第54話 罠
トレイスとの電話を終えたオットーは考えていた。
「次期先端技術研究所・・・。不穏分子がそこを狙うとなると、偶然とは言えなさそうだな。」
確認のため、研究所の昨日の動きについて、データベースを参照する。そして、火災報知器誤作動という情報を目にして手を止めた。
「これは、おそらく既に・・・。」
オットーは彼の敵が想定以上にこの社会の真実に近づいている可能性に気づき、苦々しい顔をするが、すぐに表情を元に戻す。
「いや、逆にそれは、敵の狙いが読みやすいと言うことだ。追うばかりが能ではないだろう・・・。」
端末を操作し、配下の執行官や協力機関に指示を出す。
「大きな力をもつ者ほど、その力に溺れるもの・・・。優れたハッキング能力を備えたAIならば、餌をまいて待てば良い・・・。」
続いて、自らがバルデニア・サイエンス・シティに向かう準備を始めながら、オットーの顔には不敵な笑みを浮かんでいた。
潜入作戦から一夜明けて、エクスキタティの面々はそれぞれに情報収集にいそしんでいた。マヤとマリットは図書館に行き、歴史資料をあたり、ソーレンは地域のシニアクラブに行き、昔を知る人に聞き込みをし、パトリックとスタン、マリアは、インターネット上の情報や、侵入できそうな官公庁システムを片端からあたっていた。
ランチの時間に一度集まり、情報共有を図る。
眉唾な話も多い中、一番有用そうな情報をつかんできたのはソーレンだった。
「この街の近くにロケット発射場があるだろ?昔から深夜に分解されたロケットを生産場所から発射場まで運ぶんだってさ。シニアクラブで話したじいさんが、若い頃、それを見るのが好きだったらしくてな。」
サンドイッチを頬張りながら、ソーレンが説明を続ける。
「47,8年ぐらい前のある日、同じように深夜、ロケットみたいにでかいものを運ぶトレーラーが街を通ったらしい。でも、変だったのは、その日だけ、外出禁止令が出て、近くまで見に行けなかったってことだそうだ。家の窓から遠く、トレーラーが見えたらしいんだけど、明らかにロケットの部品じゃなくて、大きな四角い箱みたいなものだったってよ。」
話し終えたソーレンは口の中に残ったものをコーヒーで流し込んだ。
「偽りのAI災害後、すぐの頃だな。ロケット発射場の隣にあるのは国立航空宇宙技術開発センターだ。大型のコンピュータを据え置くだけの場所も設備もある・・・。」
マリットが状況証拠から、話の信頼度を推し量る。
「マリアちゃん、国立航空宇宙技術開発センターについて探ってみることって出来るかしら?」
マヤがマリアに確認すると、マリアは自信満々に答えた。
『まっかせて!超優秀美少女AIのマリアちゃんに不可能はないよー!』
ちなみにマリアは件の立体映像装置で皆と話している。先日パトリックから紹介されてから、オフィスにいるときはずっとそうだ。
さっそく調べ始めたようで、いろいろな情報やデータ経路を参照しているような仕草を見せるマリア。彼女の場合、実際にPCを操作するわけではないので、立体映像からは何をしているのか分からない。
『うーん、なかなか厳しい・・・。』
「さすがに宇宙開発の現場ってなると、防御が厳しいのか?」
スタンが少し心配になって聞くと、マリアはそれでも元気に答えた。
『うん、ちょっとね。でも!これぐらいの難しさの方が、腕が鳴るってものよ!』
またしばらく不思議な仕草を続けるマリア。しかしやがて、
『よし、あとこれだけ!』
と言って、明るい顔を見せる。そのとき、苦戦する様子を見て、PCからマリアのデータ処理を参照していたマリットが叫んだ。
「いかん!止めるんだマリア君!1」
『え・・・? !!!???きゃあああああっ!!!』
叫び声を上げてマリアの立体映像が砕け散るように霧散する。
「え!?おい、マリア!マリア!!どうした!?マリア!!!!」
スタンは驚き、繰り返し呼び掛けるが、マリアからの反応がない。
せわしなくキーボードを叩き続けるマリットが叫んだ。
「やられた!カウンターアタックだ!今、できる限りの処置をしとる!」
「マリアちゃん、大丈夫か!」
「マリアちゃん!」
「マリアさん!」
突然の攻撃に、スタン達はうろたえるしかなかった。




