第50話 探索と危機
マリアの羞恥心という尊い犠牲を払ったおかげで、無事に出力できたキーを使って、スタンは問題の保管室に侵入することに成功した。
狭い部屋の中には何もなく、奥の壁に金庫が埋め込まれているのみだ。
「ダイヤル式か・・・。参ったな・・・。」
スタンが金庫の施錠方式を見て、困惑の声を出す。
マリアのサポートや、3Dプリンターという現在の手札をどう使っても、ダイヤル式の金庫を開ける手段はない。
『当然ながら、金庫のナンバーをデータ保存するなんて馬鹿なことはしてないみたい・・・。』
マリアも、研究所のデータサーバー内を検索して手がかりがなかったことを伝える。このままではこの潜入作戦が徒労になってしまう。
「でも、きっとこの研究所にある以上、金庫のナンバーは、責任者には伝達されてるはずだ。所長室とかに忍び込んで、資料を探すってのはどうだ。」
『それしか、なさそうだね・・・。マリットさん達に相談してみよう。』
マリアは、状況について、マリット達に共有した。
「なるほどな。たしかに、手がかりがあるとすれば所長室の紙媒体資料だろうな。」
カフェで情報を受け取ったマリットは見取り図の情報を確認しながら所長室の位置を割り出す。
「うん、同じフロアだ。その部屋から近い。ロックはカード認証と、生体認証のようだから、マリア君がいれば入り込めるな。」
マリットは確認した内容をスタン達に送った。様子を見ていたソーレンは荷物をまとめて、席を立つ。
「どうした?ソーレン。」
マリットがソーレンに尋ねた。
「予定外のことが多くなってきたからな。俺なりにサポートが出来るように現地に行くよ。マリアちゃんに、あっちの音声を俺の端末に送るように言っといてくれ。」
ソーレンはイヤホンを耳に嵌めながら、カフェを出て行った。
マリットの情報を受けて、スタン達は所長室に向かう。現在所長は、研究所内の別の場所にいるようだった。マリアのサポートで、危なげなく所長室に入ることに成功した。
「さて、どこを探せばいいか・・・。」
『まずは、そこの大きな金庫じゃない?』
マリアの言うように、所長室の壁には大きな金庫が鎮座している。いかにも重要書類が置いてありそうだ。
幸いにして、この金庫は電子式ロックなので、マリアが侵入して難なく開けることが出来た。しかし、中にあったのは大量のファイルである。
「うえ、この中から探すのか・・・。」
『仕方ないよ。ワタシがタイトルから情報のありそうなファイルをピックアップするから、一個ずつ調べてみよう。』
マリアが言うと、スタンのスマートグラス内で、いくつかのファイルを囲む赤い線が表示された。
「サンキュ。よし、見てくか。」
いざ、ファイルを見ていくスタンだが、それらしい情報はなかなか見つからない。そろそろオープンデーのプログラムの終了時刻も気になり出す頃だ。スタンに焦りが募る。
『まって!まずい!所長がこっちに向かってる!!』
「マジか!?」
スタンは急いで出したファイル類を金庫にしまい扉を閉じる。閉じると同時にマリアが叫んだ。
『もう近い!部屋を出て隠れる暇ないよ!』
・・・扉が開いて、所長が入室する。スタンはデスクの下に潜り込んでひとまず身を隠していた。しかし、所長が自分の椅子に座れば、すぐに気付かれてしまうだろう。
ゆっくり近づいてくる足音。椅子のある側へ、デスクを回り込もうとする気配・・・。
もうダメかも知れないと、スタンが諦めかけたそのときだった。
突然、所長のデスクの上にあった、内線電話が鳴り響いた。受話器を取った所長は相手と話し出す。
「はい。所長室だ。・・・うん?そんな話は聞いてないが・・・。ふむ・・・。それは困ったもんだな。分かった、私が話そう。」
受話器を置くと、所長は部屋を出て行った。
デスクの下で、スタンは深く息をつく。
そのとき、デスクの天板の裏に何か貼ってあるのが目に付いた。・・・冷や汗を拭いながら、思わず笑いが漏れる。
「いかんよなあ・・・。機密情報も扱う研究所の所長って立場の人が、そんなリテラシーじゃあ・・・。」
それは、いくつかのパスワードや番号が書かれた付箋だった。




