第57話 Ready
月曜の高速鉄道最終列車を降り、オットーはバルデニア中央駅の改札をくぐった。
その顔には余裕の笑みが浮かんでいる。移動中に、ねらい通り獲物が罠に掛かったとの報告を受けたからだ。
おそらく敵のAIは重大なダメージを負って、崩壊するのが時間の問題か、うまくすればすでに崩壊しているはずだ。後はAIのサポートを失った人間を発見し、捕まえるだけである。
手配されたホテルに入ったオットーは、ノートPCを開き、今後、どのようにして敵を追い詰めていくかを考えることにした。彼にとって最も楽しい時間である。
痛打を与えたとはいえ、彼らが国立航空宇宙技術開発センターに諦めず乗り込んでくる可能性もゼロではない。もちろんそのための備えもすでに用意を進めてある。
抜け目なくそろえた人員をどのように配置するか考えるため、国立航空宇宙技術開発センターの情報を整理しようとしたときにオットーは気付いた。航空宇宙技術開発センターのwebページが更新されているようである。
「国立の施設が、こんな時刻に更新・・・?」
小さな違和感を感じてブラウザを操作する。
「・・・・・・!?」
webページを閲覧する手が止まり、オットーは目をむく。
そこにはハッキングを受けて改変され、おそらくは『調停者』に宛てたメッセージが記されたトップページがあった。
【我々は『調停者』へ挑戦する。人々よ、『アレルヤ』を目にせよ!】
オットーには理解不能だった。なぜ、こんなにも愚かなのか。なぜ、カウンターアタックを受け、傷ついているであろうに、逃げ回らずに立ち向かってくるのか。
彼にとって理解の及ばない愚かさへの驚きは、やがて怒りへと変わった。
「いいだろう。そこまで我々に敵対したいというのなら、やってきたところを一網打尽にしてやる・・・。」
翌朝、平日にもかかわらず、バルデニア中央駅は、いつもに比べ観光客の数が多かった。外宇宙無人探査ロケットの打ち上げを明日に控えているためだった。その多くの観光客の中に、トレイスの姿もあった。
一方、スタン達は航空宇宙技術開発センターへ乗り込む準備を進めていた。今回は潜入とは少し違う。ある意味では殴り込みとさえ言える。より入念に準備を整える必要があった。
「これはねえ、運動補助外骨格に防弾防刃プレートを組み合わせたものだよ。防御力は高いし、力も強くなる。」
まだまだ発明があったパトリック。嬉しそうに紹介している。
「なんでそんなもん作ってんのか分かんねーわ・・・。」
「いやあ、人間がクマに勝てるようなスーツがあったらおもしろいなと思って・・・」
ソーレンすら若干引きながら感想を述べるのに対し、明るく答えるパトリック。
「夕べのwebページ改ざんは傑作だったな。」
「あのメッセージを、宣言だけじゃなく、現実にしてやります。」
『衛星からの映像、確保できたよ。』
マリット、スタンは力の弱ったマリアを助けて、開発センターとロケット発射場周辺の情報を収集、整理して作戦を組み立てている。
マヤは、テーザー銃を準備し、使い方を確認、撃つ練習に励む。
「よお、やってるな!」
昼過ぎにはゲイリーがやってきた。
「ゲイリー、なんで来たの?」
マヤとマリットが驚くが、ソーレンがさらっと言った。
「俺が呼んだんだよ。荒事にはやっぱりこのおっさんだろ?」
「まかせろ!今回もきっちり良い仕事してやるよ!」
豪快に笑うゲイリー。
マリットの計算では、マリアのデータが崩壊してしまうまで後2日。明日、ロケット発射に人々が沸く裏で、スタン達は行動を起こす。




