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【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第一章 出会いと”悪人狩り”】

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2.共犯の提案

「澪ちゃん」と名前を呼ばれて、澪の背筋に冷たいものが流れた。


 《私の個人情報、読まれた……?》


 《名前は、相沢 澪。家族は父親と母親と――弟。弟は年が離れてるんだな。――昨日の夜、弟とゲームして、今日は寝過ごしちゃったのか。――住所は》


 澪は顔を青くして、目の前のブレザー制服姿の男子を見つめた。


 《埼玉県――市、――町》


「やめて!」


 澪は思わず叫んで頭を押さえた。

 男子は驚いた顔をして、澪を見つめた。


 《悪ぃ、悪ぃ。調子に乗りすぎたよ》


 それから肩をすくめた。


 《“能力”あるのに、ガードできないんだな》


 彼は澪に手を差し出した。


 《澪ちゃん、近距離しか読めないんだろ。俺の情報、抜けるかやってみなよ》


 澪は彼の手を握った。

 自分の情報ばかり読まれるのが腹立たしくて、相手のことも知ってやろうと思った。


「あんたの名前と住所は?」


 口に出して聞く。こうすれば、言わなくても、心の中に浮かぶものだ。――さっき、彼に『住所は――』と言われたときに、澪も住所を思い浮かべてしまって、情報を抜かれたから。


 ――けれど。


 《……俺の名前は、なんでしょーか?》


 からかうような“声”が聞こえただけだった。

 

 《――なんで?》


 《ガードしてるもん。――俺の方が、力の使い方は上だな》


 澪はきっと彼を睨んだ。


 《――ムカつく!》


 《悪いね。澪ちゃんも練習すればできるようになると思うよ。――それに、俺、電波の声を拾うってのは、できないもん》


 彼はまた、口元を歪めて笑った。


 《その能力、ほんとすげぇじゃん。俺に、協力してよ》


 《協力って?》


 《だからさ》


 彼は肩をすくめると、声に出して言うと澪の手を引っ張った。


「どっかお店でも入って、話そうよ」


 そういえば、先ほどから握手のように手を握ったままだった。

 慌てて澪は手を離そうとしたが、彼の手は澪の手を離さなかった。


「おごるよ。――ほら、そこにいたら“片付け”の邪魔になるし」


 振り返ると、鉄道員や救急隊のような、制服姿の人たちがたくさんホームに来ていた。

 ホームに落ちていたはずの腕は、いつのまにかなくなり、そこには赤い染みだけが残っていた。


「――行こう」


 彼は、澪の手を改札方向へ引っ張った。


「ちょっと!」


 澪は心の中で彼に怒鳴った。


 《せめて、あんたの名前は! なんて呼んだらいいの!》


 しかし、返事はなかった。

 ――何も、返ってこなかった。彼が足を止めて、澪も足を止めた。

 

 《俺の名前――》


 ふと、1つの言葉が彼の中に浮かんだのを、澪は受信した。


 《”兄ちゃん”》


「は? “兄ちゃん”? それが名前?」


 彼は振り返ると、笑った。


「――うん。とりあえず、それで呼んで」


 “兄ちゃん”は澪の手を引いて改札を出ると、駅前のファミリーレストランの前に立ち止まった。


 《苺フェアやってる……”あいつ”が好きそうだな》


 見てみれば、苺が乗ったパフェやケーキの写真が並んだポスターを見つめていた。

 澪は背筋が冷たくなるのを感じた。


 《――信じられない。さっき目の前で人が死んだのに。しかも、あの痴漢を死なせたのは、あんたなのに》


 《――あいつは、勝手に死んだんだぜ?》


 はっと顔を上げると、“兄ちゃん”が澪を見つめていた。


 《俺は、周りの“声”をあいつに【転送】しただけだ》


 《でも、あんたが、やらなきゃ――あの痴漢、死ななかったでしょ》


 《まぁな。俺が追い詰めたのは事実だ。――けど、そもそも、痴漢なんかしなきゃいいんじゃねぇか》


 “兄ちゃん”は呆れたように肩をすくめた。


 《あいつ、初犯じゃねぇし。――過去に一回、警察に捕まったこともあるみたいだ》


 “兄ちゃん”は澪を見つめた。


 《俺は澪ちゃんより、人の心を深く読めるからな。あいつ、前に捕まったことがあるんだよ。今回は逃げ切れると思ってた》


 《……》


 押し黙った澪に、“兄ちゃん”は言葉を続けた。


 《それに、俺は澪ちゃんが受信した声を、あいつに送ったんだ――すげぇな、本当に。その電波受信》


 彼の心の声が上ずっているのを感じた。


 《澪ちゃん、俺とやってみない?》


 《――何を?》


 澪は本能的な危険を感じて、身体を後ろに引いた。


 《さっきの痴漢が消えて、少しはスッとしただろ》


 “兄ちゃん”は前に身体を乗り出すと、口を動かした。


「”悪人狩り”」



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