↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第一章 出会いと”悪人狩り”】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/45

4.家族

「――はぁ……疲れた……」


 帰宅した澪は、バッグを学習机の上に放り投げると、制服のままベッドに飛び込んだ。

 一時間経っても電車は止まったままだったので、学校に電話をして登校日を変更してもらった。

 結局、あのあと、“エヌ”といちごパフェを食べながら一時間程度ファミレスで食事をし、振替乗車で帰宅した。


 ――ブブッ


 スマホの着信音がして、立ち上げた。


『家ついた?』

 

 ――エヌからのメッセージだった。

 

 ファミレスで話している間に、エヌは「エヌ」、澪は「エム」という名前でSNSアカウントを作った。フォロー相手は一人だけ。二人が連絡を取り合うためのアカウントだった。


『俺が何してるかわかる?』


 既読をつけると、すぐに次のメッセージ。

 澪の脳内に、大きなテレビにシューティングっぽいゲーム画面が映っているイメージが流れ込む。


『――ゲームしてるでしょ。シューティングの』

 

 そう送ると、驚いた顔のスタンプが送られてきた。


『すげぇ。本当に電波で受信できるんだな』


 本当に驚いているのが伝わってくる。

 澪はふっと笑った。


『あたしの考えていること、あんたはわかんないでしょ』


『わかんね』


(こういうやりとりなら、私の方が、力が上なのかな……)


 面と向かってでは、澪の思考回路ばかり読まれてしまうので、悔しい気持ちがしていた。


(だって、あたしはあいつの本名も知らない)


『あんたも家に帰ったの? 学校は?』

『頭が疲れたから、今日は休むことにした』


(エヌも疲れてたんだ)


 そんな素振りは見せていなかったので、澪は目を大きく見開いた。

 エヌとのファミレスでの会話は、ほとんど心の声で話していた。

 そのせいか、エヌと別れてから、頭が計算問題を数時間解かされたような疲労感で重たかった。


(――今なら、聞き出せるかも?)


 ふと思い立って、澪はエヌにメッセージを送った。


『エヌの本名教えてよ』


 返信が途切れた。


 ニヤリとした顔の絵文字が返って来た。

 澪の脳内に、芝生を駆けまわる柴犬のイメージが浮かぶ。


(――あいつ! 犬の画像でごまかした!)


 澪はスマホを握りしめた。

 追加でメッセージが届く。


『危ねぇ。そういう不意打ちやめてくれ』


 澪は思わず、ふっと笑いを漏らした。

 

(――私以外に、テレパシー使える人がいるなんて、驚いたな)


 この力のせいで、学校に行けなくなって、家にひきこもる日々だった。

 家族にも言えず、最初は自分の頭が本当に変になってしまったのではと思っていた。

 自分と同じ力を持つ人間が、同じ路線を使う人の中にいたということが、澪にとって、ようやくわかり合える相手を見つけたような、そんな気持ちだった。


(――やばい奴だけど)


 人が死んだのだ。目の前で。

 あいつがやったことの影響で。

 けれど。


 澪はスマホでニュースサイトを開いた。


『痴漢男性が逃走 電車に轢かれる』


 そんなニュース記事には、多くのコメントがついていた。


『朝から迷惑』

『死んで当然』


 大多数を占めるそんなコメントがリアルタイムで増えるたび、書き込んだ人間の思考が頭に流れた。


 《この路線、痴漢多くて最悪なんだよね》

 《やっぱりバレるんだよな。やりたい気持ちはわかるけど》

 《仕事遅れた。最悪》


 同じ事件の記事なのに、頭に流れ込んでくる感情はばらばらだった。


 ――いつもは、頭がパンクしそうになって、こういうコメント欄を開くことができない。

 けれど、今日は、平気だった。

 この事件の裏側を自分は知っている。

 ――それを共有する相手がいる。


 そう思うと、気分が少し高揚した。


 ◇◇◇


「ただいま!」


 夕方になると、弟の悠斗(ゆうと)が学童から帰宅してきて、澪の部屋をのぞきこんだ。


「昨日のゲームの続きしようよ!」


 ランドセルを玄関に放り投げるなり、澪の手を引っ張ってリビングへ誘導していく。


 《今日ケンくんにやり方聞いたから絶対負けないぜ。えっと、フィールドから出そうになったら、右、R、左……》


 澪はくすりと笑うと、まだ自分の胸くらいの高さの弟の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「――ケンくんもやるんだね」


 ふとそうつぶやくと、悠斗はぴくりと止まって、姉を見た。


「なんでわかんの!? 姉ちゃん、やっぱ超能力ある!?」

 《姉ちゃんすげぇ……》


 連動して聞こえてきた心の声に、澪はまた頬を緩めた。

 ――悠斗の心の声は、単純で癒される。


(ずっとこのままでいてほしいな)


 そう思ってしまうのは、よくないことだろうか。

 ――いつから、人間の思考は、街にあふれる心の声のように、複雑になっていってしまうのだろう。


 悠斗とゲームをしていると、今度は母親が帰って来た。


「澪、登校日どうだった? 電車止まってなかった?」


 帰って来た母親は、駅地下の食品売り場のケーキの箱を持っていた。

 澪の登校日には、いつも買ってきてくれる。


「――うん。遅延で、動きそうになかったから、登校日ずらしてもらった……」


 母親は澪の横に来ると、ケーキの箱を見せた。

 肘が触れ合うほどの距離になり、心の声が聞こえた。


 《よかった。変なのに巻き込まれてなくて》


「――痴漢でしょ。本当迷惑よね。……変な人がいたら、お母さんに連絡するのよ」


 母親の頭の中に、最近起きた、ストーカー事件の内容が浮かぶのがわかった。


(お母さんは、私を心配している……)


 澪は「ありがとう」とケーキを受け取った。


 夕食を食べ終わって、弟と母親とケーキを食べていると、父親が帰宅した。


「澪、登校日、お疲れ」


 手には、母親と同じ店のケーキ。


 《――買ってくるなら連絡してって前もって言ってたのに。話を聞かないんだからこの人は》


 食卓に座っていた母親はそう心の声を漏らしてから、父親に言った。


「――ケーキ、被っちゃったわね」


 《……嫌味っぽいな》


 父親はそう心の中で漏らしながら、頭を掻いた。


「まあ、明日も食べりゃいいよ」


(お母さんとお父さんは、お互い文句が多いけれど――でも、あたしのことも、悠斗のことも、大事にしてくれている)


 澪はケーキを頬張りながら考えた。

 ――以前は、矛盾する心の声を聞いてしまうことがストレスだった。

 けれど、最近は折り合いをつけられるようになっていた。

 人は、そんなものだ。


(――うちの家族は、善良だ)


 あの痴漢とは違う。

 

(そして、あたしとも)


 あたしが今日、人を死に追いやったことを知ったら、お母さんとお父さんはどんな顔をするだろうか。


 ぞくぞくとした、悪寒とは違う感覚が背中に走った。

 

(――あたしは、もう“そっち側”なのかな)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。