第60話 陽動
ロケット発射場から離れた、国立航空宇宙技術開発センター。いつもは関係者と民間の警備員がいるのみの入り口で、陸軍の部隊の兵士達が行き交っていた。
ある兵士達が今回の任務についての疑問を口にする。
「なあ、今までロケットの発射の時に、俺たちまで動員されて警備することなんてあったっけ?」
「いや、ないな。しかも俺ら一個中隊。・・・もしかしたら、テロ予告でもあったのかも知れないな。」
「でも、だとしたら警備が必要なのはロケット発射場も一緒じゃないのか?」
「俺に聞くなよ。兵隊が考えたって仕方ねえよ。任務に集中しようぜ。」
そのとき、歩哨兵の声が響く。
「警戒!車両一台接近!」
陸軍一個中隊の守る開発センターの入り口付近、道路でもない荒れ地の方から、一台のハーフトラックが走ってくるのが見えた。明らかに異常である。兵士達は銃を構える。もう間もなくトリガーに指を掛けねばならないという距離でトラックは停車した。
すると、今度はその場でぐるぐると旋回を始めた。もうもうと土煙が巻き上げられる。テロリストにしては動きがおかしい。ハーフトラックの荷台には大柄な男がしゃがんでいるのが見える。運転席の男は覆面をしているようだ。
やがて間もなくトラックは入り口の方を向いて停車した。荷台の男が立ち上がり、運転席の向こうから顔を出した。
「陸軍兵士諸君!」
スピーカーを使っているのか、大音量で荷台の男の声が響いた。
「私は元空軍少佐ゲイリー・パーカーだ!退役した身ではあるが、同じ軍人として、君らに問いたい!・・・君たちは、自分たちが今、何を守っているか理解しているか!?」
ゲイリーの姿を警備司令室のモニターでオットーも確認していた。正面から堂々と来るのは予想外ではあったが、これはもしかすると、「調停者」の情報を暴露して、陸軍を説得しようとする動きかも知れない。
「狙撃の準備をお願いします。」
陸軍とは別に配置していた執行官に無線で指示を出し、モニターを注視した。
突然、大音量で話し始めた大男に陸軍兵士達も困惑していたが、銃を向けつつも、冷静に話を聞いていた。
「君たちの後ろにある施設の中には、過去存在した超AIが眠っている!」
ゲイリーが核心を突く発言をする、オットーはすぐに
「撃て。」
と、狙撃手に命令した。
ビシッと音を立てて、ゲイリーを貫いた弾丸が地面を穿つ。一瞬後に「ターン」という長い発砲音が鳴った。
「狙撃だ!」
自分たちの部隊の物ではない発砲に、陸軍兵達が警戒を強める。しかし、すぐに違和感に気付いた。
「なぜ、あの男、撃たれたのに倒れない・・・?」
ゲイリーは荷台に立ち続けていた。新たな狙撃を恐れるような様子も全くない。なおも彼は話し続ける。
「君らも覚えがあるだろう。時折、どこからか分からない権力によって出される任務。今回の警備もそうだ。それは『調停者』という、この社会を裏で操る者達によるものだ。」
警備司令室のオットーは慌てて無線に怒鳴る。
「外したのか!?もう一度撃て!」
【確かに当てました!玉が奴をすり抜けました!】
狙撃手も困惑した声で答える。
「一体どうやって・・・!?」
オットーの混乱をよそにゲイリーの演説は続く。
「政府は、過去の超AIを隠すため、『調停者』を使って、真実を知りすぎた者を人知れず消している。誇りある兵士達よ、君らの銃はそんな権力者達を守るためにあるのか!?」
不都合な情報を垂れ流すゲイリーを一刻も早く止めようと、オットーは陸軍の部隊長に無線を繋げた。
「彼は危険分子です。あのトラックもろとも、撃破してください!」
しかし、部隊長は困惑しつつ返す。
【できません。我々に対し明確な敵対行動をしているわけでもないし、危険行動も取っていない。せいぜい過剰接近だ。それに対し、撃破など・・・】
なおも命令しようとするが、それではあの大柄な男の発言を裏付けるようなものだと気付き、オットーは思いとどまり歯がみする。
「間もなく、真実が明らかになる!そのときは、兵士諸君!権力者の命令ではなく、自分の良心の声を聞いてくれ!貴官らの誇り高い職務に幸あらんことを!」
最後に見事な敬礼を行い、ゲイリーは演説を終えた。そしてハーフトラックは向きを変え、もと来た方向に戻っていく。陸軍の兵士達は呆然とそれを見送るのだった。
しばらく離れたところで、運転席のパトリックは覆面を外し、リモコンのスイッチを押した。荷台ではゲイリーの姿が消え、例の円盤状の機器だけが残された。
「やれやれ、運転席を撃たれなくて良かった・・・。」
自分の仕事を終えたパトリックはびっしょりとかいた汗に震えながら、ひとまず安全圏へ走り去る。
「本当にふざけた連中だ・・・!これはただの嫌がらせか・・・?」
怒りに震えながらもオットーは思考を巡らせる。
「いや、こんな嫌がらせに意味はない。・・・他の動きをごまかす陽動か!」
気持ちを切り替え、すぐに開発センターの監視及びメインシステムをチェックし始めた。




