第8話 スタンと級友達
「何でそんなに端末にかぶりついてるの?スタン君、危ないよ。」
生物の授業の移動中、同じクラスのドロシーがスタンに話しかけた。
「え、なんでって・・・。みんな、似たようなもんじゃないか?」
スタンはどきりとしつつも、何事でもないことをアピールする。実際端末を操作しながら移動する生徒は多い。ただ、スタンが少し落ち着かないのは、プログラムとのやり取りがばれるのを恐れるからだけではない。ドロシーが学校の中でもかわいい部類に入る女子で、さらに普段はスタンとの会話があまりないからだ。つまりは単純に、かわいい女子との慣れない会話に、緊張しているだけである。
「スタン君が歩きながら端末見るなんて珍しいでしょ。ノートPCだったらいつもカチャカチャやってるけど。それに端末をいっつも操作してるのって、・・・うちの学校じゃ、大体チャラい子たちじゃない。」
最後の方は周りに聞こえないように若干トーンを落としながら、ドロシーは言った。
「別に・・・、ちょっとメッセージのやり取りをしてるだけだよ。」
「へえ、彼女でもできたんだ?」
スタンが答えると、いたずらっぽくドロシーが笑う。
「違うよ。何て言うか・・・、そう、ちょっと離れたところにメル友?みたいなのができたんだよ。」
スタンが適当にごまかすと、ドロシーは
「ふーん。まあ、いいや。頑張ってね。」
と言いながら先に行ってしまった。
彼女の中では、オタクっぽい同級生がネットを介した片思いをしている、とでも理解されたのかもしれない。バレるよりはいいが、なんとも言えない気持ちでスタンが佇んでいると、またプログラムから通知が入った。
『先ほどの人物と会話している間、心拍数の上昇を確認。要因候補に【好意】あり。該当しますか。』
「はぁ!?」
予想外の質問に思わず声が出る。異性に絡む内容で意表を突かれたのはもちろんだが、ウェアラブル端末で記録されている心拍数まで学習に活用しているとは思わなかったのだ。
「どうしたよ、スタン。課題でも忘れてたのか?」
スタンの頓狂な声を聞いて通りがかった同じクラスのロブが話しかけた。
「いや、なんでもねーよ。課題もやってあるし。」
少し面倒に思いつつスタンは返す。
「正直に言えよ。やってないなら俺の写させてやるぜ。」
「やってあるっつってんだろ。やってないにしても、写させてもらうのにお前は選ばねえよ!」
スタンの言葉を受けるでもなく、ロブはケラケラ笑いながら、先に生物の教室へ向かっていった。ロブがある程度離れたのを見届けて、スタンは端末に先ほどの質問への返事をした。
「別に、ドロシーに好意があるわけじゃない。まあ、女の子のことは正直いいなって 思うけど、今のロブみたいなやりとりの方が、気楽ではあるよ。」
プログラムから特に返答はない。夕べからずっとそうだ。
「自分が聞きたいことを聞くだけなんだからなあ。ったく。」
少し悪態をつきながらスタンも生物の教室へと急いだ。




