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【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第五章 横浜】

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39.横浜

「見て! パンダまん! カラフル!」


 両手に白黒とピンク、オレンジの三食のパンダの形の肉まんを持った澪を見て、エヌは苦笑した。


「食べ歩きだろ? 同じ店で三つも買わなくても」

「あんたと半分こにしたらいいかなって……」

「その白黒、餡子だろ……」


 《肉まんじゃねぇじゃん》


 エヌは澪の袖を引っ張った。


 《俺はあっちの、“世界一”のやつがいい》


 行列ができている肉まん屋に並ぶ。確かに『世界一』の旗が立っていた。

 片手でパンダまんをかじりながら、心の声でつぶやいた。


 《……"世界一"ってさ……どこ基準なの? 肉まんの世界大会とかあるの?》

 《知らねぇけど。あるんじゃねぇの》

 《もう少し真面目に答えてよ》

 《……あとでチャッピーに聞いてみるよ》

 《いま聞いてみたら……あ、列動いた》


 列を進むと、エヌは店の中をのぞきこんだ。


 《何まんにしようかな。角煮とフカヒレ、どっちがいいと思う?》

 《どっちも買っちゃえ》

 

 エヌは澪を小突いた。


 《やらねぇよ》


 言葉の裏に《半分までなら》という声が透けて見えて、澪は笑った。


 《――くれる気でしょ?》


 エヌは苦笑した。


 《隠し事できないのも、嫌だな》

 《【壁】作っても、読み取ってやるから。今のあたしなら》

 《――怖っ》


 エヌは笑いながら代金を支払って、角煮とフカヒレ、両方の肉まんを買った。

 道の端で塀に寄りかかってもぐもぐと口を動かす。


 《あと何食べる?》


 先に食べ終わったエヌが繋いでいない方の右手で、検索している。


 《北京ダッグ――食べ歩き用もあるんだって》

 《食べたことない》

 《よし、じゃあ、次はそれで決まりだな!》


 ぐるぐると中華街を行ったり来たりして、食べ過ぎてお腹が重くなるころには、二十時近くになっていた。


「ちょっと、どこか座りたい……」

「じゃあ、どっか店入ろ」


 エヌは近くのテラス席のあるカフェへ澪を引っ張った。

 店内は満席だったが、テラス席は空いていたので、腰かけて、飲み物だけ注文する。

 コーヒーを前に伸びをした……そのとき、澪のスマホの着信音が鳴った。


「……お母さんからだ」


 ――同時に、エヌの持っていたスマホも鳴る。


「――爺ちゃんからだ」


 《……どうすんの? 夕食食べたから、帰る――》

 《わけないじゃない》


 澪はエヌの手をぎゅっと握った。


 《あんたとまだ話したいし。夕食食べるだけじゃ、帰らないつもりだから》

 《――うん》


 エヌは「うん」と声に出してうなずいた。


 《でも、連絡なしだと、捜索願とか出されても面倒だろ? エムのお父さん、即出しそうじゃん。――うちの爺ちゃん婆ちゃんは、たぶん一日じゃ、やらないけど》


 《それは、そうだね……》


 澪は首を傾げてから考えた。


 《あんたの家に泊ることになった――が一番自然な気がする》

 《俺もじゃあ、送ってったついでにエムの家に泊ることになった……ってことにするか》


 二人は目を合わせると、にっと笑って、着信をとった。


「もしもし、お母さん? 心配かけてごめんね。一ノ瀬君の家で夕食食べてたら遅くなっちゃって、お祖母さんに泊まっていきなさいって言われて」

『そんな、迷惑な……車で迎えに行くわよ……』

「一ノ瀬君のお祖父さんとお祖母さんもいるから大丈夫! じゃあ!」


「もしもし、爺ちゃん? 家に来た友達の相沢さん、家まで送っていったんだけど、なんか家に泊ることになったから」

『陽真! お前は最近、勝手ばかり……!』

「来週から品行方正になるから! じゃあ!」


 同時に通話を切ると、澪とエヌは目を見合わせて、吹きだした。


「「はは!」」


 笑い声が重なった。

 すっかり空は暗かった。

 ――けれど、繁華街の店には看板の灯りが光り、土曜日の夜の街はこれからが本番という装いだった。澪は喧騒に耳を傾けながら、エヌを見つめた。


 《こいつ、本当に死ぬの?》


 《――たぶん》


 エヌに返事をされて、澪はつぶやいた。


 《ねえ、“陽真”って本当にいるの?》

 《――え?》

 《だって、あたし、あんたしか知らないよ。もしかして、あんたが本当は“陽真”なんじゃない?》

 《どういうことだ?》

 《だから、実は自分が双子の片割れだって思い込んでるだけで、実は二重人格だったりして》


 エヌは目を伏せた。


 《――そうだったら、いいな……》


 切迫したつぶやきに、澪は黙った。


 《だって“陽真”ってどこにいるの? あたし、エヌとしか話したことないよ》

 《俺が陽真の身体を使ってる間は、あいつの意識はないんだ》

 《それって、変じゃない? それなら、主導権はあんたにあるんでしょ? ――むしろ、本体……というか、その身体って、あんたなんじゃないの》


 エヌは首を振った。


 《俺の方が“能力”の力が強いからだと思うよ。陽真は、【受信】も何も、一人じゃできない。俺だけ、できる》


 それから、澪を見た。


 《で、どこで寝るんだ? まさか、一晩中、屋外ふらふらするのか?》


 澪は頭を抱えた。


 《そう、それ……どうしよう。……ホテル?》

 《ホテル……》


 あまり健全ではないイメージが脳内に共有された。

 エヌと澪は手を離すと、ばっと後ろにひっくり返る勢いで椅子を離した。

 

「どうかされましたか!?」


 店員が慌てた様子で駆け付ける。


「「……大丈夫です」」


 エヌと澪は愛想笑いをすると、机に肘をついて頭を抱えた。


「今のは、なしで……」

「うん。さすがにね……」


 澪は水を飲み干すと、つぶやいた。


「漫画喫茶」


 エヌもうなずく。


「……それがいいと思う」


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