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【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第一章 出会いと”悪人狩り”】

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5.”兄ちゃん”

 ――果ての見えない海で、幼い男の子が溺れていた。

 苦しそうな表情で、手足をばたつかせ、もがいている。


「――いきが、できない――ママぁ――」


 どこまでも続く海には、男の子を助ける者はいない。


 そのとき、ザッパーン! という音とともに、青い鱗のドラゴンが海の中から現れ、男の子を背に乗せた。ドラゴンの背には、制服姿の少年が乗っている。


 少年は、男の子の背中を撫でた。


「よぉ、レオ。また溺れてたのか」


 レオと呼ばれた男の子はげほげほと咳き込みながら、少年を見た。


「”にいちゃん”……ありがと……」


「お前、すぐ溺れるな。――溺れそうになったら、こいつを呼べって言ってただろ?」


 “にいちゃん”は自分たちが乗る青いドラゴンを指差した。


「うん。――おぼれても、マリンドラゴンがたすけてくれる……」


「そうだ」


 レオはそれから首を傾げた。


「どうして、ぼくは、おぼれてるの?」


 “にいちゃん”は少し黙ってから、レオの頭を撫でた。


「なんでかな」


「ママはどこ?」


「どこだろうな」


 “にいちゃん”は少し顔を歪めてから、レオの肩をたたいた。


「それより、レオ、“ドラゴンマスターズ”の新作、今度出るぜ。――そろそろ目ぇ覚ませよ」


「ほんとに!」


「今度の舞台は、空の島なんだぞ」


 “にいちゃん”が指をぱちんと鳴らすと、一面の海は、雲の上へと姿を変えた。


「わぁ、すっげぇー!」


 大喜びのレオを見て、“にいちゃん”は唇の右側を持ち上げて、笑った。

 そんな“にいちゃん”を見て、レオは首を傾げた。


「にいちゃん、なんかいいことあったの?」


「うん。……ちょっとな、面白いことがあったんだ」


「なになにー?」


 身を乗り出すレオの頭をくしゃっとして、“にいちゃん”は苦笑した。


「お前にはまだ難しい話だよ。それより、今日は何して遊ぼうか?」


 ◇


「――陽真(はるま)、どうだ?」


 白衣の医師が低い声で言った。

 声をかけられ、“にいちゃん”――陽真は目を開けた。


 そこは、白い病室だった。

 少年の目の前には、管につながれた小学生くらいの男の子が寝かされている。

 ピッピッ、と男の子の頭につながれた電極から脳波が送られ、モニターに波形が映し出されていた。


「爺ちゃん――まだ、駄目みたい」


 少年は首を振った。


「そうか――」


 白衣の医師はため息をつくと、少年の肩をたたいた。


「しかし、脳波は活発に動いていた。――反応は出ている」


 それから、少年に聞く。


「玲央くんは、どんな夢を見ているんだ?」


「――また、溺れてたよ」


 少年は手に持ったゲームの攻略本を握り締めて、男の子に話しかけた。


「レオ。……もうすぐ、新作出るぞ。――だから、起きてこいよ」


 ピッと脳波の波形がわずかに揺れた。


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