↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第三章 エヌとの距離】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/45

27.ピザと団らん

「澪、一ノ瀬くん、夕食はピザをとろうと思っているんだけど、いいかしら」


「うん」

「やった」


「何がいいか、選んでくれる?」


 母親は近くのピザ屋のチラシを取り出して澪に渡した。

 澪はガッツポーズをするエヌの背中に手を置いた。


 《あんたが差し向けたんだけどね》

 《……作ってもらうのも悪いし》

 《何、気を遣ったふうを装ってるのよ》


「で、どれがいい?」

「マルゲリータと、明太ポテトと、照り焼きチキンと、海老のシーフードの四種で」


 チラシに〇をつけて渡すと、母親は「ふふふ」と微笑みをもらし、スマホで注文してくれた。


「即決……」


 呆れてエヌを見つめると、彼は肩を持ち上げた。


 《前からピザ食べるなら、何食べたいか考えてた》

 《……何それ》


 澪はエヌを見つめた。

 彼と話しているとときどき感じるこの違和感はなんだろうか。

 から揚げもそうだ。


 《食べたいときに、食べられない?》


 ――いくら祖父母と暮らしているから、といったって。

 エヌの言葉の節々には違和感を感じる。

 エヌは視線を落とした。


 《……エムは察しがいいな》

 《察し――》


 どういう意味だろう。

 そう考えたときに、【壁】で【遮断】したはずの父親の心の声が飛び込んできた。


 《距離が近いじゃないか。家に来たばかりなのに》


 振り返ると、父親がエヌと手を重ねる澪を見つめていた。


 《――ちょっと、親の声を【送信】しないでよ。きついって》


 せっかく聞こえなくしたのに、と手をはらおうとすると、エヌは澪の手首をぐっと掴んで笑った。


 《きついか? ――面白いじゃん》

 《面白いってどういう意味?》

 《そのまんま》


 《澪の彼氏のやつ、俺がいるのを、全く気にしていないじゃないか》


 また父親の声が耳に入ってくる。


「お父さん……」


 澪は呆れて振り返った。

 母親が父親に声をかける。


「お父さん、スーツ脱いできたら」


  父親は首を振った。


「……いや、あとでいいよ」


 《――スーツでいるべきだろう。澪の彼氏が来てるんだから》


 《なんで。意味わかんない》


 心の声にツッコんだ澪の横で、エヌが口元を押さえた。

 今は、教室で昼休みに笑ってる普通の高校生みたいだ。

 澪はその様子を見つめて、頬が熱くなるのを感じた。


 《ちょっと、急にそういうのやめてほしい》

 《――なんで?》


 澪はエヌの手を振り払った。


「……別に」


「――ピザは十八時に届くようにしたわ。悠斗も帰ってくるし――」


 母親が少し気まずそうに、澪とエヌに声をかけた。


「お菓子でも、食べる?」


「お願いします!」


 元気よく返事するエヌを小突きながら、心の声で言った。


 《図々しくない?》

 《――でも好印象だぜ》


 エヌはまた澪の手を握った。


 父親の声が流れてくる。


 《明るい男子じゃないか。澪には、こういう男の方がいいのかもしれないな》


 父親の頭に昔の澪の姿が浮かんだ。

 保育園に通っている、五歳くらいの澪だ。

 砂場でコップに泥水を作りながら、父親に差し出した。


 《お父さん、どろみずコーヒーだよ》


 《あの澪に彼氏かあ》


 イメージが変わり、煌びやかなホテルの会場が父親の頭に浮かぶ。

 それは――結婚式場だった。

 顔はぼやけているが、ウェディングドレス姿の女性が、父親の手を取る。

 ――そのイメージはすぐに消えた。


 《ははは、さすがに、想像するのは早いか……》


 澪は頭を抱えた。


 《何考えてるの、お父さん……ほんとに》


 【壁】を作ろうと意識するが、エヌがそこにまた両親の心の声を流し込んでくる。

 次は母親だった。


 《澪が楽しそうで、本当によかったわ……》


 母親の記憶に浮かんだのは、中学時代、周囲の心の声に耐え切れず、学校から飛び出して、近所の山に駆け込んだ澪の姿だった。

 ――警察への捜索願、深夜に警察車両に乗せられて保護された、憔悴しきった澪の姿。

 

 《……こんなときもあったな……》


 澪は左手で胸を押さえた。


 記憶はさらにさかのぼる。

 そこには、もっと小さな澪がいた。


 《お母さん、どろみずコーヒーだよ》


 また砂場で保育園時代の澪が、母親に泥水の入ったカップを差し出していた。


「ふ」と横でまた、笑い声が漏れた。

 見ると、エヌが口元を押さえて、澪を見つめていた。


 《お前、どれだけ、親に泥水飲ませようとしてんだよ》

 《いや、それは覚えてない……》


 左手で顔を覆った澪に、エヌが囁くようにつぶやいた。


 《いいな……》

 

 澪は「え」と思わず口に出した。

 エヌはソファの背にもたれ、天井を見たままつぶやいた。


 《……エムは、愛されてるんだな》



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。