第48話 演じる二人
「スタン君、あのロブって子、どういう子なの?潜入に問題はない?」
受付をすませたマヤが小声でスタンに聞いた。
「あいつは・・・まぁ、問題ないと思うんですけど、あの通り、なれなれしいヤツなんで、ちょっと面倒かも知れないです。学校の方では、俺が引っ越すって話だけは伝わってるみたいなんで、それはあいつに合わせときます。」
スタンとマヤが不安要素「ロブ」について話していると、その不安要素が再び近づいてきた。
「なーんか、訳わかんない間違い電話だったよ。受付済んだ?しっかしなー、スタンも来てるなんて奇遇だな。俺もさ、なんかおもしろそうだなーって思ってな、このオープンデー。だから旅行ついでにさ。奇遇ではあったけど、引っ越す前に、お前とのちょうど良い思い出作りだな!」
「ああー、そうだな・・・。あはは。」
悪い奴ではない。悪い奴ではないのだが、今、一番近くにいてほしくないヤツだと、スタンは思った。
オープンデー開始の時刻が近づいてきている。ロブがだらだらとスタン達に話し続ける裏で、マリアは研究所のシステムにハッキングし、見取り図とそれぞれの部屋の入室管理方法の情報を取得していた。その情報はすぐにカフェで待つマリットに共有される。
「お、来たな。なるほど・・・。この様子からすると・・・パトリックの言っていた部屋はおそらくここだな。」
マリットは共有された見取り図に印を付け、スタンのスマートグラスと、マヤの端末へ情報を流した。
ロブに適当に相づちを打ちながら、マヤとスタンは目配せして、めざす場所が決まったことを確認し合った。
「それでは、オープンデー参加者の皆さんは、こちらにどうぞ。」
係員が入り口ロビーでたむろしていた参加者達に声を掛ける。案内に従い、奥の方に向かいぞろぞろと人の波が動いていった。
奥に進んだところで、ガラス張りになっているメカトロニクスラボの説明が始まった。中ではロボットアームや、機械式の義肢の研究が行われているようだ。
そして近くには、「STAFF ONLY」の表示のある、スタン達が潜入しようとしている先へ続く扉もあった。見る限り、時折出入りする研究員はカードキーによる認証と、物理的なキーで開けているようだ。
「スタン君、ちょっと私、足が疲れちゃったから、向こうの壁に寄りかかって聞いてるわね。」
それとなく、目的の扉の近くへ移動するマヤ。説明が続くラボの方へ視線を送ったまま、リュックからあの3Dプリンターを取り出して、さりげなく鍵穴の読み取りを行った。続いて、装置を展開し、3Dプリントを実施しなければならない。
「ちょっと、化粧直ししてくるわね。」
人目を避けて3Dプリントをするべく、今度はそう言って、マヤはトイレへ向かった。
「スタンの叔母さん、ここに来てるのにあんまり説明の内容に興味ないのな。」
「いやあ、俺が無理言って連れてきてもらったんだよ・・・。それより、ほら、あのロボットアームすごくねえ?」
ヘラヘラしているくせに、変なところで鋭い突っ込みを入れてくるロブに、焦りを超えて少し苛立ちを感じながらスタンはごまかした。
「おまたせ。」
間もなく、マヤが戻ってきた。スッと、周りから見えないように、スタンの手に何かを握らせる。それは3Dプリンターで偽造した扉のキーだった。
スタンはマヤの目を見て頷く。いよいよこれから潜入開始だ。
「あ、痛たたた・・・。なんか腹痛くなってきちゃった・・・。」
「大丈夫?昨日私が調子に乗って牡蠣を勧め過ぎちゃったせいかしら?」
腹痛を装い、オープンデーの一団から離れようとするスタン。マヤも口裏を合わせる。
「大丈夫か?食中毒?係員の人呼んでやろうか?すいませ・・・」
「いい!大丈夫だから!!自分でトイレ行ってくるから!!」
ロブのお節介をスタンは慌てて止めた。
「はい、リュックの中に胃腸薬も入ってるから、持っていって。」
マヤが実際は3Dプリンターの入ったリュックを託す。
「はーい、それでは、次は講義室に移動しまーす。」
ちょうど、オープンデーのプログラムも次に移行するようだ。
「トイレから戻ったら合流するから、先に行ってて・・・。」
スタンはよろよろと、演技しながらトイレへ向かう。
「大丈夫か?俺付いてってやろうか?」
「大丈夫よ!ロブ君!私と先に行ってましょう!」
今度はマヤがロブを制した。
ようやく入ったトイレの個室で、大きなため息をついてから、スタンは偽装のため持ってきた白衣をリュックから取りだして羽織った。
「さて、行くか。」
ロブに狂わされた調子を戻すように、両頬を叩いて気合いを入れた。




