第44話 バルデニアヘ
『うーん。やっぱりなんか、玄関から道路に出るまで無駄に遠くなったって感じがする・・・。』
マリアがよく分からないたとえで、不満と違和感の入り交じった声を出す。
「我慢しろよ。捕まって消されるよりマシなんだから。」
以前に比べると一瞬の間が空いて、マリアが言い返す。通信にタイムラグが発生しているようだ。
『助かったことに感謝はしてるけど、QOLって大事だよ?人間だったらストレスで生活習慣病になるよ?』
マリアとスタンのやり取りを聞きながら、マリットが半分呆れを含んだ感心の声を出す。
「まさか、あのわずかな間にバックドアを仕込んでいたとはな。」
マリアがウォズの館から逃げた先は、ついこの前忍び込んだ、「旧クラッグフェル空軍研究所」のコンピュータだった。
「『調停者』に追われ始めたときから、あの館が見つかったら、マリアが逃げられないなと思ってて。緊急避難先について考えてたんですよ。あそこなら、警備は万全だし、スパコンの性能的にも申し分なかったから・・・。」
電波の届かない地域ではあったが、研究所の施設は有線通信がつながっていたことを確認し、いつでもマリアが逃げ込めるように準備していたのだ。
「しかし、あのいたずらはやり過ぎだったんじゃないか?いまごろ『調停者』達もキレ散らかしてるかもしれないぜ?」
言葉とは裏腹に、ニヤニヤしながらソーレンが言う。
「思いついたのはスタン君でも、最後はあなたの方がノリノリだったじゃないの。・・・でも、私達の反撃の狼煙としては、悪くなかったんじゃない?」
いつもは窘めるマヤも、今回は少し楽しそうだ。「調停者」に立ち向かう決心が、気持ちを高ぶらせているのかも知れない。
「何にせよ、危機は脱することが出来たし、こちらの行動を読みにくくさせることも、ある程度出来ただろう。上出来だよ。」
マリットがまとめ、スタン達は明日のバルデニア・サイエンス・シティ行きに向けて、各自準備を整えるのだった。
「さて、ではまた出掛けるよ。ローサ。」
「行ってらっしゃい。みんな、無事に帰っておいでよ。」
翌朝、にこやかにローサに送り出され、スタン達を乗せた車は、少し離れた街の、ターミナル駅に向かう。バルデニア・サイエンス・シティへは距離があるが、鉄道が通っているので、高速鉄道で向かうことにしたのだ。
「俺とマリットさん、一応変装っぽいことはしてますけど、大丈夫ですかね?監視カメラとか。」
帽子とメガネを掛けたスタンが言った。マリットは長髪のカツラにマスクを付けている。
「まあ、大丈夫じゃないか?警察に指名手配されてるわけじゃ」
『大丈夫だよ。ワタシが途中のカメラをハックして良い感じにごまかすから!』
ソーレンが考えを言っている最中に、マリアの声がかぶる。昨日、研究所のスパコンに本体を移してからというもの、時々こういう事態が起こる。
「悪い、マリアちゃん。」
『いや、ワタシもごめん。・・・でも、こういうことよ、スタン。思い通りおしゃべりできないのはストレスなのよ!』
思いもしない当てつけを食らい、スタンも少しムッとするが、マヤが口を挟んだ。
「マリアちゃんのQOLは、まあ・・・置いておいて、このタイムラグは、バルデニアで次期先端技術研究所に忍び込むときに、ネックにならないかしら?」
ややあってマリアが返す。
『置いておいてって、マヤさん、ひどーい・・・。けど、そうだよ。このタイムラグは何とかしないと不安要素だよ!』
マヤの不安にマリアが乗っかったところで、マリットが言った。
「こういうとき、持つべきものは頼りになる仲間だよ。バルデニアにはパトリックがいる。エクスキタティには優秀な人材がそろっとる。」
新しい仲間との出会いを予感させ、一行はバルデニア・サイエンス・シティへ向かう。




