第5話 スタンと父
「最近、急いで下校しているようですね。スタン君。」
学校のエントランス前の廊下でトレイス教諭に話しかけられ、スタンの足が止まる。彼に説教を受け、止められたことをしている。さすがのスタンにも後ろめたさがないわけではないので、それが伝わらないように努めて明るくスタンは答えた。
「ええ、課外活動がなくなったので、早く家に帰って手伝いをしています。父子家庭ですから。」
「それは感心なことです。では・・・、ジャンクショップであなたを見かけたという情報も、何かの間違いなのでしょうね。」
「あー、新しい趣味、ですね。ソフトの開発より、高性能なマシンを自分で組んでみたくなって。」
間髪入れず具体的な追及をされ、喉の奥が閉まるような緊張を覚えた。自分でもよく咄嗟に、それらしいことが言えたと思う。トレイス教諭はあくまで穏やかな表情だが、このような話を振るということは、スタンの行動を快く思っていないということなのだろう。
「先生が心配されるようなことはないですよ。実は手伝いも、小遣いをもらって部品を購入するためで。あ、もうこの前言われたプログラムの開発もやめているので、大丈夫です。」
流れるような言い訳に、自分の口から出た言葉ながら感心するスタンであった。
「いや、まあ・・・うん。ジャンクショップの付近は、あまり学生にはよろしくない繁華街や治安の良くない通りも近いから、行く店や歩く街はよく考えるべきですよ。」
「はい。ご心配、ありがとうございます。」
注意する側とすれば若干の怪しさを漂わせるスタンの様子ではあったが、トレイス教諭はそれ以上は追及してこなかった。
この日は学校から直接廃屋に向かわず、スタンは家に一度帰ることにした。廃屋の電気系統の謎を確かめるための工具類が必要だったからである。今日こそあの廃屋の消費電力の謎を確かめてやろう、と高揚していたスタンの気分は自宅前に停められた車を見て水を差された。
「なんだよ。今日はずいぶん早いんだな。」
ため息混じりにそう呟いた後、そっと玄関を開けて家に入る。
リビングには父がいた。先ほど帰宅したという風情で、仕事着のまま、少し疲れた顔でテレビを見ている。画面の中では今度打ち上げられるという外宇宙無人探査機のニュースが報じられていた。
「おう。ただいまぐらい言えよ。」
顔を少しスタンに傾け、父は言った。
「ん。・・・なんで、こんな早いの。」
「取引先でトラブルがあってな。仕事にならんから解散になった。」
スタンは理由に納得しつつも、返事もせずに必要な工具類をまとめる。
「何してるんだ、そんなもの持って。」
常とは違う持ち物を準備する息子に、当然父は疑問を投げ掛けた。
「別に、ちょっと課題で使いたいから。」
スタンは動きを止めずに答える。
「課題ってお前、日曜大工か何かのか?」
「まあ、そんなもん。」
早く話を切り上げたい。居心地の悪さから支度の動きが速くなる。
「そんなもんて、おい、スタン!」
だんだん怒気をはらむ父の声に追われるようにスタンは家を出た。別に父が憎いわけではない。しかし、父とわだかまりなく接するには、スタンにはまだ幾ばくの時間が必要なのだろう。そして、父もまたそんなスタンに手詰まりなのだった。




