第65話 凶弾
マリアの操作によって、開発センターの全てのロックも解除されていた。スマートグラスを装備し、地下通路から開発センターの地下階へ続く扉を抜けたスタンは、マリアのナビに従い、廊下をひた走る。
時折、執行官らしき人物が発砲したり追いかけたりしてくるが、スーツの防弾と、マリアが防火隔壁を閉じるなどのサポートを行い、何とか振り切った。
めざす場所は近い。
『次の突き当たりを右に曲がった先!』
マリアが指示を受け、たどり着いた大きな扉をくぐる。
そこは巨大な筐体が立ち並ぶ部屋だった。部屋の中央には操作卓らしきものがあり、キーボードやディスプレイ、各種ポートが並んでいた。
「ここに、鍵のメモリースティックを・・・」
スタンがリュックからメモリーを取り出そうとしたそのときだった。
「そこまでですよ。スタン君。」
スタンが顔を上げると、筐体の影から銃を構えた男がゆっくりと姿を現した。
「はじめまして。私は執行官のオットー・ブルックス。君のことはトレイス調停官から聞いていますよ。」
声はあくまで親しげであるが、目は一切笑っていない。拳銃を持った手の指はすでにトリガーに掛かっている。
「君が使っているというAIの調子はどうですか?まんまと私の罠にはまってくれたようですが。」
『ここに居るし!銃を下ろして!スタンに何かしたら承知しないから!』
マリアが威嚇するようにオットーに突っかかる。
「なるほど、私達の会話を聞いて、様子も把握して反応することが出来るのですね。そして、今この開発センターのシステムを掌握している・・・。たいした力だ。しかし、今私が彼を撃つのを止められますか?」
今のマリアは、開発センターのシステムを自由にすることは出来るが、やはり人間の物理的な行動に干渉することは出来ない。痛いところを突かれ、マリアも二の句が継げなかった。
「俺を撃っても、マリアは消えない・・・。仲間達も居る。」
スタンも精一杯強がってみせる。しかし、オットーは優位な態度を崩さない。
「そう、その仲間が気になるんですよ。できる限り情報をいただきたいのでね。まずは君を人質にでもして、他のお仲間の身柄を押さえさせてもらいましょう。」
オットーがスタンの体を拘束しようと近づく。あと1m・・・。
「スタン君から離れて!」
通路の方から、銃を構えてマヤが現れた。スタンがそれを認識して振り向いた瞬間、オットーの銃が発射され、マヤの足を貫いた。
マヤは姿勢を崩し、その場に崩れ落ちた。オットーは素早く駆け寄り、倒れたマヤが落とした拳銃を、部屋の奥の方へ蹴飛ばす。
「ぐっ、ああぁ・・・。」
打たれた足を押さえてマヤが悶える。オットーは冷たく言い放つ。
「素人が・・・。撃つべき相手に自分の存在を知らせてどうするんですか。」
「マヤさん!」
スタンはマヤに掛け寄り傷を確かめる。直ちに命に関わるものではなさそうだが、足からは血が出続けていた。
「スタン君・・・、逃げなさい・・・。」
マヤは苦しげに言った。
『マヤさん!しっかり!』
マリアも心配して声を掛ける。スタンは必死に傷口を押さえた。
「執行官・・・!この子はただの高校生よ・・・。AIもこの子が自分で作ったものじゃない。私達の組織にも関係ないわ・・・。」
マヤはオットーに向かい、荒い息をつきながら伝える。
マヤとしては、スタンの助命を求めて言った内容だったが、オットーの反応は予想外のものだった。
「なるほど、教えてくれてありがとう。つまり、彼からはたいした情報は拾えず、殺してしまっても問題ないと言うことですね・・・。彼を処分した後、あなたから話を聞きましょう。」
そう言って、改めてスタンの頭に照準を合わせたのだ。
「なっ・・・!?」
あまりに無慈悲な行動にマヤも固まってしまう。
「ああ、そうそう。スタン君。あなたについて調べる中で分かったことなのですが、あなたの亡くなったお母様、執行官が他の人物を処分するときに巻き込まれてしまったようですね。申し訳ないことをしました。せめて、死ぬ前に真相を教えてあげようという、私なりの優しさです・・・。」
言葉とは裏腹に、オットーの顔に浮かんでいたのはサディスティックな笑みだった。自分を煩わせた相手に、より大きな苦痛を与えてから葬ろうという下卑た喜びに満ちあふれていた。
スタンは絶望と怒りで思考が停止し動けない。
『スタン!スタン!!』
マリアの悲痛な声が響く。
「さようなら。」
オットーが引き金を引く。スタンは思わず目を伏せ、マヤは少しでもスタンをかばおうと、できる限り体を起こそうとした。
そのとき、スタン達とオットーの間に1人の人物が躍り出た。
「ぐっ!」
それはトレイスだった。
スタンを狙った弾丸を受け、倒れながらもトレイスは、自身のテーザー銃でオットーを狙い撃つ。
「ぐあっ・・・!!」
痙攣し、昏倒するオットー。
胸を打たれ、床に横たわったトレイスは、血を吐きながらもスタンの方に体を向け言った。
「間に合いました・・・。スタン君・・・。」
「え・・・?なんで・・・・・・?」
スタンもマヤも、トレイスの行動に、しばし呆然と彼を見つめるしか出来なかった。




