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【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第四章 陽真とエヌ】

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36.自宅へ

 十五時近くになってもエヌは土手に現れなかった。

 お腹の音に促されるように澪は立ち上がって、伸びをした。


(今日、来ると思ったんだけどな。……とりあえず、お昼食べてこよう)


 コンビニで何か買って来ればよかった、と思いながら駅前に向かう。

 ――これまではエヌと土手に座って、手をつないで、雑談をして、アイスやおやつを食べながら武藤の家を見ていたので、一日はあっという間だった。

 けれど、一人で待っている時間は、退屈で長く感じて、疲労感で身体が重かった。


 駅前でファストフード店に入り、ハンバーガーをかじりながらスマホを開いた。


(エヌの家って、この近くだよね……)


 この駅が自宅最寄り駅だと言っていたし、武藤と同じ公立中学に通っていたのであれば、家はあの土手の付近だろうか――そう思って顔を上げたとき、カウンター席のガラス窓の向こう、駅前の周辺地図に描かれた文字に目が止まった。


『一ノ瀬こども病院・小児神経センター 北口』


(一ノ瀬……)


 澪はごくりとハンバーガーを飲み込んだ。


 エヌの頭の中にあった病室のイメージ。

 やたらと羽振りのよい様子。

 

 それらが頭の中で結びついた。


(エヌの家……、病院の関係?)


 とりあえずスマホを立ち上げ「一ノ瀬こども病院・小児神経センター」とSNSで検索してみる。

 ――すると、話題の投稿に、つい最近の投稿内容が表示された。


『これ、一ノ瀬こども病院。うちの近所の病院』

 

 引用リポストされている、元の投稿は。


【未だ意識不明なのに……鬼母、出所! 懲役三年って、法律おかしくね!?】


 フォロワー0の新規アカウントによって、今朝、投稿されたものだった。

 三年半前に起きた、母親による五歳児童の殺害未遂事件を糾弾する内容。


 ――それは、ベッドに横たわる被害者の痛々しい動画から始まる、煽動的な内容の動画だった。

 被害者の児童の名前は――久留米(くるめ) 玲央(れお)。

 「レオ」という名前に聞き覚えがあった。


「――エヌ」


(これは、あんたがやったでしょ)


 バイクのひき逃げ犯人の常盤のときのように。

 この犯人の母親への批判的なコメントを集めて、エヌは攻撃する気だ。


(あたしなしで……?)


 澪はそこではっとした。

 ――今日、自分はエヌのように、イメージの世界を作り上げて、弟と共有することができた。逆に、今まで澪しかできなかったはずの、電波を介した【受信】をエヌもできるようになっていたとしたら?


 澪は残りのハンバーガーを口に押し込むと、立ち上がった。


(エヌと話をしたい。――一ノ瀬病院!)


 マップを立ち上げ、一ノ瀬病院の方向へと小走りに向かった。


 ◇


(病院に行って、エヌに会えるかな……、あいつの身体の本体は入院してるんだよね……)


 考えながら小走りで走っていた澪は不意に立ち止まった。

 目の端に、大きな塀のある住宅が入り込んだ。

 病院の裏手にある、大きな一軒家。――表札は、


(一ノ瀬……)


 澪はごくりと息を飲んだ。


(ここ、病院の関係者の自宅……?)


 「一ノ瀬病院」というくらいだ。「一ノ瀬」姓は経営関係者の家だろう。

 門構えも立派で、いかにもお金持ちの家だ。


(“陽真”としては、病院じゃなくて、外にいるはずだよね……)


 あの動画は今朝投稿されていた。

 今朝あれを投稿しているとすれば、エヌは、いつものように――“陽真”の身体で活動しているのではないだろうか。


(だったら、家を訪ねた方が、話せる確率は高い……?)


 澪はきっと門を見つめると、ブザーを押した。


『……はい。一ノ瀬ですけど……』


 上品そうな老婦人の声がした。


『こんにちは! 突然すいません! あたし……一ノ瀬 陽真くんの友達なんですけど……』


 勢いよく挨拶してから、澪はだんだん小さい声になった。


(一ノ瀬違いだったらどうしよう……)


 澪の不安をよそに、老婦人の声は『まあ』と明るくなった。


『ちょっと、陽真に聞いてみますね』


 そう言って、ぱたぱたとどこかへ行く音がした。

 ――それから数十秒後。


 ガチャリと玄関が開いた。

 現れたのは――エヌだった。



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