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【完結】六月になったら、君の声が聞こえない~心の声が聞こえる少女と、名無しの少年のひと月の話~  作者: 夏灯みかん
【第二章 いじめの加害者】

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11.電話

『河川敷で高校生三名が乱闘 常盤(ときわ) 蓮司(れんじ)さん十七歳が死亡。他二名は重症』


 エヌと河川敷でひき逃げ犯の常盤を『悪人狩り』した翌日。

 澪は自室で机に向かいながら、ネットニュースを読んでいた。


(あいつ、死んだんだ――)


 SNSのタイムラインには、『猫 バイク 犯人 死んだ』というトレンドワードが上がっていた。


『自業自得』

 《気分いいな》

『周囲の人も安心だろ』

 《うちの周りのうるさいやつらも死んでくれないかな》


 コメントと心の声が澪の頭の中に入り混じる。


(ほとんど、みんな肯定的)


 澪はスマホを閉じると天井を見上げて、つぶやいた。


「あたしは、良いことをしたのかなぁ……」


 それでも、すっきりというよりは、胸にもやもやとしたつっかえを感じた。

 怒声をあげながら殴り合う三人組の生々しい姿が目に浮かぶ。

 最後に見た、草むらに倒れた常盤の首は変な方向に曲がっていた。


(死ぬとき、痛かっただろうなあ)


 エヌは【送信】していたからか、殴られる常盤の感情は【受信】してなかった。

 受信していなくて、よかったと思った。

 

(あいつは、小学生をバイクで追い回して殺してる。自業自得だ)


 そう考えたとき、スマホが鳴った。

 見てみれば、エヌからの着信だった。


『――もしもし?』 


「おはよ! ニュース見たか?」


 いつも会うときは、口を動かさなくてもコミュニケーションがとれるので、会話をするのは変な感じがする。


「……うん。見たよ。――死んだんだね、あいつ」


『そう。俺が通報したんだけどさ。――こういうの、通報すると、すげぇ大変なんだな』


 うんざりしたような声だった。

 エヌのだるそうな表情が想像できて、澪は少し口元を緩ませた。


「――そうなんだ」


『そう。事情聴取に何回か行かなきゃいけないしさ。俺、学校行きたくなくてふらふらしてたことにしたから、保護者に「しばらく学校休め」って言われて、休んでんの』


「それは――、そうなるかもね」


 そう相槌を打ってから、澪は黙った。”保護者”という表現がひっかかった。


「”保護者”って、親じゃなくて?」


 しばらくの沈黙の後、エヌは少し声色を落とした。


『……祖父母ね。俺、両親いないから』


「――そう」


(両親がいない――か)


 澪は視線を泳がせた。

 なんとなく、複雑な家庭の出身のような雰囲気は漂わせていたけれど。


(確か、弟はいるんだよね……?)


 ……あたしがエヌについて知っていることは、本当に少ない。


 澪はあらためて実感した。


『――エムって、電話だと『受信』できるの?』


「ううん。できないよ。――文字情報を目に入れる必要があるみたい」


『そっか』


 しばらく無言になってから、エヌはつぶやいた。


『じゃあ、電話ごしだと、俺たちは“普通”なわけだな』


 澪は返事に詰まった。


 既に自分とエヌが関わったことで、人が死んでいるのに。

 常盤の首が、草むらの中で変な方向に曲がっていた光景が脳裏をよぎった。

 それなのに、「普通」と表現していいものか――

 しばらく考えたが、うなずいた。

 それは、心の声は聞こえなかったが、エヌがそうしてほしいと思っていそうだと考えたからだ。


「――そうだね」


『変な感じだな』


 エヌの声色が少し明るくなったのを、澪は感じた。


「今は、家?」


『そう。保護者――祖父母も心配しちゃってさ。出かけようとすると、どこ行くんだ?って』


 エヌはため息を吐いた。


『自分で通報は、そう何度もできないな。連続でやったら、確実に怪しまれるよ。やったことは――バレようがないだろうけど』


「……エヌは、まだこれからも続ける気なの?」


『――もちろん。できる限り』


 迷いのない声だった。


『エムは、やめたい?』


「――面倒なことになるのは、嫌だよ。警察から何か聞かれるとかは――」


『そうならないように、次のやり方は、もっと違う方法にする』


「――次の対象、いるの?」


『いる』


 エヌは即答した。


『次にやるって決めてる相手が、ひとりいる』


「誰?」


『――いじめをしてたやつ。――いじめられた子は、自殺未遂やら繰り返して、今も入院して戻ってきてない』


「――あんたの、知り合いってこと?」


『……中学の同級生』


「――悪人狩りっていうか、エヌの復讐ってこと? いじめられてた子と仲が良かったの?」


『――顔と名前を、知ってたぐらいだ』


「――なにそれ」


 澪は電話でのやりとりをまどろっこしく感じた。

 いつもだったら、心の声の会話で、もっとすらすらと、流れるように話せるのに。


「ねえ、あんた、外出はできるの?」


 電話の向こうでエヌが息を呑むのが聞こえた。


『どういう意味だ?』


「……直接、話さない?」


 澪は付け加えるようにいった。


「――電話、まどろっこしくて」


(会って話したい)と


 そう心の中で思ったことが、伝わらなくてよかったと思った。


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