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第61話 突入開始

 ゲイリーの演説が続いていた頃、航空宇宙技術開発センターの裏手側から、ソーレンとマリット、マヤ、そして生身のゲイリーが車で近付いていた。

 後部座席のマヤはソーレン達と合流前に、トレイスに捕まりかけたことが気に掛かっていた。追跡された様子はなく、突入についての情報も漏らしてはいない。おそらくは大丈夫だろうとは思いつつも、何か「調停者」側の対応が強化されるのではないかと、緊張せずにはいられなかった。 

 そんなマヤの内心をよそに、ゲイリーが入り口の方の様子を想像して愉快そうに笑う。

「俺の名演説、陸軍の若造どもはどんな顔で聞いてるかね?」

「あんな感じのしゃべり方が出来るなんて思わなかったぜ。」

 演説は夕べのうちに録画したものだった。ソーレンにとってもゲイリーの軍人然とした姿は新鮮だったようで、面白がっている。

「当たり前だ。俺ぁ元軍人だぞ。」

 そんなことを言い合っているソーレンとゲイリーは、パトリックの作った「クマとも戦えるスーツ」を着込んでいた。

「しかし、本当にこのスーツ、銃弾とかも大丈夫なのか?」

 ソーレンが心配そうに言う。ゲイリーは取るに足らないことのように軽く返す。

「心配すんな。銃弾なんて、当たり所だ。数発食らったって重要な場所に当たらなきゃ、そうそう死なねえよ。」


 周囲の景色が開け始める前に車を降り、4人は物陰に隠れ、静かに開発センター裏手の様子を伺った。

 裏口には「調停者」らしき男が2名、見張りに立っている。

「やはり無防備ではないな」

 マリットが用心深く様子を確認しながら言う。

「まあ、任せとけ。」

 ゲイリーは肩を回しながら散歩でもするように「調停者」に近づいていく。

「よお。」

と、声を掛けると共に大柄な体には似合わない素早さで、瞬く間に「調停者」2人を殴り倒して昏倒させた。

「さすがだぜ!おっさん!」

 脅威が排除された裏口に、ソーレン達が駆け寄る。

「他の応援が駆けつけたら、お前さんも頼むぞ」

 マリットが裏口のロックや監視カメラの位置を確認しながらソーレンに言う。

「『調停者』も当然警戒をしているだろうからここの異変にすぐに気付く。新手が山ほどやってくるぞ。」

「・・・それに、きっちり武装してるわね。」

 昏倒した「調停者」の懐から裏口の開閉認証キーを探っていたマヤが、拳銃を見付けて言った。

「・・・確認だが・・・皆、命は大切にな・・・。」

 マリットは厳しい表情で裏口のドアノブに手を掛けた。


「なんっか、感覚が気持ち悪いけど・・・速いぃぃぃ!」

 マリット達が裏口にたどり着いたそのとき、スタンは巨大な地下通路を走っていた。あの「クマと戦えるスーツ」を着て、走行のアシストを受けながら。

 ここはロケットの発射場から、航空宇宙技術開発センターまでをつなぐ通路。有人宇宙飛行の際に、乗組員がロケットに向かうための通路だった。

 今回の打ち上げは外宇宙無人探査のため、乗組員が通ることはなく、開発センターのスタッフが荷物を運ぶために利用するのみである。時折スタッフとすれ違い、驚き慌てた様子が見えるが、そんなことには構わずスタンは進む。

 基本的には世に隠れて活動するという「調停者」のスタンスが、オットーにロケット発射に絡む部分への警備増強をためらわせていた。

 ただの開発センタースタッフに、スーツの補助を受け、かなりのスピードで走るスタンを止める術はなく、見送るのみであった。走り続けるスタンは、間もなく開発センター地下の入り口へとたどり着く。

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