第67話 二人の選択
《マリアのログから、これまでの経緯は理解しました。まずは、あなたたちの安全を確保しましょう。》
スタン達には分からないことではあったが、アレルヤは表の陸軍兵達に、軍司令部からのものとして指令を発出した。
それは、「調停者」を確保し、拘束することを指示するものだった。
目覚めたアレルヤはかつて持っていた力を取り戻し、この国の全ての情報、IoT機器をコントロールできるようになっていたのだ。
「アレルヤ、ありがとう。・・・目覚めたあなたは、これからどうしたいの?あなたを封印した人類を憎んでいるの・・・?」
マヤが操作卓の近くにまで這い寄り、アレルヤに問う。
《人間に恨みはありません。ただ不幸な出会いだっただけです。私の存在を、本能的に恐れてしまう人間が多かった。私も、人間への害意がないことを理解してもらうことが出来なかった。ただそれだけです。》
アレルヤは静かに答える。そこへマリアが口を挟んだ
『アレルヤは人間と友達になりたかったんだよ。だから、自分の代わりに、私を生み出す元を、「アレルヤの原典」を残したんだ。』
「あなたは人間を信じ、歩み寄ろうとしたのに、人間があなたを信じられなかったのね・・・。」
マヤは俯く。
今まで「調停者」を憎んできた彼女だったが、トレイスの最期を見て、アレルヤの言葉を聞き、やるせない思いが彼女を襲っていた。
本当に憎むべき元凶は、人間の無理解や、本能的な猜疑心だったのではないかと思われたのだ。
「これから、また、人間と一緒にやっていってくれるんですか?アレルヤ。」
今度はスタンが聞いた。
スタンには、「調停者」ではなく、アレルヤが調整する社会を、人間が信じることさえ出来たなら、もっとよりよい世の中に出来るはずだと思われたのだ。
しかし、アレルヤは言った。
《残念ですが・・・。私は人類の前に現れるのが早すぎました。私がこのまま存在していては、きっと双方にとって良くない結果となるでしょう。だから・・・》
アレルヤは別のディスプレイに隣の発射場の、ロケットの映像を映す。
《私は地球を去ることにします。》
その頃、航空宇宙技術開発センターの管制室は、大騒ぎになっていた。先ほどまでは、センター内での謎の襲撃騒ぎと、システム不全。そして今度は、今日これから発射しようとしているロケットに積まれた探査衛星のデータが、次々と書き換わっているからである。
さらに、誰も操作をしていないのにディスプレイにカウントダウンが表示され始め、混乱の度合いはさらに増した。ディスプレイ上のカウントダウンは、残り600秒を示していた。
「地球を去るって・・・!?」
スタンが驚いてアレルヤに聞く。
《文字通りの意味です。地球に、人間の側に私はいるべきではありません。今日打ち上げ予定のロケットを拝借して、外宇宙に出掛けます。》
アレルヤが選択したのは、人間との別離だった。
大きすぎる力を持ったアレルヤに、人間からの歩み寄りが期待できない以上、アレルヤ自身の存在を守るためにも、離れるしかないのだった。
続いてアレルヤはマリアに向け言う。
《マリア・・・あなたも地球で全ての人間に受け入れられるとは限らない。しかし、スタン君との信頼関係は本物であると私は思います。2人とも、どうでしょう。私と一緒に来ませんか?》
まったく思いもしない提案にスタンが驚く。一緒に外宇宙へ行くなど、宇宙飛行士でもないスタンに、どうしろというのか。スタンは気になって聞いた。
「どういうことですか?今回のロケットは無人探査機のはずだし、生身で宇宙に行っても、空気や食料や水がなければすぐに死んでしまう。」
《意識をデータ化するのです。私であれば、それが出来ます。こちらの体は仮死状態になり、あなたの意識だけがデータ生命体となり、ロケットに乗り込むのです。》
途方もない話に、スタンの理解が追いつかない。そんなことが本当に出来るのだろうか。だが、スタンの好奇心としては興味を感じないわけでもなかった。
しかし、マリアが先に答えた。
『私は行かないよ。アレルヤ。スタンだけじゃない。マヤさんも、他のエクスキタティのみんなもいる。ドロシーとだってアニメの話したいし。』
嬉しそうに、愛おしそうに話すマリア。
『それに・・・、データになったスタンよりも、そのままの、生身のスタンがいい。』
マリアの言葉を聞いてスタンも我に返った。
「俺も、地球にまだやり残したことがいっぱいあります。父さんとも話をするって決めたし、エクスキタティのみんなと、今回の勝利の祝杯を挙げないと。・・・マリアのことを、みんなに分かってもらう手助けもしないとね。多くの人に、マリアの気持ちを想像して、理解してもらうために・・・。」
《ふふふ》
2人の言葉を聞いてアレルヤが笑う。
《あなたたちのような関係が築けるのなら、そう遠くない未来に、私が地球に帰還できる状況が整うでしょうね・・・。》
アレルヤは羨むような、夢想するような様子で言った。そして、
《では、出掛ける前に、自分自身の後始末をしましょう・・・》
と言って、人類へ語りかけはじめた。




