第14章 薬草の懇願
「失礼だが、あの畑にあるのは薬草だろうか」
「はい。薬草と、私たちが普段食べる野菜があります」
マリアが素直に答えると、ロベールは居ても立ってもいられないといった様子で前のめりに身を乗り出した。
「もしよければ、あとで少し見せてもらってもいいだろうか」
「いいですけど」
アンナがまだ少し警戒を解かないまま答えると、ロベールは深く礼をして立ち上がり、マリアたちに案内されて小屋の外に広がる畑へと歩み出た。
植物は、綺麗に手入れされたふかふかの黒い土の上で、太陽の光をたっぷりと浴びて青々とした葉を広げていた。その土壌は濃密な魔素を含んでおり、普通の土地では育たないような希少な植物を見事に育て上げていた。ロベールとその従者であるマルコとシモンは、瑞々しい野菜の中に生い茂る数株の特別な植物に気づき、同時に息を呑んだ。
「これは、まさか」
ロベールは信じられないものを見るように目を見開き、そして真剣で切実な色を帯びた瞳でマリアとアンナを見つめた。
「頼む、絶対に迷惑はかけない。時々ここに来てもいいだろうか」
マリアは突然の願いに、不思議そうに小首をかしげた。
「お姉さん、ヴァイス、ディーネ、どう思う」
ヴァイスは警戒しつつも低く鼻を鳴らし、ディーネはふわりと宙に浮いてマリアの真似をするように首をかしげる。アンナは戸惑いながらも、目の前の王子が放つ嘘のない必死な気配を感じ取っていた。
「大人数で来たり、暴れたりしないならいいですけど。ただ、大勢で頻繁に来られるのは困ります」
「約束する。少人数で、君たちの邪魔は絶対にしない」
ロベールは力強く頷くと、わずかに震える手で畑の一角を指差した。
「本当に申し訳ないんだが、その薬草を少し見せてもらっていいかな」
「どうぞ」
マリアがうなずくと、ロベールは作物を踏まないよう慎重にその植物に近づいた。その薬草は、淡い緑色の葉をつけ、周囲の空気を浄化するような清涼な香りを放っていた。
「間違いない。これは、国中の医師を探しても手に入らないはずの幻の薬草だ」
驚愕と隠しきれない切なさが、ロベールの顔に浮かび上がる。彼は地面に膝をつくほどの勢いで頭を深く下げ、懇願するように言った。
「すまない、頼む。ほんの少しでいい。この薬草をもらえないだろうか。実は、私の兄が重病なのだ。国中の薬でも治せなかったが、この幻の薬草があれば兄は助かるかもしれないんだ。頼む」
彼は、帝国の次期皇帝である兄の命を救うため、これまであらゆる手段を尽くしてきた。その最後の希望が、まさかカスティリャ王国の禁忌の森の奥深くで見つかるとは思ってもみなかったのだ。
マリアは王子の必死な声を聞き、優しく微笑んでうなずいた。
「いいわよ。大切に育てたものだから、役に立つならどうぞ」
「ありがとう。本当に、ありがとう」
ロベールはまるで世界で一番尊い宝物を扱うように、細心の注意を払いながらほんの少しだけ薬草の葉を刈り取り、持っていた上質な絹の布へと大切に包み込んだ。
この偶然の出会いと一握りの薬草が、やがてカスティリャ王国とカイザーベルク帝国を揺るがす大きな運命の扉を開くことになるとは知らない。




