第58話 決戦の朝
ロケット発射当日。
オットーはコーヒーを飲みながら、不穏分子の襲来に備えて固めた、航空宇宙技術開発センターの警備体制について確認し、満足げな笑みを浮かべていた。
まず、人員の増加。周辺の陸軍基地から歩兵部隊が配備されていた。ロケットの打ち上げと観覧会場の警備という名目で。
そして、通信制限。ロケット管制に差し障るという理由で、個人の端末の使用が制限されるという会場でのきまりが急遽観覧参加者に伝えられた。これにより、電波をモニターして、通信を用いている人間を割り出しやすくするねらいである。
さらに、ハッキング対策。開発センターの通信防壁を強化し、簡単には侵入できないようにしてある。また、重要設備は外部ネットワークから切り離し、一部を除きスタンドアロン運用に変更された。
「おそらく不穏分子は今日のロケット発射前後を狙っているのだろう。人の出入りも増え、他のトラブルに対応する余裕がなくなる妥当なタイミングだ。しかし、予想できれば迎え撃つのも容易だ。」
開発センター内に設けられた警備司令室で、オットーは自信を持って、しかし油断なく待ち構える。
「それじゃあ、行きましょう。」
マヤの言葉で、スタン達はそれぞれ動き出す。開発センターの警備が強化されているのは、事前の調査で十分分かっていた。「調停者」としても、躊躇のない排除行動を取ってくるだろう。しかし、入念な準備と、マリアを助けたいという思いが、恐怖を超えてスタンの体を動かしていた。
ロケット発射会場と、開発センターは小高い丘を挟んで、3km程の距離にある。ロケット発射の観覧ブースは丘の斜面を利用して作られていた。
観覧ブースには午前の早い時間から多くの観覧者が集まっている。その中にトレイスも居た。
出張として来ている以上、一度はロケット発射観覧ブースに入ったという実績が必要だった。
何とかバルデニアには来たものの、おそらくオットーに言ったところで、この場での追跡には参加させてもらえないだろう。独自にスタンの居場所を探るしかない。しかし、この観覧ブースでは、通信制限が実施され、情報を集めることも出来ない。
確かに会場に来たという実績は作れたし、早々にこの観覧ブースを出て、街に戻ろうとしていた時だった。
「あれは・・・!?」
何やら大きな荷物を持って、遠くを歩くスタンの姿をトレイスは見た。傍らには大人の女性がいる。彼女がスタンを匿っている不穏分子なのだろうか。
トレイスは2人の尾行を開始した。
しばらく尾行を続けていると、2人は何事かを話した後、二手に分かれた。分かれたと言っても、そう離れた場所に行ったわけではなかった。
すると間もなく、関係者以外立入禁止の規制線の前で、女性の方がふらつく。近くに居た警備員が助けに入った。何事かを警備員と話している内に少し離れた場所に居たスタンが、規制線の中へ滑り込む。
スタンが規制線の中に侵入し、姿が見えなくなったのをそれとなく確認すると、女性は立ち上がり、警備員に礼を言って離れた。
スタンの侵入を補助し、次はソーレン達と合流するのがマヤの役割だった。
合流場所へ急ごうとすると、突然背中に何かを押し当てられた感覚があった。同時に右腕を後ろに押さえられる。
「あなたは政府に反する不穏分子の一味ですね。スタン君の行き先について、話してもらいましょうか。」
背中から囁かれた声を聞き、マヤは背筋を凍らせた。




