第49話 マリアの献身
白衣を羽織ったスタンは、一瞬目に入るだけなら、研究員に見えるはずだ。スタン自身も、そう自分に言い聞かせて、トイレを出て先ほどの扉へ向かった。なんと言っても目の前にはガラス張りのメカトロニクスラボがあるのだ。見られる可能性が高いのはどうしようもないので、堂々とカモフラージュに徹する。
マリアのサポートで、カードキーの認証はスムーズに解除された。スマートグラスの左目側だけに、にやっと笑って親指を立てるマリアが映る。
「グッジョブだし、気持ちは分かるけど、視界の邪魔なんだよなあ・・・。」
声にもならないつぶやきを飲み込み、緊張しながら鍵穴へキーを差し込む。偽造キーは素材が頑丈という訳でもないので、慎重に扱わなければならないのだ。
軽い音を立てて無事に扉が開き、スタンはできるだけ堂々と、中に侵入していった。
本人の自信に見合い、100%力を発揮できるマリアのサポートは万全だった。
研究所の監視カメラを完全に掌握したマリアによって、スタンは研究員の目を避け、目的の保管室の前までたどり着いた。ここには、物理キーと、認証カード、さらにはパスワード入力も必要なロックが施されていた。
スタンは、3Dプリンターでキー形状を読み取りながら、
「よし、マリアは認証カードとパスワードの解析頼む。」
と言い、読み取りを終えた3Dプリンターを持って、またトイレに駆け込む。さすがに、扉の前でキーを出力するのはリスクが大きいからだ。
トイレの個室でキーを出力していると、作業を終えたマリアが話しかけてきた。
『こっちは、もう終わったよ。また扉まで言ったら、すぐ開けられる。どう?さすがでしょ、ワタシ。』
「ああ、そうだな。ここまでスムーズに進むとは思わなかった。」
『予定外はロブくらい?』
「まったくだ。」
目的の場所まで後少しとあって、少し二人の雰囲気も弛緩する。しかし、突然マリアが慌てた声を出す。
『まずいかも。研究員が1人、トイレに向かってきてる。』
「ええ!?」
ここは研究員しか立ち入らない場所のトイレで、静かな分、3Dプリンターの作動音が少し響いている。このままでは怪しまれるかも知れない。
『どうしよ。プリンター止められない?』
「いや、だめだ。途中で停止する機能はないみたいだ。くそ・・・。」
『どうしよう、スタン!』
「いや、待てよ・・・?・・・『くそ』・・・。」
『?』
何事か思いついたスタンはウェアラブル端末にささやいて指示を出す。
『・・・何それ。すっごいイヤなんだけど・・・。』
げんなりとした顔でマリアが拒否の意を表す。
「他にこの動作音をごまかす方法があるか?頼むよ!マリア!」
・・・数分後、何事もなく用を足し終えた研究員はトイレから出てくる。そして、
「大丈夫かなあ・・・。あの個室に入っていた人・・・。」
と、呟いた。
『もう、本っ当、信じらんない!信じらんない!女の子にあんな音出させるなんて!』
研究員が出て行った後、マリアが半べそでスタンに抗議する。
「ごめんって。でもおかげで切り抜けられた。マリアのおかげだよ。本当に、本当に感謝してる!ありがとう!・・・あ!」
『何?どしたの?』
「いや、・・・別に、何でも。さあ、問題の保管室に急ごうぜ!」
スタンは、そう言ってマリアに気持ちを切り替えることを促す。
・・・水洗を流せば、男性が小用を足すぐらいの時間なら十分ごまかせたであろうことに気付いたのは、マリアには内緒にしておいた。




