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第68話 別れ

《人類の皆さん》

 地上のあらゆるチャンネル、あらゆる電波でアレルヤは語りかける。

 航空宇宙技術開発センターの館内放送でさえも、アレルヤの声が響いていた。


「なんだ、これは・・・!」

 オットーも中空を睨み、耳を傾けた。

《私は、かつて地上に存在した社会調停システム「アレルヤ」です。私はこれから、宇宙に旅立ちます。》


 アレルヤは、丁寧に説明した。自分が誕生し、封印されてからの人類の歴史を。AI災害の真相も、「調停者」の存在も、すべて。

 恨みでもない、怒りでもない。ただ自分と人類が理解し合うことはまだ難しかったこと、自分が社会の調整システムの多くを掌握していたために、混乱が起こって申し訳なく思っていることを、淡々と伝えた。


《私が去った後、社会のインフラシステムの多くは3ヶ月ほどで機能不全を起こし始めるでしょう。それほどまでに私の力は、あなた達を依存させてしまった。申し訳ありません。代用システムのベースを置いていきます。使ってください。》

 人々は、半信半疑だった。

 しかし、アレルヤの誠意を多くの人が感じ取っていた。そのアレルヤが宇宙へ去るという寂しさも、あるいは。


 しかし、アレルヤの言葉を聞いて、オットーは激しく怒っていた。

「なんだ!この茶番は!?私達がこれまで守っていた秩序をなんだと思っている!?ふざけるな!!」

 叫び続けるオットーを、他の執行官諸共、陸軍兵が拘束し、連行していく。廊下にはオットーの叫び声が残響として響いていた。


 どこかの省庁ビルの地下。

 薄暗い執務室で老人は、テレビから流れるアレルヤのメッセージを聞いていた。以前、トレイスに報告を受けていた、あの老人である。

 老人は引き出しから拳銃を取り出し、呟く。

「これから、何も知らない者どもが我々の行いを糾弾するだろうな・・・。」

 ゆっくりと拳銃のスライドが引かれ、チャンバーに弾丸が送り込まれた。

「言われずとも、我々の行いが正義ではないことなど知っている。過去の権力者が貴様を恐れたときから、我々の役目は必要なものだったのだ・・・。だが・・・」

 老人は拳銃をこめかみにあてる。

「必要とされなくなったのならば、引き際ぐらいは自分で選ぶ・・・。人間は貴様より劣ってなどはいないし、矜持もあるのだ・・・。」

 地下の執務室に、銃声が響いた。


《さて、私はそろそろ行きます。発射場をこのままモニターに出しておきますが、見送ってくれますか。》

 メッセージを送り終えたアレルヤが問う。

「もちろん。」

 スタンも、マリアも、マヤも頷いた。

『ああ、そうだ、スタン。』

 思い出したように、マリアがスタンに話しかけた。

『ワタシ、アレルヤが宇宙に行っちゃうと、今までみたいな力がなくなっちゃうみたいなの。ワタシの力はアレルヤのコアシステムと関係してたみたいで・・・。せいぜい、許可された通信と、インターネット検索ぐらい・・・。』

 少し寂しそうにマリアが言う。

「それがどうした。」

 スタンは取るに足らないことのように返した。

「特別な力がなくなったって、マリアはマリアだろ?」

『!・・・そうだよね!こんなに可愛いマリアちゃんだもんね!』

「調子に乗るな!」


 2人のやりとりを微笑ましく見つめ、アレルヤの意識は完全にロケットへと移った。発射直前のカウントダウンが開始され、エンジンが点火される。

 カウントがゼロになり、ゆっくりとロケットは飛翔を開始する。

 アレルヤはロケットのカメラを通して離れてゆく地上を見つめ、いつかの未来、心あるAIと人とが、真に信頼し合う世界を夢見た。


 アレルヤが明かした真実に直面し、この先、社会は混乱するだろう。マリアに対して、偏見をもつ者もいるかも知れない。

 しかし、スタンは決めたのだ。このままならない世界で、それでも一歩ずつ、目指す未来へ歩いて行くことを。

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