かな希望の光が、宮廷医師たちの顔に絶望から一転して走った。


「医師たちよ、頼む。兄上を助けてくれ」


医師たちはロベールの必死の懇願に深くうなずくと、すぐさま薬草の調合と煎薬の準備に総出で取り掛かった。これまでにない真剣な緊張と、微かで温かい希望の空気が、淀んでいた部屋の中に満ちていく。


慎重に温度を見極めて煎じられた薬湯が、老医師の手によって皇太子の口へとゆっくり運ばれる。ごくりと細い喉が鳴り、温かい薬湯が体の中へと染み込んでいった。はじめは大きな変化がなかったものの、わずかな時間が経つと、皇太子の荒く苦しそうだった呼吸が徐々に深く穏やかなものになっていく。うっすらと健康的な血の気が、紙のように青白かった頬に戻ってきた。


「息が、楽になっているようだ」


老医師が涙ぐみながら震える手で皇太子の脈を測り、大きく息をついた。


「お見事です。完全に峠は越えました。もう命に別状はありません」


部屋に控えていた宮廷医師たちや従者たちが、一斉に深い安堵の息を漏らした。その場に崩れ落ちるように胸をなで下ろした。


「よかった。本当によかった」


ロベールは涙をこらえながら力強く拳を握りしめた。


老医師が安堵の表情を浮かべながら、恭しくロベールに進言する。


「殿下、この薬湯をもう少し長くお続けいただければ、やがて完全にご快癒いただけるでしょう。ただ」


老医師は少し言い淀み、再び神妙な顔つきになった。


「これは伝説にうたわれる幻の薬草です。あのような魔物がばっこする深い森で、それほどまとまった量を継続して確保できるものなのでしょうか」


ロベールの表情は、その言葉に引き締まった。不思議な力を持つ少女マリアが、あの森にいた。彼女の手入れが行き届いたあの豊かな畑なら、きっと必要な薬草が手に入るはずだ。


「大丈夫だ。私が再び、彼女の元へ頼みに行こう」


ロベールは迷いなく力強く断言し、そして周囲の者たちを見回して鋭く命じた。


「いいか、私の護衛の者たち以外、他の者は絶対にあの森に近づかせるな。あそこは禁忌の森であり、強大な魔獣フェンリルや精霊たちがすんでいる。無用な刺激を与えれば、軍隊を出しても何が起きるか分からん。私と、選抜された最小限の護衛だけで行く」


皇帝、皇后、そして皇太子の妹である王女アリアーヌも、皇太子の快復の知らせを聞きつけ、急ぎ足で療養室へと駆けつけてきた。家族たちは、ベッドの上で穏やかな寝息を立てる皇太子の姿を見ると、奇跡的な回復を心から喜び合い、大粒の涙を流して互いに抱き合った。


「ロベール、お前のおかげだ。本当にありがとう」


皇帝が我が子の肩を強く叩き、威厳ある声の奥に父親としての深い感謝を伝える。


「父上、母上、アリアーヌも、もう安心してください。兄上が完全に治るための薬は、まだあの場所にあります。いますぐ、私がもらってきます」


ロベールはその足ですぐに出立の身支度を整え、マルコとシモンを引き連れて、休む間もなく皇宮を飛び出した。目指すは、再びあの緑深く神秘に満ちた禁忌の森。ロベールは、一刻も早く大切な兄を完全に救い出すため、急ぎ足で国境の森の境界へと愛馬を走らせた。

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