第53話 使命からの逸脱
再びの月曜日の朝。
週末、お気に入りのアニメの展開が素晴らしく良かったので、ドロシーはまた、マリアと話そうと、校内でスタンの姿を探していた。しかし、やはり彼はいない。
彼のロッカーを見ながら呟く。
「やっぱり今週もスタン君いないのかあ・・・。このまま学校来ないで引っ越しちゃうのかなあ・・・。」
「スタンなら、バルデニアで見たぜ。」
突然後ろから声を掛けられ、ドロシーが驚く。
「わっ、ロブ君。急に話しかけないでよ、びっくりした・・・。え?今なんて?」
驚きながらも、先ほどのロブの言葉について聞き返す。
「スタン君を見たの?」
「おお。昨日バルデニアでさ。次期何とか研究所?のオープンデーってやつがあって、おもしろそうだから行ってきたんだよ。したら、居た。」
雑な説明ながら、スタンがバルデニアに居たということはどうやら間違いないようだ。なぜそんなところに、先週ずっと学校も休んでいるスタンがいたのか。ドロシーが疑問に思っていると、また新たな人間が話に入ってきた。
「今の話は確かですか?」
トレイス教諭である。いつもの彼らしくなく取り乱した様子にドロシーはたじろぐが、ロブはそんなことに気付いてもいないようで、暢気に返した。
「先生、ども。マジで見たっすよ。バルデニア・サイエンス・シティの次期なんとかのオープンデーに居たっす。ずっとトイレ行ってましたけど。」
とぼけたロブの返答に見合わず、トレイスの表情は真剣だ。確認をすると、
「ありがとう。」
とだけ言って、足早にどこかへ行ってしまった。
「どうしたんだろ?先生・・・。」
「さあ・・・?」
肩をすくめるロブに、ドロシーは「アンタに言ってないよ。独り言だよ。」と心の中で突っ込むのだった。
ちょうど使用されていなかった理科室に駆け込み、トレイスは電話を掛ける。
「はい、ブルックスです。どうしましたか?トレイス君。今日は君は表の仕事でしょう?」
表の仕事をしっかりこなすのも調停官の義務とでも言いたげなオットー。
「スタン君の居場所が分かりました。」
「どこですか?詳しく。」
しかし、トレイスの言葉を聞いて、すぐに態度を変えた。
「彼の級友が昨日、バルデニア・サイエンス・シティで彼を見たと。おそらく次期先端技術研究所のオープンデーに参加していたようです。」
「なるほど・・・。そうですか。」
トレイスから情報の詳細を聞いて、オットーとしては何か思い当たることがあったらしいのが、声色から感じられた。
「ブルックス執行官は行かれるのでしょう?私もお供します。」
「いけません。」
トレイスが同行を申し出るが、即座にオットーは却下する。
「あなたは表の仕事があるでしょう。私は以前、言いましたね。『表の仕事に影響しない範囲で』と。調停官が日常を乱すものではない。」
それだけ言うと、オットーは電話を切ってしまった。
トレイスをさらなる焦りが襲う。自分の手の届かないところで、教え子が殺されてしまうかも知れない。それだけの危険分子に、彼はなってしまっているのだが、しかし・・・。
そのとき、壁に貼られたポスターがトレイスの目に入った。それはまさしく天啓のように感じられた。
「表の仕事なら、文句の言い様はありませんよね・・・!」
トレイスはそう呟き、出張の許可を取りに、校長室へ走った。名目は実際の先端科学技術の現場を見学しての、教材研究。
壁に貼られたポスターには、外宇宙探査ロケットの打ち上げ観覧の情報が記載されていた。
場所は、バルデニア・サイエンス・シティ近郊、国立航空宇宙技術開発センター及びロケット発射場・・・。




