第46話 彼の発明品
「うーん・・・、ちょっと詰めが甘いかも知れないなあ・・・。」
夕食を食べながら情報共有する中で、パトリックが呟いた。
「むう、そう思うか?マリア君の力があれば大抵のことには対応できそうだが・・・。」
マリットが頭をかきながら言う。確かにマリアがいれば、オンライン、あるいは無線でつながっている限り、大抵の機器は侵入し、操作できる。仮にスタンドアロンであっても、スタンならある程度対処可能だ。旧クラッグフェルでの件で、それだけの実力を示した。
「マリアさんはあくまでデータ上の存在だからね。物理的な世界に干渉する力は限られてしまうよ。僕は会社の仕事で次期先端技術研究所に出入りしたこともあるし、友人も研究所で働いているんだけど、あそこは機密保持のために、セキュリティはIoTの及ばないアナログも組み合わせてる。」
『確かにワタシ、物理的な鍵とかは開けられないや・・・。』
パトリックの指摘を、素直にマリアが認める。自分が味わえない食事の席での話なので、余計に実感する部分もあったのだろう。
「そうなのね・・・。確かに甘かったかも・・・。」
マヤも少し反省している様子だ。具体的な障害が想起され、場が少し暗くなる。
「なんだい?だから僕を頼ったんじゃないのかい?」
パトリックはそう言って立ち上がり、オフィスの棚の戸を開け、中にあった機械を取り出し、
「ウチの会社は、データと物理世界をつなぐ発明を、世に送り出してるからね!」
と、自信ありげにウインクをして見せた。
夕食を終え、パトリックが作った発明品の数々の紹介が始まった。
スタンに眼鏡を掛けさせながら、パトリックがうきうきと説明する。
「これはね、新型のスマートグラス。周りからは分からずに、眼鏡のレンズ上に情報を表示できるし、レンズそのものがカメラの機能を持っているから、従来の物より映像を撮っているとバレにくい。盗撮に使われそうだから、発表はまだ控えてるんだけどね。」
そう言いながら、スマートグラスと同期したPCの画面を見せる、確かに眼鏡の向いている方向が映っている。
「マジでこれがカメラ?すげえな。」
ソーレンが感心しながら言った。
「これがあれば、いちいちウェアラブル端末のカメラを、マリアに見せたい物に向けなくて良いですね。」
『すぐ試したいよ。パトリックさん、PC入らせてもらっていい?』
自分の視覚が広がるとみるや、マリアは前のめりである。パトリックに許可を取って接続すると、スマートグラスの性能を確認してご機嫌になった。
『いいね!これ!みんなと同じ物をすぐ見れるようになるのは嬉しい!』
上々の評価にパトリックも気をよくして次の機器を取り出す。
「次はこれ。これも、マリアさんにオススメかな。」
そう言って、円盤状の機器を床に設置した。
『なに?なに?』
マリアもオススメと聞いてさらに興味津々だ。
「スタン君、君のウェアラブルを、Wi-Fiからこの機器に繋げてみて。」
「あ、はい。」
パトリックに指示され、スタンは設定を操作し、機器らしき信号に接続の許可を出した。
「これでマリアさん、機器の中身をのぞけるよね?後は、自分で分かるかな?」
『あー、はい・・・はい。え、これすごいじゃん!えい!』
マリアのかけ声と共に、床に置かれた機器から、スタンと同じぐらいの大きさの、マリアの全身の映像が浮かび上がった。
スタン達から驚きの歓声が上がる。どうやら、立体映像投影装置のようだ。マリアはくるくると体を動かして見せ、実に嬉しそうである。
「すげえなあ!これも!マリアちゃんが実際にいたらこんな感じってことかあ・・・。」
「そういえば、アミューズメント施設とかでこんな機械を導入したってニュース、見たことあったかも。あなたの発明だったのね。」
ソーレンもマヤも感心しきりだ。
「映し出されるのは良いが、この映像は、マリア君の視覚とは連動しているのか?」
マリットが実用上の疑問を口にする。
『それがさ、根元に360°カメラが仕込まれてて、みんなの様子もここから分かるんだよ。超便利!』
足下を指さしながら、マリアが興奮気味に話す。
「・・・なんか、スカートの中を自分で盗撮してるみたいな位置だよな・・・。」
『もー、スタン!発想がヘンタイ!!』
カメラについて、デリカシーのないスタンのつぶやきにマリアが怒る。
「あはは、喜んでもらえて良かったよ。まあ、それは潜入には使えなさそうだけども。でも・・・、これはどうだい?」
嬉しそうににこにこしながら、パトリックが次なる機器を取り出した。A4用紙程の大きさの、薄いケースのような機器である。
「日曜大工とかしてて、ネジが後一本足りないとか、穴を塞ぐのに必要な材料があるけど、計測するのが面倒ってとき、あるだろ?そんなときはこれさ。」
パトリックは、木製のブロックを用意し、そこに開けられたネジ穴に、機器に付いているレンズ部分を押し当てた。
「レーザーで形状を読み取って・・・。」
続いて、薄いケースを展開し、箱のような状態にすると、側面のスイッチを押した。
「読み取った形状に合わせて、3Dプリントしてくれる。・・・ほら!」
機器が動き出し、10分ほどでネジ穴に合うネジが出力された。
「ふむ、この大きさでバッテリー駆動。出力もかなり早いな。たいしたものだ。」
マリットが賞賛する。しかし、パトリックは、首を振りながら、
「でも、『こんなものすぐに犯罪利用されてしまう』って、特許登録の際、当局からお叱りを受けたんだ。だから、世に出す前にかなり厳重にリミッターを掛けなきゃいけないんだ。」
と言った。
「それこそ、今のままじゃあ、鍵なんて簡単に偽造できちゃうんだよねえ・・・。」
にやりと笑うパトリック。
「いや、本当にパトリックを頼って正解だったな!すげえ発明ばっかりだぜ!」
ソーレンも笑いながら、改めて発明の数々を褒め称えた。
その後、一行は改めて潜入の手順を全員で確認し、明日に備えて、パトリックの用意した宿で体を休めた。




