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【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第五章 横浜】

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38.遊びに行こうよ

 ガタン、ゴトンと電車が揺れる。

 土曜日の十五時過ぎの上り電車は、並んで座れる程度の込み具合だった。

 澪とエヌは、手を重ねて横並びに座って、電車に揺られていた。


 《横浜着、十七時だってよ》

 《着いたらとりあえず、食べ歩きしようよ。中華街》


 エヌはスマホを開くと、祖父あてに連絡メッセージを打った。


『友達と出かけることになったから、遅くなる』


 二人は、澪が家に帰るから駅まで送る、と一ノ瀬家を出て、そのまま電車に乗った。


 メッセージを送信してから、エヌは澪を見た。


 《エム、お前、親に連絡入れた? お前のお父さんお母さん、すごい心配しそうじゃん》

 《一ノ瀬君と夕食食べてくるって送ったから、とりあえず大丈夫》


 澪はエヌを見た。


 《あたしがあんたと話すの、満足するまで、付き合ってよ》


 エヌは「ははっ」と笑い声を漏らした。

 前に立っていた乗客が驚いて顔を上げる。

 澪もおもしろくなって笑ってしまった。 


 《あたしたちが話してること、みんな聞こえないんだもんね。あんたもあたしも、何も話してないのに笑ってる、変な人に見られてるよ》

 《――エムって、かなりお喋りだよな。言われない?》

 《家族以外とこんなに話すの、数年ぶりなんだから……しょうがなくない?――てか、あんたもわりと話す方だと思うけど》

 《まあ、俺もふだん陽真と以外、話さないしな》

 《――陽真くんと、どんな話すんの?》

 《普通に、テレビの話とか――学校の話とか。俺たち、入れ違いで学校行ってたから》

 《入れ違いで、わけわかんなくなんないの?》

 《陽真の記憶は全部俺、見れるし。――俺も、陽真に記憶は残せるから》

 

 《でも》とエヌは笑った。


 《エムとやってたこととか、何話したかとかは、陽真は知らない》

 《陽真くんって、あたしのことは何もわからないの?》

 《――顔と名前だけ紹介しといた。“彼女”できたって……》


 それから、ぱっと顔を上げると、誤魔化すように視線を泳がす。


 《――俺、エムの家で“一ノ瀬 陽真”って名乗っちゃったし、俺がいなくなったあとで、陽真がどこかでお前とかお前の家族と鉢合わせしたら面倒だろ》


 《別に何も言ってないけど》


 澪は視線を逸らした。


 《……でも、“彼女”って紹介されたのは、ちょっと嬉しいかも》


 ぎゅっと握る手に力が入った。


 《てか、お前、櫻井に“彼女です”って名乗ったの、ビビったんだけど》


 エヌはくすくすと笑い声を漏らした。


 《櫻井からしたら、俺と謎の“彼女です”って名乗る女が意識に現れて、から揚げ食べて消えてったことになるんだよな》


 《……いやだって、名乗らなかったら謎の女のままでしょ》


 《それはそうだけど》


 エヌは笑いながら窓の外を見た。

 気づいたら、外は夕方になっていて、横浜駅まで、あと少しになっていた。


 《――横浜駅には中華街ないって、知ってたか? お前の想像している横浜は、みなとみらいだ》

 《そうなの? エヌは行ったことあんの? みなとみらい》

 《……“陽真”はある》


 エヌは視線を足元に落とした。


 《やっぱり、陽真の意識に入って、病院から離れるとかなり疲れて……、家の周りか、学校までが限界で。高校は東京で遠くなったし……》


 それから、窓の外を見た。


 《すげえ》


 澪も声につられて窓の外を見る。


 《海だ》


 外はすっかり夕焼けで、景色の先に西日に照らされる海が見えた。

 エヌは澪の手を握ったまま、子どものように身を乗り出し、窓に両手を貼り付けた。


 《俺の”お出かけ”の遠距離記録更新だ》


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