5.”兄ちゃん”
――果ての見えない海で、幼い男の子が溺れていた。
苦しそうな表情で、手足をばたつかせ、もがいている。
「――いきが、できない――ママぁ――」
どこまでも続く海には、男の子を助ける者はいない。
そのとき、ザッパーン! という音とともに、青い鱗のドラゴンが海の中から現れ、男の子を背に乗せた。ドラゴンの背には、制服姿の少年が乗っている。
少年は、男の子の背中を撫でた。
「よぉ、レオ。また溺れてたのか」
レオと呼ばれた男の子はげほげほと咳き込みながら、少年を見た。
「”にいちゃん”……ありがと……」
「お前、すぐ溺れるな。――溺れそうになったら、こいつを呼べって言ってただろ?」
“にいちゃん”は自分たちが乗る青いドラゴンを指差した。
「うん。――おぼれても、マリンドラゴンがたすけてくれる……」
「そうだ」
レオはそれから首を傾げた。
「どうして、ぼくは、おぼれてるの?」
“にいちゃん”は少し黙ってから、レオの頭を撫でた。
「なんでかな」
「ママはどこ?」
「どこだろうな」
“にいちゃん”は少し顔を歪めてから、レオの肩をたたいた。
「それより、レオ、“ドラゴンマスターズ”の新作、今度出るぜ。――そろそろ目ぇ覚ませよ」
「ほんとに!」
「今度の舞台は、空の島なんだぞ」
“にいちゃん”が指をぱちんと鳴らすと、一面の海は、雲の上へと姿を変えた。
「わぁ、すっげぇー!」
大喜びのレオを見て、“にいちゃん”は唇の右側を持ち上げて、笑った。
そんな“にいちゃん”を見て、レオは首を傾げた。
「にいちゃん、なんかいいことあったの?」
「うん。……ちょっとな、面白いことがあったんだ」
「なになにー?」
身を乗り出すレオの頭をくしゃっとして、“にいちゃん”は苦笑した。
「お前にはまだ難しい話だよ。それより、今日は何して遊ぼうか?」
◇
「――陽真、どうだ?」
白衣の医師が低い声で言った。
声をかけられ、“にいちゃん”――陽真は目を開けた。
そこは、白い病室だった。
少年の目の前には、管につながれた小学生くらいの男の子が寝かされている。
ピッピッ、と男の子の頭につながれた電極から脳波が送られ、モニターに波形が映し出されていた。
「爺ちゃん――まだ、駄目みたい」
少年は首を振った。
「そうか――」
白衣の医師はため息をつくと、少年の肩をたたいた。
「しかし、脳波は活発に動いていた。――反応は出ている」
それから、少年に聞く。
「玲央くんは、どんな夢を見ているんだ?」
「――また、溺れてたよ」
少年は手に持ったゲームの攻略本を握り締めて、男の子に話しかけた。
「レオ。……もうすぐ、新作出るぞ。――だから、起きてこいよ」
ピッと脳波の波形がわずかに揺れた。




