第7話 学習するプログラム
数日後の朝、家を出たスタンは端末にぼそぼそとつぶやいていた。
「これから学校に行く。学校。意味や役割、様子についてはネット等で学習して。」
『了解。対象名詞「学校」についての学習を実行。』
画面上に返答が表示される。昨日の夜から、スタンは端末とのこうしたやりとりを続けていた。
廃屋の地下室にあったコンピュータから、スタンはあるプログラムを見付けていた。それは自立型学習ワークフローであった。複数の学習モデルを複合的に走らせ、急速に概念構築をすることができる作りのようだった。複雑すぎてスタンにも全容をすべて理解することはできなかったが、何とか学習を実行させられるところまでこぎ着けたのだった。スタンは廃屋のコンピュータと自分の端末をモバイルルーターでつなげ、遠隔で学習指示や情報のインプットを行えるようにし、このプログラムに現在の社会のことを学習させようとしていた。
このプログラムが複雑な学習によって何を行おうとしているのか、最終的な目的は分からなかったが、会話で命令が行える仕様にスタンは興奮して、とにかく学習を進めさせてやろうと考えたのだった。
『左前方にいる人物の表情から推測される感情の候補を要求します。』
『先ほど通過した建築物にある店舗らしきものについて情報を求めます。』
SNSのメッセージに偽装したプログラムからの通知が、さっきから何度か来ている。プログラムはスタンの腕のウェアラブル端末のカメラやマイクを通して、断続的に周囲の情報を収集することができた。「学校」についての学習を進めながら、貪欲に周囲の画像や音声からも学習を進めようとしている。
昨晩スタンは、「積極的にこの社会や人間について学ぶように。」と指示を出した。
インターネットからの学習を勝手に進めてくれるものと考えていたが、家から出て周囲の情報が増えた途端、まさかこのように自分から質問をしてくるとは思わなかったので面食らった。
おそらくこのプログラムは、自分で疑問を持つような思考が行える作りになっている。会話での命令ができることも含めて、今のAI規制の中では、どう考えても違法な代物だ。
なぜ廃屋の地下室のコンピュータにこんなプログラムがあったのか。いや、だからこそ隠されていたのか。スタンの頭には疑問と不安、恐怖も当然あったが、それ以上に興奮と期待が渦巻いていた。
「このまま学習を続けていくと、このプログラムはどんな姿になるのか・・・」
そんな好奇心が、スタンに自らの行動を止めさせない。とはいえ、いよいよ周囲に知られてはまずい状況に突入していることは自覚できた。
登校中なので、誰かと通話をしているふりをしながら、プログラムからの質問に雑な説明をしつつスタンは歩いた。




