第4話 廃屋の謎
スタンは迷いなく機器を取り付け、作業を進める。良くも悪くも、幼い頃からコンピューターを操ってきた成果である。彼は、簡単なハッキングぐらいなら難なく行うことができる技術を身に付けていた。扉の電子ロックが外部ネットワークから切り離されたスタンドアロン型であることを確かめ、解錠コードを探り、10分程で玄関の鍵を解除した。
室内は蔦の間からうっすらと差し込む光に埃がチラチラと反射して動く以外、本当に静かだった。今さらではあったが、念のためにマスクをつけて、家の奥に進んでいく。
「・・・いいじゃないか。きれいなもんだ。太陽光の自家発電があって、電気も生きてる。最高の秘密基地だ!」
家の中と設備を一通り確かめて、スタンは高揚しながら呟いた。不法侵入をした流れで、不法占拠することが確定したのだ。無邪気に。
家の造りは、スタンが住んでいる家と大差ないように感じたが、物が少ない分、広く感じる。いくつかの部屋には元の住人の物であろう家具が残されていたが、大きな物はベッドくらい。むしろ、「これで泊まり込みの作業も可能」とスタンをにんまりさせた。
忘れられた廃屋。ここならば、こっそりとAI開発を続けることができそうである。学習をさせる高性能PCこそないが、電気が通っているから、自分の端末で基礎となるプログラムを組むには困らない。それに超高性能とまではいかなくても、ジャンクを買い集めて自分の組める範囲での高機能PCを据え置くことも可能だ。
その日から、この秘密基地でのスタンの開発活動が始まった。コンピュータに自ら学習させるための基礎プログラム作りを進めつつ、ジャンクパーツを買い漁り、大規模データの学習に耐えうるPCの構築に勤しんだ。
そして季節が変わる頃には、学校の高性能PCの100分の1程度の処理能をもつPCが組み上がったのだが、スタンは廃屋の秘密基地の中で一人、頭を抱えていた。
「・・・どう考えてもおかしい。」
パーツ集めは簡単ではなかったが、自分としては自信作の、なかなかの性能を持つPCが組み上がった。各モジュールは問題なく接続されているはずである。しかし、いざ動かしてみると、思った以上に動作が重い。搭載メモリの性能を考えても、もっと速くて良いはずである。
「接続に問題はないし、各モジュールにも問題なし。発熱もないよなあ・・・。あっ!」
心当たりがあったスタンは、システムログを確認した。
「やっぱりGPUの使用率も低いし、クロックも全然上がってない。・・・電力か!」
高性能なPCほど電力を食う。まさしく食うという表現はぴったりで、食べたいのに量が十分でない状態だと、動かないということはないが、食べれた分だけの働きしかしない。
原因が分かれば解決あるのみである。スタンはこの秘密基地の電力の源である太陽光発電・蓄電システムの操作コンソールへ向かった。玄関横の壁に設置された液晶は、現在の発電量と蓄電池の電力残量を示している。しかしその表示は、PCの動作不良の原因に対するスタンの確信を裏切った。
「いや、十分じゃないか。なんでだよ・・・。」
太陽光発電は天候に影響される不確実な発電方法ではあるが、今日は特によく晴れていて、蓄電残量も充分だった。スタンが組み上げたPCの性能を出し切るために、何の問題もないはずの数字がコンソールには映し出されている。
つじつまの合わない現実に多少いらだちながら、スタンはコンソールを操作して、他に何か有用な情報は出てこないかを探った。
「え?どういうことだ?」
不意にスタンは、コンソールに表示された情報の異常さに気づいた。現在の消費電力があまりにも少ないのである。今現在、スタンが持ちこんだ端末へアダプターで給電している。そして、新しく組み上げた自作PC、さらに部屋の空調まで作動させているのに、どう考えても消費電力が少なすぎる。『故障』という割にはコンソールの表示と動作に問題が見られない中、スタンの中に一つの考えがよぎった。
「え・・・、まさか、そんな・・・。」
自分自身の発想に、自嘲の笑いが起きそうにもなったが、あるいは、もしかしたら・・・。思いついた一つの仮定。それは、『この家の消費電力がはじめから偽装されている可能性』だった。




