↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第二章 いじめの加害者】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/45

17.昼ご飯

 紗理奈のSNS投稿は、毎日三、四件。正午ごろの昼食と午後三時ごろのおやつ、夕方六時ごろの夕食の写真と、作業療法のレクリエーションで製作した塗り絵などの作品についてのつぶやきが多かった。


 コメントはできない設定になっているので、紗理奈の入院日記のようになっている。

 紗理奈のアカウントのフォロワーは十人程度。

 そのうちの一人を、澪はタップした。


『さくら』


 そんなアカウント名で、何のつぶやきもしていない。

 サムネイルは桜の写真。フォローしているのは、紗理奈のアカウントだけ。


 《たぶん、櫻井さんの親のアカウントかな……。閲覧用の》

 《――そんなの、わかるんだ》

 《たぶんね。県西病院のストレスケア病棟は、いちおう閉鎖病棟だから――面会もなかなかできないし、近況報告も兼ねてるんじゃないかな》

 《……入院経験者だけあるな》

 《あたしは、そういうのやらなかったけどね。スマホ見ると、【受信】しちゃうから、部屋で何にもしないで漫画読んだりしてた》


 静かで心が落ち着いた。

 ――紗理奈も投稿は休んだ方がいいのではないかと、澪は思った。


 《この子、入院してるのに、自分のことより他人のことばっかり考えてる》


 《ママとパパに安心してもらわないと》

 《ここから、とにかく出ないと》

 《お金もかかるし》

 《――さっさと消えたい。さり、馬鹿だし、迷惑かけて、生きてる意味ない》


 どの投稿にもそんな思念がよぎった。


 《――周りも、よくなったって、思っちゃうよね。何を考えてるのか、わからなかったら》


『普通食に戻ってよかった~‼ いっぱい食べるぞ』

『今日のおやつはケーキ。いちごがかわいい』


 吐き気を催すようなイメージが、そんな明るい文字列の裏にある。


 エヌが武藤理央の家を見つめた。

 家の中にいる武藤の母親の思考が流れ込んでくる。


 《さっきの、なんだったのかしら》

 《理央が、食べ物を詰め込んでくるの……》

 《あの子、まさか――》


 イメージが浮かんだ。


『お母さん、モールまで連れてって。自習スペース、レンタルしたの』


 武藤理央が母親にせがむ。


『最近は、モールにそんな場所あるのね』


『”友達”と一緒に勉強するんだ』


 武藤は含みのある笑みを浮かべた。


『その子――すっごい馬鹿だから、私が勉強教えてあげるの』


 母親は一瞬止まってから、


『……教えると、自分もよくわかるわよね』


 とだけ答え、武藤の顔から視線をそらした。


 《――理央が、悪いことなんて、するはずないわ》


 母親の思考が戻る。


 《どうしよう。気持ち悪くて、夕飯の準備をする気が起きないわ》


 澪はエヌを見た。


 《この人、娘がいじめてたの、なんとなくわかってたよね……?》


 《――たぶんな》


 エヌは眉間に皺を寄せて、土手沿いの一軒家を見つめた。

 それから「あ」と澪に視線を移す。

 

 《そうだ。エム、昼、食べてきた?》


 《……まだ》


 時刻は十三時過ぎ。聞かれるとお腹が空いていることに気がついた。


 《じゃあ、コンビニで昼を買ってこようぜ》


 エヌは立ち上がって、澪の手を引っ張った。


 少し歩いたところにあるコンビニに入る。


 《から揚げ……ポテト……》


 エヌは迷わずレジ前のホットスナックに向かう。

 澪は顔をしかめた。

 櫻井紗理奈が心に描いている揚げ物のイメージが頭に浮かび、少し気持ち悪くなる。

 武藤の母親へイメージ映像を流したとはいえ、頭の奥にざらざらとした嫌な感覚は残っていた。


 《あんた、よくそんなジャンクなの食べる気になるね》


 そうつぶやくと、エヌは口の端を持ち上げた。


 《だって。食える時に食っとかないとな》


 《……どういう意味?》


 《そのまんまだよ》


 エヌの意図は読み取れなかった。

 澪は「変なの」と肩をすくめると、保冷棚の方へとエヌを引っ張った。


 《あたし、さっぱりしたの食べたい。――お蕎麦とか……》


 澪は蕎麦とゼリー、エヌはから揚げ、ポテト、おにぎりを買ってコンビニを出た。

 櫻井紗理奈の家の前の土手に戻ると、腰かけて、買ってきたものを開ける。

 空を見上げると、青空が広がっていて、雲がゆっくりと流れていた。

 五月後半の河川敷は、暑すぎず、気持ちの良い風が流れ、芝生に咲いたシロツメ草の花畑を揺らしていた。


 《ピクニックみたい……》


 光景だけ考えれば、そんな気分になった。

 

 《天気が良くてよかったな。――長時間いるなら、椅子とか欲しいかも……》


 そう考えると、エヌがホームセンターに置いてあるような、アウトドアグッズの折り畳みの椅子のイメージを送ってきた。


 《爺ちゃんが持ってるけど、こんなんあるといいかな》

 《うん。座りやすそうだね》

 《明日は持ってくる》


 そばをすすりながら、考える。


 《……明日も、やるの?》

 《ああ。あいつらが、壊れるまで》


 エヌは武藤の家を見つめた。


 《――どれくらい、かかると思うの?》

 《わかんない。一週間くらいは、少なくとも》

 《一週間くらいかあ》

 《学校、まずい?》

 《あたしは、夜に授業聞けばいいけど……》


 澪はエヌを見つめ返した。


 《エヌこそ、学校いいの? あんた、普通に通学でしょ》

 《いいよ》


 エヌは視線を落とした。


 《学校は、俺の居場所じゃねぇし》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。